• 成功循環モデルから学ぶ②~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-195~

成功循環モデルから学ぶ②~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-195~

ODメディア、今回は成功循環モデルの「結果の質」に影響を与える「行動の質」から見ていきます。例えば、分かりやすい営業職の「行動の質」という例を見ていきましょう。営業職が売り上げという成果を上げるために、顧客訪問の仕方から、セールストークの習得、商品知識の習得など「行動の質」を上げていく学習や研修は至る所で、さまざまな機会をとらえて行われています。また管理者は、例えば、従業員のストレス管理やパワーハラスメントに関する知識を身に付けることで、健康な職場づくりということに対する理解を深めていくことが求められます。スポーツでも個々人が技能を高め、そのスポーツのパフォーマンスを高めることに必要な知識を習得することで「結果の質」を高めていくアプローチがなされます。2000年代に日本の人事部で流行ったコンピテンシーモデルなどは、まさに「行動の質」に焦点をあて、その開発や評価をより分かりやすいものにしようとした試みでした。このような、「行動の質」を高めるアプローチについては、専門性を必要とする分野が沢山ありますが、私たちには分かりやすい、慣れたアプローチ方法といえるでしょう。

「思考の質」についてはどうでしょうか。例えば、スポーツではメンタルトレーニングという確立された分野があります。日本メンタルトレーニング協会によれば、メンタルトレーニングとは、「身体的な部分にかかわらないすべてのトレーニングであり、ピークパフォーマンスとウェルネスを導くための準備。スポーツのパフォーマンスや人生の向上をさせるための、ポジティブ(プラス方向の)な態度、考え(プラス思考)、集中力、メンタル、感情などを育成/教育することが中心である(1997年、国際メンタルトレーニング学会)」と定義されています。

メンタルトレーニングは、1950年代に宇宙飛行士の自己コントロール法として始まったとされます。また、1984年のロサンゼルスオリンピックでは、アメリカがオリンピックチームに導入し、多大な成果をあげたことから、日本をはじめとする世界各国にも広く知れ渡るようになったそうです。競技不安をメンタルトレーニングによって克服し、試合の時点で持ちうる実力を発揮するために心理状態を整えることは、勝利のための不可欠の要素であるといわれます。これは確かに、そうですね。私も剣道、弓道、ゴルフと武道やスポーツに親しんできましたが、メンタルは大事ですよね。ゴルフなど、練習では簡単にできていることが、本番では、ちらっとネガティブな失敗のイメージを持っただけで身体が硬直して良い結果が伴わないということが、本当によく起こります。つまり、「思考の質」が「行動の質」に影響を与え結果が伴わないということですね。チーム活動もそうですね。その集団独特の「ものの見方や考え方」が「行動の質」に影響を与えることはよくあることです。例えば、負け癖なんかもそうです。「行動の質」という視点から、実力を発揮すれば勝つことも可能なのに、ちょっと窮地に陥ると「今度もダメか」というネガティブな思いが湧いてきて、個々人の連携がうまくいかなくなるとか、身体が固まってしまうとかよくあることです。このようなことへの対処として、日本では坐禅があり、昔から心を落ち着ける方法として実践されてきました。近年では、坐禅から宗教的な要素を取り除いたマインドフルネスが様々な人たちの間で実践されるようになってきました。

「思考の質」は、P.センゲの著書である「学習する組織」では、メンタル・モデルの克服として取り上げられています。センゲによれば、メンタル・モデルとは私たちの心に固定化されたイメージや概念のことであるとなります。それが世の中をどうとらえるか、どう行動するかに影響を与えることになります。メンタル・モデルの克服は、既によく知られているように組織学習のターゲットとなります。このことをよく理解し、メンタル・モデルの克服に成功した企業としてロイヤル・ダッチ・シェルがあります。世界の石油情勢が激変する1970年代から1980年代を切り抜けて、シェルの経営が大きな成功を収めたのは、経営幹部をはじめとする管理職のメンタル・モデルを明らかにし、それに挑戦するやり方を学んだからだといわれます。その時に採用したのがシナリオ・プランニングといわれる方法です。O.シャーマーのU理論などもメンタルモデルの克服に焦点を当てた理論ですね。現在では、個人や組織を対象とするメンタル・モデル克服方法が様々に開発されていています。次回は、メンタル・モデルがもたらす弊害と、その克服のポイントをセンゲの主張を土台にして、今一度確認していくことにします。(続く)

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。