• 組織設計の際に押さえるべき2つのポイント:「共同体」と「機能体」

組織設計の際に押さえるべき2つのポイント:「共同体」と「機能体」

ここ数年「イノベーション」がキーワードとなり、今やイノベーションを掲げない組織はないと言っても良いのではないでしょうか。それに伴い新規事業が立ち上がったり、起業する人もつい数年前に比べるとかなり数が増えてきたと感じています。そこで必ず出てくるのが、組織設計の問題です。市場はある、事業も固まってきた、ではどう言った組織運営をしていけば良いのか?こうした問題意識から最近ではホラクラシー組織やティール組織と言った組織運営が注目を集めています。一方で、思想は素敵だけれども本当に機能するのかな?という本音をお持ちのかたも少なくないと思います。今回は、組織作りの大前提になっている2つの組織体について触れてみたいと思います。組織作りの責任を担う方は、組織設計の大前提にある下敷きとして押さえていただくとヒントになると思います。

2つの組織体 「協同体」と「機能体」

皆さんはゲマインシャフトとゲゼルシャフトという言葉を覚えていらっしゃいますか。「学生時代に社会科の授業で聞いたことある」という方もいると思います。「協同体」と「機能体」を表すドイツ語です。

ゲマインシャフト → 利益・機能体

ゲゼルシャフト → 協同体

そしてこの考え方が組織を運営していく上での2つの大きな思想(パラダイム)になっています。日常においては、そう意識をしない2つの形の組織体ですが、実はこの違いによって私たちは様々な所で大きな影響を受けています。

例えば、2つの性質のことをあまりよく知らない人たちが本来自組織は協同体であるにもかかわらず、機能体の運営を持ち込もうとしてしまったり、逆に機能体であるにもかかわらず協同体の運営を持ち込もうとする、といったことから大きな弊害がもたらされる場面があります。

本来機能で動かすべきケースなのに、平等や自主性を重んじるあまり、本来指示を出す人が周囲に遠慮して、的確な指示命令が出せなくなる、などは仕事の場面でも起こりうることです。

協同体組織の特徴

ではまず協同体の定義から見てみましょう。「所属する構成員が必要に応じて自発的に設立し、その目的はあくまでも構成員個々における一律な権益を満たすことにある」ということです。

従って、組織全体としての目的達成ではなく、個々人の目的達成のために権力やリソースを活用する、というのが前提となります(時にはそれを握ろうと駆け引きが横行するといった状況に陥ることがあります)。その為、協同体は参画する個々人の和を前提としています。構成員に対して平等性の確保や全員参画による合意・意志決定といったことを基本的な条件としています。

一方で、実はこういった条件は、経営を実践する民間企業をはじめとした組織(組織全体の目的追求を前提とした組織)には非常に大きな足かせとなります。

例えば、協同体組織には、全ての基本が「全員が同じ(思い・立場)である」という前提があるために、役割分担は機能や職能の観点から分担されるのではなく、役割を均等に配分するような単なる便宜上の「作業」分担となりがちです。そしてその結果、司令や統制といった目標達成のために必要不可欠である要素が機能不全に陥るというのは実は日常の中でよく起こっていることです。

また常に全員が参画し、全員が同意する、というもう一つの大きな基本があります。そのために、意思決定は遅延していくのいうのは想像に難しくありません。

根本的には、個人の目的はそれぞれに食い違いが必ずあるため、多くの場合意思決定自体がなされない、というのが通常のようになってしまう可能性を含んでいるのです。

さらに評価の問題もあります。協同体では個人差を牽制する関係から評価も一律となりますので、能力があるのに、それがなかなか認められず、多くの場合は便宜上に年功的な要素が尊重されモチベーションが削がれていきやすいのです。

最悪のケースとしては、変化の少ない(不活性傾向の)組織風土の中で情実人事(人の情が絡み公平な人事ではない状態)が罷り通り、いびつな権力構造を生み出す温床となります。

機能体組織の特徴

一方、経営を実践する組織は一般に「機能体組織」と呼ばれます。基本的に組織全体を一つの主体として、その主体である組織全体としての目的達成のために人や資源を組織化している団体はこちらに属します。営利か非営利かに関わらず○○法人とか○○団体と呼ばれる組織も殆どがそうです。

では機能体の定義もみてみましょう。「所属する構成員にとっては多発的な形態で設立され、組織としての目的達成が第一義となる団体で、内部の構成員の目的は、組織目的に従属した中で達成される」ということになります。

つまり個人の目的達成はあくまでも組織の目的達成に準ずる中に存在する事になり、構成員の役割分担は組織の成果を最大限にするための専門性や能力を最優先とする機能的な配置を取ることとなります。またその能力やパフォーマンスを最大化するために統制も一元化されており、目標達成をやり抜くためのマネジメント体制の確立が要求されます。

これは、機能別・担当別に構成員の責任所在が明確であることを前提として、職位というのものは、個々の職制範囲での義務に応じた責任履行とセットの存在になります。

また機能体は、組織の目的がその受益者(例えば顧客や株主などのステークホルダー)にとって無価値と判断された場合は、存在意義を失い破綻する為、持続性を保つために、常に変化対応や危機感が要求されます。

2つ組織体が混同されるケース

少し前のことですが、少し前の話ですが、現在の与党が政治的に不信を生み、主導権が入れ替わったことがありましたが、この時は2つの組織体の考え方が入り乱れ混乱をきたしてしまった事例と分析することができると思います。

政治の世界においては、直接行政に属する与党の場合、機能体の条件を備えなければ、政権が崩壊してしまいます。しかし、本来政党は協同体を前提として生み出されています。この違いの認識が政権運営には非常に重要だと思われるます。

当時両党が出していたいわゆる「マニフェスト」という政治戦略案はそこまで大きな差はなかったように記憶していますが、新規性を求めて、政権交代がなされました。しかし異例なスピードで短期的にすぐに再度現与党が返り咲きました。この短期交代の要因は何だったのか。これが2つの組織体に対する捉え方の失敗だと考えられます。

具体的には、「機能体の論理に協同体の論理を持ち込んだ上の混乱」です。

例えば、機能体がしっかり機能するためには意思の上位下達は絶対必要ですが、協同体の感覚で組織を運営すれば、下の者からトップの批判が公然となされ、組織として周囲に約束していることまで、「自分の考えは違う」という人が出てきてしまう、というちょっと首を傾げたくなる状態となるわけです。行政は人々の暮らしや人生に責任を負っていて、ある意味国民に最善のサービスはこれである、ということを吟味し、提示することがミッションとなります。そして与党はその責任を負っている組織となりますが、「組織としてはこうだけど(組織の中にいる)自分はそれには反対だ」、こうなるとでは周囲には、この組織は本当に信頼できるのか、またはこの人は本当に信頼できるのか、という猜疑心が生まれ、組織の機能不全に至るのは火を見るより明らかです。

組織を計画的・論理的に設計することはもちろん重要なことです。しかし組織を実践的に機能させるように、目には見えない2つの機能を時々にバランスをとりながら運営できるような設計をできるかどうかは、より重要なポイントになります。(それがないと組織は驚くほど早く機能不全に陥りますので)

組織論も今様々な研究がなされ、新しい考え方もどんどん出てきています。しかし大前提であるこの2つの取り扱いができなければ、本来素晴らしい組織も機能しなくなってしまうのではないでしょうか。

組織の立て直しや組織作りをミッションにされている方は、様々な情報を仕入れると同時に、この2つの根本機能にも思い巡らせ、現状の点検をしていかれるのも一案かと考えます。