• 組織文化とOD①:プロローグ~ 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-199~

組織文化とOD①:プロローグ~ 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-199~

ちょっと前、22年の4月が始まる頃、「なるほど、若手の意識も変わっているのね」というニュースに接しました。それは、ホワイト企業から若者が退職しているというニュースです。その理由として挙がっていたのは「上司が面倒見てくれない、構ってくれない」「スキルが身についていないような気がする」「(漠然と)このまま居続けても成長できないと感じる」というようなものでした。

リクルートワークスの大企業で働く新入社員を対象にしたアンケート(2021年11月インターネットで実施、n2680)で、離職する理由の一つに「ゆるい職場」というものがあったそうです。新入社員の労働時間は、ここ20年で確実に減少し、1999年~2004年卒の残業時間は週49.6時間だったのが、2019年~2021年卒では44.4時間となっています。まぁ、直近はコロナ禍の中で過ごしていますので、単純比較はできないかもしれませんが、残業時間は着実に減っているということですね。また、仕事の負荷感についても、仕事量、仕事の難易度、人間関係のストレス、全ての項目で負荷が低下傾向にあったようです。叱られたことがない新入社員も年々多くなっており、直近では25%の新入社員が叱られたことがないというデータもあります。要するに、最近の職場は「休みがとりやすい」「副業や兼業をする人に肯定的である」「失敗が許される」というように、働き易い職場になっているのです。しかし、これが「ゆるい職場」と認識さてもいます。もちろん、このような環境変化は、労働に関する新しい法律の施行と無関係ではありません。2015年には若者雇用促進法が施行され平均残業時間などの公表が義務付けられました。2019年には働き方改革関連法により労働時間の上限規制が大企業を対象に適応され、2020年にはパワハラ防止法も施行されました。ところが、このような働き易さを目的にした職場環境の変化が、若者に対しては「不安」を生む原因にもなっているようなのです。直近の新入社員の48.9%が「このままでは、自分は別の会社や部署で通用しなくなるのではないかと感じる」と回答しています。そしてさらに深堀してみると、最近の学生は入社前の社会活動経験が以前に比べて増えているのです。直近の学生で社会活動経験をしていない学生は27.5%まで減少しています。要するに、社会活動経験をすることにより、職場や仕事への向き合い方が以前の若者とは異なってきているのです。しかしながら、だからといって昭和的なブラックといわれる職場環境に戻せばよいかというと、そうではないでしょう。改めて「責務:accountability or standard」ということの意味を問い直していくことが求められていると思うのです。日本の大企業では、A.エドモンドソンの心理的安全という概念がここ数年の中で使われてきていますが、これもどうも「ゆるい職場づくり」を助長する中途半端な理解になっているのではないか危惧するところです。心理的安全については、すでにODメディアに掲載していますが、そもそもは高い業務基準や倫理観に基づく仕事をしていくには、職場メンバーが抱いている心理的不安を表明できる環境が必要というものです。メンバーに優しくするとか、自分らしくあることを奨励するとかというものではありません。心理的安全だけに注目すると、上司側もパワハラを気にして強く指導できないようになり、ぬるま湯職場をつくることにもなりかねません。心理的安全は、高い業務品質を達成するにはメンバーが互いに聴きあい、言うべきことを言い、切磋琢磨する関係の中にこそ「学習する風土」ができるというものです。結構難しいテーマだと思われていたのですが、今回のような「ゆるい職場」ニュースを聞くと、職場環境って意外と変わりやすいものだと思ってしまうのですが、どうなのでしょうか。

 

若手の指導育成というのは、経験がある方が多いと思うのですが、結構手間暇がかかるものです。職場生活や先輩・同僚との人間関係から始まり、仕事の仕方・事務関係の手続き、お客さんとの付き合い方など、何を学んでいかなくてはならないかを、あらゆる機会をとらえて教えていくのです。このような過程は「社会化」と呼ばれます。新入社員が、その組織に馴染んでいく過程を「組織社会化」と呼ぶこともあるようです。因みに、社会化とは、社会学の用語で、子供や、その社会の新規参入者が、その社会の文化、特に価値と規範を身に付けることを指します。遺伝子により先天的に獲得されたものではなく、学習により後天的に獲得されるものです。ですから、社会化とは、その組織特有の文化、すなわちその社会が有する生活様式全般を学んでいく過程でもあるのです。この過程がうまくいっていると、組織としては次なる組織の担い手を育成することになりますし、担い手を期待される側にとっては効果的にその組織に馴染むことができ、価値ある人材としての自己認識も高まり、自信をもってキャリアを積んでいくことができます。ところが「ゆるい職場」は、このプロセスがうまくいっていないということですね。法律のせいとは言いませんが、働き易い職場を目指した、良かれと考えて施行した様々な取り組みが、実は若手には逆効果だったという皮肉です。そしてこれには、学生の社会活動経験の豊富さという、社会とのかかわり方の変化もあるのです。新しい施策はほとんどの場合、ある出来事が続き、現状の制度や慣習がそれに十分対応できていないから、いろいろ議論した結果として遅れて実施されるのであり、その施策が施行される段階ではすでに異なる現実が表れているのですね。組織活動や私たちの思考と行動が、もっと素早く対応あるいは適応していくにはどうしたらいいのでしょうか。いわゆるアジャイルな思考と行動に変わっていくには、何が求められるのでしょうか。次回から、組織文化とODという視点から、そのことを考えていきたいと思います。(続く)

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。