• 組織文化とOD⑤:外部課題への適応①~組織開発(OD)の実践って、どうするの?~

組織文化とOD⑤:外部課題への適応①~組織開発(OD)の実践って、どうするの?~

明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。ODメディア2023は、昨年から引き続いて組織文化についてです。

組織文化は、組織運営の中でどのように機能するのだろうか。言い換えれば、私たちは、なぜ組織文化をより良く管理しなければならないのでしょうか。これは今回の「組織文化とOD」の中で既にふれていますが、第一に、社会的統制システムとして戦略の遂行を支える、あるいは妨害するという点で重要です。すなわち組織文化は、環境の中での生き残りと適応を左右します。第二に、従業員の間における動機づけやコミットメントを促進するという点で重要です。すなわち組織文化は、適応し続ける能力を確保するための内部プロセス(活動)の統合を左右します。

シェーンによれば、文化形成の仮定は、ある意味で、グループ形成の仮定と同一であるといえます。つまり、文化というのは、共有された経験や共通の学習の結果としての思想、信念、感覚、価値の共有パターンであり、グループであることの本質なり、アイデンティティになるからです。ある程度の文化を持たなければ、それはグループではなく、単なる人々の集合体(assembly)でしかないでしょう。グループの生成と文化の形成は、同じコインの表と裏と見なすことができ、双方とも、リーダーシップ活動の結果であるといえます。文化研究としては、創業者やリーダー、あるいは新しいグループや組織の立役者の個人的意図、状況に対する彼らの独自の定義(理解)、そして彼らの仮定や価値が、どのように新しいメンバーに「状況を定義づける(理解する)ための正しい方法」として引き継がれ、共有されかつ全員に認知された枠組みとなるに至ったかを分析することが大切になります。

外的問題に対する対処は、外部環境をリーダーなりグループがどのように定義し、その中でどのように生き残っていくのかに関する意思決定と行動です。内的問題に対する対処は、リーダーなりグループが効果的な活動や心理的安定の創造を通して、定義された環境の中で生き残るためにグループメンバー間の関係を組織する方法についての意思決定と実践です。外的問題と内的問題への対処は、相互依存的です。外部環境の現実は、グループの基本的な使命や目的および主要な機能を規定します。そこでグループ(組織)は、使命をどのように達成し、それをどのように測定し、持続的成功を達成するには何が必要かを明らかにしなくてはなりません。そして、いったん、情緒や規範を形づくる内部統制システムとしての文化が形成されると、今度はそれが環境の知覚や把握の方法に影響を与えるのです。今回は、外部適応の課題を深堀していくことにします。

外部適応の課題は、変化する環境との関係で組織が対応しなければならない重要事項です。シャインによれば、それは次の5つになります。「①.使命、②.目標、③.手段、④.測定、⑤.修正」。これは一般的には、事業あるいは組織の戦略意思決定とその実践に関するサイクルとして理解されていることです。それぞれもう少し詳しく見ていくことにしましょう。「組織文化とリーダーシップ」ではかなりのページを割いていますが、論点とする主要な部分のみについて言及します。

  1. 使命と戦略
    1. なぜ我々は存在するのかということに対する共有された考え方。ほとんどの事業組織では、経済的な生き残りや成長に関するものが多いが、顧客や社会的な立ち位置を規定しているものもある。それは、自分達のアイデンティティを定義づけるものである。使命は、時として経済的な利益を超えて議論されることがある。「われわれは何か」「われわれは何ができるか」「われわれは何になりたいか」という深い疑問に関する答えを導かなくてはならない。
    2. 使命には、継続することの重要性が含まれることもある。そのような場合は、顧客や消費者の嗜好の変化に合わせて、使命を徐々に変えていく場合もある。使命を再考する上で有益な方法は、より大きな枠組みの中で自分たちの機能をとらえ直してみることである。例えば、学校の明白な機能は生徒を教育することである。しかし、新型コロナウィルスの影響が続く学校教育界は、今、「そもそも学校は何のためにあるのか?」、その存在意義を抜本的に問い直すことを余儀なくされているといわれる。すなわち、「みんなで同じことを、同じペースで、同じようなやり方で、同質性の高い学年学級制の中で、出来合いの問いと答えを勉強する」という機能だけで良いのかという問いである。
  2. 目標
    1. 使命が共有されていれば、業務目標が自動的に導き出されるものではない。使命は、精神的なもの、心に訴えるものになることがほとんどだが、目標は論理的であり、特定の合意された時間や費用の制約の中で設定され、測定可能なものとなっていなければならない。
    2. 目標で注意すべきは、使命や組織の責務と混同しないこと、組織内の力関係で妥協があり明確に特定されないことがある、というものである。また、さまざまなレベルや時間空間の捉え方も一様ではない。例えば、4半期での利益なのか、月ごとの販売数量なのか、潜在顧客の掘り起こしなのかといった目標の違いは、手段に強く影響を与えるし、生き残り戦略を左右するものである。
    3. 筆者もある企業で、「シェア目標」に固執し期待する財務成果を上げられなかった事業が、「出荷目標」に変更した途端オペレーションが効果的に回りだし、期待する財務成果以上の結果を出したという戦略決定プロセスに関わったことがあります。このようなプロセスは、事業の使命や事業環境の認識、顧客要望への対応、自社の強み(競争優位)や弱み(競争劣位)などの議論をした後に、討議メンバーの認識が徐々に変化した結果として再考されるものです。
  3. 手段
    1. 当然のことながら、グループ/組織は目標を達成する手段について明確な合意を得なければ期待する成果を生み出せない。これらの合意の特定のパターンから、組織の「スタイル」ばかりでなく、仕事・分業・組織構造・管理システム・情報システムなどの基本的構造が生まれる。これは、ポーター的に言えば「価値連鎖」です。外部適応に関する戦略的な概念とつながり、例えば「差別化」「オーバーオールリーダーシップ」などの特徴が生まれます。このような手段の学習は、組織の文化となります。
    2. 手段としての役割や資源や仕事を割り振る方法に関して出来上がった内部組織の性格は、創業者や中興の祖などの外部適応の意図と組織メンバーの相互関係性というダイナミックスを反映する。いずれにしても、目的を達成する手段は、内部環境において「財産」となるため、手段が目的を規定してしまうことはよくあることである。組織の構造やプロセスを変える(組織変革)ことが難しいのは、内部の「財産」の再配分をも求めるからである。
  4. 測定
    1. 目的が期待通りに進んでいるか、どのような時に手段の修正が必要なのかを知るには、業績を判断する合意が形成されていなければならない。しかし、財務的な尺度(例えば、自己資本比率、売上高利益率、投資利益率、株価など)でさえも経営陣で異なった見解を持っていることが多い。これは情報システムの精度の問題ではない。測定尺度に対する合意形成は、組織の上層部だけの問題ではなく、現場の仕事の仕方にも大いに影響を及ぼす。多くのステークホルダーの援助で成り立っている組織の経営陣は、資金の活用に対してステークホルダーが納得するように説得する必要があるが、現場の人たちは「現場で起こっていること」に目が向く。現場の人たちには、経営陣は官僚的で優柔不断な人たちと映る。経営陣がステークホルダーに対して配慮せざるを得ないことには思いが行かない。例えば、多くの政府の支援で成り立っている難民救済組織では、寄付の額か手続きをした難民の数のどちらが重要なのかについて十分な合意が取れていない場合、組織全体の業績や職員の満足感に重大な影響を与える。(以下続く)

 

外部適応の5つの課題を理解すると、戦略的混乱が起きる理由がよくわかりますね。

  • 参考文献 「組織文化とリーダーシップ;H.シャイン」

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。