チームの底力を上げるには?

最近では、新しい事業を生み出していこうという流れの中で組織やチームを設計することが増えてまいりました(参考:組織設計の際に押さえるべき2つのホポイント)。まずはどんなチームであるべきか?どんなマネジメントや運用をしていくべきか?などなど設計上の課題はもちろん多岐にわたりますが、全員が共通して悩む問題は「チームはあるが、チームワークがない」ではないかと感じております。今回はハイパフォーマンスチームへと成長を遂げていくためには、どんなことを意識する必要があるのか、について論点を整理してみました。「新しい部門で成果創出を命じられた」「立て直しを命じられてある事業の責任者になった」などのお悩みを持たれている方も多いと思いますが、是非チームを機能させるポイントのチェックとしてご一読ください。

何故、箱だけでは動かないのか?

チームを作るときに、大体多くの場面で

 

チームミッションはこうだ 

そのためにこうしたことを重点方針にしよう 

そのために〜〜さんには、こういった役割をお願いしよう、と役割分担する

マネジメントのための業務ルールを決める(入力事項や提出物など)

 

こうした流れを経て、検討を進めていくかと思います。この流れはチームという一つの「箱」を作る上では理にかなっており、セオリーも踏まえていると言えます。ではその設計ができたとして、あとは実行あるのみ、かと言うと実はそうではありません。意図した通りにメンバーが動かない、という実行上の問題が次に待ち受けています。

なぜ「箱」を作っても動かないのでしょうか?そこには、マネジメントについての一つの信念があります。その信念とは「やることやルールを明確に決めれば人はそのパーツであり、実行できないのは人のやる気か能力の問題だ」とするマネジメントパラダイムです。

このパラダイムの起源を探るならば、それは「科学的管理法」と呼ばれるものです。そこではフォードに代表されるように、生産プロセスを分業を通して効率化し、人はそれを成立させるためのパーツとして機能するという考え方です。当時の時代背景ではそうしたことが自動車を普及させる上での競争優位にも明確につながり、現場の従業員の不満があることを前提にしたとしても、「指示命令に従ってさえいれば良い」という大きな前提がありました。そしてそれがよく機能していた時代だとも言えます。

しかしこれは、ご承知の通り、過去に通用したパラダイムで、現在のビジネス環境は当時とは全く異なっている状況です。しかし現在の環境認識を前提にしても、なぜか過去のマネジメントパラダイムによって組織づくりをしているケースが多くあります。

過去との大きな違いは、

・環境変化が当たり前(不確実性が高い)

・価値観の多様性は当たり前

の2点です。こうした違いがあるにもかかわらず、「やることやルールを明確に決めれば人はそのパーツであり、実行できないのは人のやる気か能力の問題だ」というマネジメントパラダイムだけを駆使していると、以下のような事態になります(過去のプロジェクト経験から)。

  • 方針に従えば良い、とだけ考える依存的な態度が生まれる
  • 環境変化に伴い、チーム方針が有名無実化しチームとして日々変化していく細かなことがらに対応できなくなる
  • チームとして対応できない現実を受けても、チームに変化を起こすための改革提案ができなくなる(人は現在の意見に対立的な意見を言うことには消極的になるという認知的特性を持っています。)

こうした事象を踏まえると「箱」だけでは動かないのも当たり前とも言えるでしょう。誤解がないように付記すると、「箱」を作るのは重要なタスクです。これがなければチームでもなんでもないただの集団になってしまいます。ようはそれをどう機能させるか、という課題があるという話です。

要は、チームを作っていく過程では、「箱」というハード面と「機能する」というソフト面の2側面が重要で、それにうまくアプローチをする必要がある、ということと言えます。

チームを機能させる鍵〜チーミング〜

それでは、どのように進めていけばチームが機能するようになるのでしょうか?

ハーバードビジネススクールの教授であるエイミー・エドモンドソン教授が非常に示唆に富む「チーミング」という概念を提唱してくれています。(参考図書:チームが機能するとはどういうことかー「学習力」と「実行力」を高める実践アプローチ)この中で、彼女は、以下のような区分けを提示し、チームのソフト面の重要性を訴求しています。

・チーム = 共通の目標を目指して協力する固定されたグループ

・チーミング = それは固定された集まりではなく、常にチームワークを実践し続ける動的な活動

 

チームの実行力を高めるためには、チーミングという活動を生み出す必要があり、その鍵は「(チームの)学習力」が大事だと言う考え方です。今日の複雑化し変化が常態であるビジネス環境においては、不確実性が高まる一方です。そうした環境の中で新しい対処法やスキルを学び、常にチームとして学習していけるかが成功の鍵となります。

そのように考えるとチームを機能させるというソフト面へのアプローチは、チーミングやチームとしての学習力それ自体を具体化する作業だとも言えるでしょう。

チーミングの4つの展開

①学習するための骨組みを作る(フレーミング)

学習を促進するためには、チームメンバーがチームとして学習し、進化していく、ということに関して協働する意欲を持てるようなフレーミング(枠組み作り)が絶対に重要だと言えます。人間は心理的な特徴として、責任を回避したい、対立から生まれるストレスを回避したい、などの認知フレームを元来持っています。そのためチームとして自然に生まれるフレームは自己防衛的になります。(反対意見を言わないのが当たり前、失敗やミスをできるだけ明確にしない、または隠す、など)

そうではなく、悪い情報ほど早くあげ、それをチームとして歓迎する、対立を賞賛する、などの行動を「当たり前」として位置付けることが重要な一歩になります。

※読者の皆様は行動ガイドラインなどを策定したご経験もあるかもしれませんが、チーム学習を促進するためにそうしたことを規定するのがフレーミングです。

②心理的に安全な場を作る

心理的に安全な場を作るとは、メンバーが不安を感じることなく自由に考えや感情を表現できる雰囲気を醸成するということです。Googleのあるプロジェクトの中で、「心理的に安全な職場」と「職場の生産性(パフォーマンス)」に相関関係が見つかったというのは有名な話です。

簡単なことのように見えて、とても難しいのは、気軽な質問や助言を求める行動は、同僚からの蔑みを生むのではないかという不安と隣り合わせだ、ということです。こうした雰囲気を本当に作るためには、自分自身の言動や他のメンバーの言動に細かく注意を向けることが大切です。

③失敗から学ぶ

多くの場合、失敗は隠されます。これも同僚からの叱責・蔑みや同情をうむという恐れからくる本能的な行動であって、失敗を認めたがる人はほとんどいません。しかし同時に失敗は、チームパフォーマンスに向けて「新しい洞察」を得るための重要なチャンスとなります。

失敗に接した時に、反射的に叱責や非難に走るのではなく、その背景を省察する癖付けが非常に重要です。

④職業的・文化的な境界をつなぐ

自分たちのチームに対して特別なものだと思うのが人情です。無意識的に自分たちの仕事やチームに対して特別扱いをし始めます。しかし今日の不確実性の高い環境下では仕事を進める上で必要な考え方やスキルは、自分たちのチームの外に存在していることが多々あります。それは他部署やプロジェクトであったり、社外であったり、文化や国籍を超えた集団かもしれません。こうしたことに常に目を向けて、学習の促進に必要な情報にアンテナを立てておくことも大切な努力です。

重要なのはリーダーシップ

これまで見てきた、チームのソフト面を機能させるための「チーミング」とその4つのポイントですが、もうお分かりかと思いますが、これを実践する上で最も大切なのはリーダーシップです。まずは、チームのリーダーが率先してそうした働きかけをしていくことがチームの「底力」をあげる上で非常に重要な行動となります。

一方で、リーダーシップはリーダーだけが発揮するのではありません。そうしたことをメンバー一人一人が理解し、周囲に働きかけていく、こうした行動力を鍛えることもチームを機能させていく上で外せない考え方になります。

以上見てきたように、チームの底力を上げるためには、日々の努力とリーダーシップ行動が重要になります。自分のチームのパフォーマンス改善に悩んでいる方は一度こうした考え方を実践してみてはいかがでしょうか。