• 組織文化とOD④:組織文化はなぜ重要なのか~ 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-202~

組織文化とOD④:組織文化はなぜ重要なのか~ 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-202~

新しい戦略を採用しようとする場合、それはその組織が持っている過去の仮定とはかなりかけ離れた仕事の進め方が必要になります。昨今のDXなどはまさにそうであり、単にデジタル技術を取り入れることでは、組織のTransformationは実現できないということが理解できます。組織文化が持っている特性を理解し、文化変革に取り組んでいこうとしなければDigital(D)活用によるTransformation(X)は実現できないのです。下手をすると組織に抵抗と混乱を引き起こします。このことを理解するために、「組織文化とリーダーシップ」から、「新技術統合の困難」という視点を見ていくことにしましょう。

職業・組織・社会への何らかの新しい技術の導入は、文化変革の問題としてみることができます。職業は、底流にある技術の周辺に、自らの習慣、価値、基本的自己イメージを築き上げます。同様に、ある特定の技術を深く習得することで成功している組織は、その技術の周辺に自己イメージをつくり上げています。技術が本質的な形で変化する時、組織や職業は新しい習慣を習得しなければならないばかりでなく、文化についての仮定を含めてより本質的な方法で自らを再定義する必要があります。このような事例は、産業界の歴史の中で何度も繰り返し現れています。

組織文化で最も強力な要素の一つは、伝統的技術から生まれた身分システム、すなわち鍵となる情報や重大な技能の保持を根底とするシステムです。このような、情報や重大な技能の保持はICTの発展と共に、多くの分野で部下が上司より多くの情報を持ったり、また以前はほとんど影響力を持たなかったグループが多くの影響力を持つようになったりすることが明らかになっています。このような変化を察知し、影響力を失わない最良の方法として、従来のパワーグループが、その技術を拒否してしまうことがあります。そして、転換期には新しい技術の価値の説得に時間を使う事が多く、また変化の過程の中で権力や地位に関する基準が曖昧なために、その変化の恩恵を最終的には受ける人たちを含めて、全ての関係者に居心地の悪さを感じさせてしまいます。従って、新技術を成功させるには、その導入による文化の変化の意味するところを最初から深く認識する必要があります。DXなどは、組織がより効率的になるという議論はなされますが、パワー(影響力、権力)の再編成の意味合いについては、ほとんど注意が払われていません。加えて、新技術は、それ自体の職業的文化をもたらすということについては、ほとんど注意が払われることがありません。日本の場合、ICT関係の技術者の地位は、他の国に比べて格段に低いように思われます。例えば、コロナ禍において日本でも有名になった台湾のデジタル担当大臣のオードリー・タン、ウクライナの副首相兼デジタル移行相ミハイロ・フェードロウなどは、若くしてパワーを保持し発揮できる地位にいます。日本では、このような年齢の人は大臣になるのではなく、その下の作業メンバーのせいぜいリーダークラスではないでしょうか。新しい技術で世界を観る人たちと、かつての技術で世界を理解している人たちの対立は、昔から繰り返し起こっているのです。例えばかつては、データ処理技術を自分の職業としている人たちは、論理プロセスが収斂型で、曖昧さを許さず結果重視であると認識され、それ故に世界は曖昧で、不完全で、不正確であると感じているマネジャーとの間で誤解や衝突を起こしがちでした。また、新時代の人たちが使う専門用語は、古手のマネジャーには理解できず、従って古手のマネジャーの「顔をつぶす」ことになり、心理的な反発を受けたりもしたのです。HONDAの空冷と水冷の技術的対立は、あまりにも有名です。この対立で、創業者の本田宗一郎さんは引退を決めたといわれるほどです。組織文化の影響は、新技術統合の困難だけでなく他にもあります。例えば、「合併・買収・多角化の困難」、「組織におけるグループ(部門)間の対立」、「非効率な会議と対面関係での意思疎通の崩壊」、「同化の失敗」、「生産性の低下」などです。

「合併・買収・多角化の困難」は説明の必要もないと思いますが、買収などでは、相手先の財務的健全性や市場地位、経営者の強みなどを検討しますが、文化的側面はほとんど検討されません。このようなことは、買収した後に「大変だ」と感じるケースが多いようです。「同化」というのは、新しいメンバーが新しい組織に順応していく過程のことです。同化のプロセスが最適に機能しない場合、深刻な影響が起こるのが一般的です。このようなことを十分に理解し、合併プロセスを上手くマネジメントしていった例として米国のシスコシステムズがあります。シスコの主力事業であるコンピュータ・ネットワークのライフサイクルは短く、さらに新製品は旧製品以下の価格で2倍のスピードを実現させなければならないという事業環境にありました。従って、社内の資源で6ヶ月以内に新製品を開発することが出来なければ、買収によって資源を手に入れるという方針を持っていました。1990年半ばから2000年にかけて50社以上もの買収を成功させるのですが、そのために必要な要件として次の2つを重要視していました。一つが、持ち株プーリング法という、株式交換制度であり、二つ目が独自の人事、報酬制度、人を大切にする文化、人材を内製化していくプロセスです。人材を内製化していくプロセスでは、シスコは、買収時に相手企業の組織文化やマネジメントスタイルを慎重に調査します。そして、シスコの文化との整合性を大切にします。その為、シスコキッズといわれるようなシスコがまだ小さかったときの文化と似たような文化をもった企業を好んだそうです。また、買収とは人材を獲得することであるということを良く知っています。技術が優れていても、価値観に反するような行動を繰り返す従業員は解雇します。要するに、シスコでは被買収企業の人材がどうしたら素早くシスコに馴染んでもらえるかを最も重視し、事業をどう進めるかはその後議論するというスタイルなのです。シスコは、組織文化が人材や組織のパフォーマンスどのように影響するかをとてもよく理解していたのですね。(続く)

  • 参考文献 「組織文化とリーダーシップ;H.シャイン」

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。