• 成功循環モデルから学ぶ⑤~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-198~

成功循環モデルから学ぶ⑤~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-198~

「成功循環モデル」からODを学ぶは、最後に回り回って「関係の質」に戻ってきました。「関係の質」については、いろいろな研究が為されていますが、ここではビオン理論をベースにし、個人の能力開発では解決しない関係性の問題を見ていきましょう。

ビオン理論とは、ウィルフレッド・ループレヒト・ビオン(イギリスの医学・精神科医、精神分析家:1897年 ~1979年、メラニー・クラインに師事する)が提唱する集団心理に関する理論です。集団心理に関する有名な研究者にユングがいますが、彼は人間の無意識にはフロイトのいう「個人的無意識」を越えた人類や民族に普遍的に共通する神話的/宗教的モチーフ(題材、主題)のような「集合的無意識(普遍的無意識)」があると主張しました。

ビオンはユングよりも更にユニークで画期的な無意識観を表明して、「集団自体が独自の意識及び無意識の領域を持つ」と考えたのです。ユングの主張する無意識の所有者はあくまで個人ですが、ビオンは無意識の所有者として人間集団そのものを考えたところに特徴があります。とても難解な理論ですが、ビオンが言っている言葉をそのまま使って説明します。ビオンは、「個人内力動(個人の心的過程)」と「集団の無意識」は絶えず相互に作用して影響を与え合っていると考え、集団に帰属する個人の精神病理や心理状態は、その集団の意識や無意識と切り離して考えることが出来ないと述べています。ビオンの集団精神療法の定義に従うと、集団の意識領域は「作業集団:work-mentality」と呼ばれ、集団の無意識領域は「基底的想定集団(基礎仮定集団):basic assumption-mentality」と呼ばれています。そして集団は、常にこの無意識領域(basic assumption-mentality)に影響を受けるというものです。ビオンは基底的想定集団の基本原理は「一次過程(快感原則)」であるとして、基底的想定集団が優勢になり過ぎると、メラニー・クラインが分類した原始的防衛機制(分裂・投影同一視・取り入れ・理想化・脱価値化)が盛んに使われるようになり、非合理的で非現実的な精神病圏の精神現象が各メンバーに発現しやすくなると考えました。基底的想定集団によって規定される集団の特徴には、「依存、闘争/逃走、ペアリング」の3種類があります。以上をかいつまんで言うと次のようになります。

 

  • ビオン理論は集団の無意識層に焦点をあてた理論である。
  • 集団は常に、課題を意識的にうまくやろうとする「意識的に仕事をしていく側面(work-mentality):A領域」と、周囲との関係性を気にして、時に「幻想に怯えたり不安を感じたりして仕事をしている側面(basic assumption-mentality):B領域」がある。
  • A領域とB領域が分かれている場合、集団は生産的な行動を取ることができるが、A領域とB領域が重なる、別の言い方をすれば、B領域がA領域を侵食すると、集団は不安や恐れを解消しようとする行動に忙しく、生産性を落としてしまう。そしてこの不安や恐れを解消しようとする行動(集団としての防衛行動)は無意識的に出てくるので、当事者が意識的に是正しようとしても難しい。
  • 不安や恐れを解消しようとする行動は、これが強くなると典型的に以下の3つの行動に現れる。
    • リーダーの権威が強大な場合、集団はリーダーに対する依存という関係をつくる。特に、服従的な存在を示す集団では、カリスマ性や野心や能力の強い個人が集団の指導者になろうとして活発な権力闘争を始める。
    • 権力闘争の段階に入ると、主流派(リーダーに依存する派)と傍流派(リーダーに反依存する派)に分かれ、主流派は傍流派を叩こうとし、傍流派はそこから逃げようとする。これを「闘争・逃避」状態という。
    • 闘争・逃避は、これに疲れた人たちが現リーダーとは別の信頼できる人を探し、それそれぞれが結束する分派行動に発展する。リーダー自身もこの渦の中にいて、自分で自分の行動を統制できない。そして、集団はリーダーを亡き者にし、新しいリーダーを求める。

 

いやはや、なかなか身につまされる理論です。グループプロセスのワークショップをやっていると、このようなことが小宇宙的に出現します。リアルでは、日本の、ある野党集団がいつも陥る罠みたいなことですね。ブックスマートな人(高学歴の優秀者)たちはこのような状況を打破する経験をしていないのでしょうかね。ビオンが言うような無意識行動を繰り返しています。

いずれにしても、関係性というのはビオンが言うような無意識の領域がいろいろと影響を与えるのです。そしてすでにお分かりのように、関係性が「思考の質」に影響を与え、それは「行動の質」に影響を与え、「結果の質」に影響を与えるのです。ビオン理論でいえば、basic assumption-mentalityが不安や恐怖でいっぱいになると、無意識に依存/反依存、闘争/逃避、分派という行動を選択し、やるべき課題に集中できず、チームのパフォーマンスは低下するのです。そしてますます、この3つの行動を繰り返すのです。これは、個人の能力開発では解決しない問題なのです。組織開発(OD)が関係性を扱い、個人の能力開発とは異なる領域の問題解決に寄与するとは、こういうことなんですね。成功循環モデルも、組織開発(OD)の視点で見ていくと、いろいろ勉強させられます。

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。