• 「失敗の本質」から学ぶ:総括~ 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-188 ~

「失敗の本質」から学ぶ:総括~ 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-188 ~

組織の過剰適応について、前回から組織特性の視点を見ていますが、今回は構造に続いて管理システムを見ていきましょう。

組織特性の二番目、管理システムは、人事昇進、業績評価、教育訓練を取り上げています。この基本的考え方も、日本軍の原型は日露戦争にあったといいます。人事昇進システムは、基本的に年功序列です。従って、陸軍の首脳部は歩兵科出身の将軍に占められ、海軍は砲術科出身の提督が支配的な地位にあったのです。さらに、日本軍は米軍のような能力主義による抜擢人事はなく、将官の人事は平時の進級順序を基準にして実施されていました。

教育内容は、海軍兵学校では理数系科目が重視され、成績によって序列が決まりました。陸軍士官学校では、理数よりも戦術を中心にした軍務重視型の教育が行われ、理解力や記憶力が良く、加えて行動力がある者は成績が良かったようです。しかも陸軍の場合は、陸軍大学校での成績がその後の昇進を規定していたようです。陸大卒業者は、記憶力、データ処理力、文書作成能力に優れていました。ということは事務官僚として優れているということです。このような教育システムを背景として、日本軍の将校が排出されてきたのですが、いずれのタイプにも共通するのは、それらの人々はオリジナリティを奨励するよりは、暗記と記憶力を強調した教育システムを通して養成されたということです。このように画一化された教育システムの中では、いかに要領よく整理・記憶するかがキャリア形成のポイントだったのです。このような教育システムでは、不確実性の高い状況の中で臨機応変に対処する能力は養われず、リーダーシップは十分に機能しないでしょう。艦隊決戦主義や白兵銃剣主義の墨守は、このような教育システムの産物であったといえます。このような教育システムは、戦後も今に至るまで、そんなに変わっていないように思います。ちょっと、ゾッとしますね。

 

組織特性三番目の組織行動については、リーダーを考察することによって、リーダーシップの問題を取り上げています。

日本軍の中で、組織構成員が日々見たり接してきたりしたリーダー(その組織に存在する英雄)の多くは、白兵戦と艦隊決戦という戦略原型を何らかの形で具現化してきた人々です。これらのリーダーは、意識的・無意識的に日常部下にそれぞれの体験を戦闘に直結する言葉や比喩を使って説明したであろうことは容易に想像されます。年功序列の組織では、人的つながりができやすく、またリーダーの成功体験が継続的に組織の上層部に蓄積されていくので、価値の伝承は取り立てて努力をしなくても日常化されやすいといいます。「失敗の本質」では、戦略原型を体現する英雄として作戦失敗の原因をつくった将官クラスが取り上げられていますが、なるほどこのような英雄は、過去に成功していたからこそ英雄になったのであり、その信念に過剰適応したからこそ、失敗したのです。現実の組織におけるリーダーシップの開発の難しさは、ここにあります。組織の戦略原型に囚われずに組織改革を実現させるリーダーを育成するのは、どの企業においても大変な課題ですね。トヨタ自動車の豊田章夫社長は、自分のことを「超おぼっちゃま」であるといっていますが、それくらいでないと全方位戦略を果敢に打ち出すなんてことはできないのでしょうね。

大規模な組織変革では、リーダーシップ開発が欠かせませんが、そのリーダーシップ開発は以下の3つから構成されます。第一に、新しい組織ビジョンを提案し体現するビジョナリーリーダーの存在です。このようなリーダーは、それを体現する人を発見し、主要なポストに付けていくことで開発されます。SONY改革を率いた平井さんは、公表されているデータを見ると、そのようプロセス(キャリアと抜擢)の中でCEOになってきたように見えます。抜擢タイミングというのは大事だとつくづく思います。次に、ビジョンに基づいて仕組みや制度を整えていく、制度的リーダーチームを形成する必要があります。このチームがビジョンの実現に向けて必要な管理システムを構築する役目を担います。そして、三番目が現場で従業員と常に接するミドルクラスのリーダー育成です。ここは、ビジョンの実戦部隊として、いわゆる全社的な教育研修を通して短期間で一斉に開発育成していきます。従業員の意識と行動変容の教育も併せて実施していきます。このようなことができて初めて、組織行動が変わってくるのです。次回は、組織学習についてです。(続く)

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。