• 「失敗の本質」から学ぶ:総括~187 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-~

「失敗の本質」から学ぶ:総括~187 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-~

「失敗の本質」では、日本軍が失敗したのは、つまるところ自己革新に失敗したというのがその主張です。それは裏を返せば、今では常識となっていますが、日露戦争勝利以来の「勝利の方程式に過剰適応」していたからといえます。この適応について、「失敗の本質」では、戦略・戦術、資源、組織特性、組織学習、組織文化という5つの視点から分析しています。以下、この5つに沿って日本軍の環境への過剰適応について見ていくことにします。

【戦略・戦術】

日本陸軍において陸上決戦は「白兵戦における最後の銃剣突撃」、海軍においては「艦隊決戦」が強力なパラダイムとして働いている、というのが「失敗の本質」の分析です。特に日本陸軍においては、物的資源よりも人的資源の獲得が経済的により容易であったという資源的制約と、人命尊重の相対的に希薄であった風土の中で、白兵重視のパラダイムは精神主義にまで高まっていったといえます。海軍は、言うまでもなく、バルチック艦隊に対する完全勝利です。このような戦略原型といえるものの見方や考え方は、何も日本軍にだけあるものではありません。そして戦略原型といえるパラダイムは、戦略的使命や目的、資源蓄積、資源展開の在り方を規定します。現代日本組織では、現場主義ということをよく聞きます。これは、ものづくりの世界で摺り合わせ(インテグラル型ものづくり)によって品質をつくり込んできた日本の組織のお家芸とも言えるものです。ところが、グローバルでは、むしろ組み合わせ(モジュラー型)の方向に進んでいます。そして、モジュラー型は構想力が重要だといわれます。藤本隆宏東大教授によると、モジュラー型は摺り合わせや相互調整があまり必要でなく、新しいシステムを構築する能力、優れたビジネスモデルを作る能力のように戦略やコンセプト構想能力が鍵となります。日本は戦略構想力が弱いといわれますが、これは現場力による摺り合わせで競争力を高めるという戦略原型が影響していると思われ、DXなどが十分に進まない原因になっているかもしれません。

【資源】

資源と戦略は、コインの表と裏といっても良いでしょう。組織は、その戦略に合わせて資源の蓄積を推進しますし、資源は戦略発想を規定します。日本陸軍でいえば、小銃は明治39年制定の38歩兵銃、戦車は歩兵に従属するような軽量小型。海軍は、大和に武蔵です。第三者から見れば、まったくズレているとしか言いようのない思考ですが、これが当然のごとく幅を利かせるのです。要するに、新しい戦略発想がないので、資源も昔の戦略発想に合致したものを蓄積し造り続けるということをしているのですね。「アルキメデスの大戦」というフィクション映画があります。太平洋戦争前の軍拡競争における海軍を舞台にし、大鑑巨砲主義派と航空戦力増強派の戦いという、海軍の技術戦略の矛盾を興味深く描いています。ちょっと話がミーハー的ですが、資源蓄積と技術戦略における矛盾と葛藤を良く描いていると感心します。

【組織特性】

「失敗の本質」では、組織特性は組織構造・管理システム・組織行動で構成されるとしています。以下、この3つに沿って見ていきます。

先ず、組織構造では、日本軍は組織的な統合が弱かったといわれています。それは、もともと陸軍と海軍の仮想敵が異なるからです。陸軍はソ連を仮想敵とし、北満の原野を予想戦場とする大陸作戦に偏っていて、海軍は米国を仮想敵とした戦艦軍を中心にした米艦隊の迎撃です。このような仮想敵の違いによる戦略の違いは、組織の性格にも影響を与えることになります。分化と統合の問題は、組織の環境適応と切っても切れない考え方です。ローレンスとローシュの研究によれば、「同じ会社でも、目標の理解や対人関係の志向性、ものごとを捉える時間軸などにおいて体系的な差が出る。これを分化という。分化の度合いは、その組織が棲息する環境の不確実性が高いほど進行する」となります。現実の組織運営では、肥大化し分化する組織を如何に統合して動かしていくかという問題になります。日本軍は、大本営という統合部門を持ちながら、これがうまく機能しなかったのです。戦闘組織においても、海軍は機動部隊という航空優位の組織構造を作り上げましたが、戦艦優位の編成を最後まで崩すことができませんでした。一方米軍は、統合参謀本部を持ち、陸海空軍間で何かコンフリクトがあったなら、大統領が統合者としてその解消にあたるということを明確化しています。戦闘組織においても、日本軍の真珠湾攻撃における南雲機動部隊を真似てタスクフォースをつくり、それを日本軍以上に進化させています。具体的には、米国海軍は空母一隻ごとに半径1500mの円周の上に戦艦、巡洋艦、駆逐艦あわせて概ね9隻を等間隔に位置づける輪形陣対空防衛システムを開発しています。これにより、空母に突入する艦爆機は横合いから狙われ、雷撃機は目標の空母からちょうど1500mのところで速度を落として低空に入り、魚雷を投じるのでそこを狙われました。このように、組織構造研究し、それをよりよく発達させていく能力は米軍の方がはるかに優れていたといわざるを得ません。

「失敗の本質」が分析した、日本軍の組織構造の特性は、戦前のことではなく、いまの日本政府の組織特性を分析しているように感じてしまうのは、私だけでしょうか。コロナ禍における政府の各省庁や大臣の意思決定および言動を見ていると、政府という巨大な組織を統合的に動かしていく思考とスキルに決定的に欠けたものがあるように思えてなりません。大学では、こんなこと教えないし、訓練しないですもんね。組織学という学問も学部もないですもんね。次回は管理システムからですが、これもぞっとするような分析ですし、この分析で指摘されていることが2022年の今でも続いているようです。(続く)

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。