• 「失敗の本質」から学ぶリーダーシップ④~178 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-~

「失敗の本質」から学ぶリーダーシップ④~178 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-~

(前回からの続き)

美徳とは何か。山口多門のリーダーシップを見ると深く考えさせられます。第一機動部隊は攻撃の機を逸し、加賀、赤城、蒼龍の3隻の空母は大破あるいは沈没します。甚大な損失を被ったその只中に合って、山口は南雲部隊の指揮を引き継ぐべき第8戦隊司令官の阿部に顧慮せず、航空戦の直接指揮を執ることを宣言します。山口が座乗した空母飛龍1隻で敵空母3隻に立ち向かう決意を示したのです。「我、いまより航空戦の指揮を執る」という信号のもと、直ちに戦闘継続を決断するのです。ハンモック・ナンバーが当たり前の当時に合って、異例中の異例です。作戦参加機は、雷撃機10機と戦闘機6機です。結果として、この決断はヨークタウンの大破に繋がります。飛龍の飛行隊長であった友永丈一は、片道飛行を覚悟ですでに被弾していた飛行機に乗り込み、発艦していったそうです。部下が機を換えようと申し出たのに、軽く手を振って辞退し「手前ら、死んでも編隊を崩すんじゃねえぞ」というのが最後の言葉でした。

ODメディアでもすでに紹介したポジティブリーダーシップは、美徳のある行動をすることで他の人々の繁栄の源となる行動を取ることを意味します。すべての生命システムは、プラスのエネルギーに向かう太陽効果・向日性という原則に則った概念であり、ポジティブとは、単なる陽気さ、ポジティブシンキング、奔放な楽観主義ではなく、徳の高さを示すことに焦点を当てるものです。美徳は太陽のようなもので、幼い頃からすべての人間は美徳のあるところに惹かれ、繁栄します。美徳ある行動は、人間が本来持っているポジティブなエネルギーを引き出し、困難な状況でも成功する方法を提供するものです。そして、美徳ある行動とは、「感謝、謙虚さ、優しさ、寛大さ、貢献、許し、思いやり、信頼、誠実さ」などを含む行動です。確かに、山口の人となりをいろいろ探ってみると「優しさ、寛大さ、貢献、信頼、誠実さ」といった美徳を見て取ることができます。山口が、ミッドウエーに出撃する前日に妻にあてた手紙があります。「貴女さえ居ればどんな事でも凌げます。貴女こそ本当に私の心中のオアシスです。姿も心も美しい貴女は、私の天使です。どうか御体を御大切にして、心に希望を持ち、どんな逆境に立っても、心中正しい行ないをして居る自信があれば、人に恥じる事はありません。」

しかしポジティブなエネルギーであるとする美徳だけで、戦場といったカオスの究極にある状況で的確にリーダーシップが発揮できるのでしょうか。山口の美徳とはどのようなものなのでしょうか。前回に引き続き、山内氏の捉え方を見ていきましょう。山内氏は、山口多門の美徳/リーダーシップを、判断力と大局観、闘魂と勇猛心、責任感と出処進退という視点でとらえています。

判断力と大局観は、既にみているように、状況が混乱し情報が錯綜しているときも揺るぎがありませんでした。それは、ミッドウエー海戦のそもそもの目的を深く理解していたからに他ならないでしょう。多くの文献が語るように、ミッドウエー海戦は、その目的が実働部隊に正確に伝わっていなかったと言います。すなわち、ミッドウエーを攻略し日本軍の支配下に置くのか、敵機動部隊とくに空母に打撃を与えるのか、どちらなのかということです。南雲はそれを十分理解せず、山口はそれを十分に理解していたということでしょう。ですから、判断と大局観に誤りがなかったのです。赤城の飛行隊長であり、航空隊の大エースであった淵田光津雄は「ああ、兵は拙速を尊ぶ。巧遅に堕して時期を失うよりは、最善でなくとも、次善の策で間に合わせなければならない」。また戦後、「目前の悲惨に目を覆われて全局を忘れてはならない。これは、洋の東西を通じ、いつの世にも変わることのない指揮官の統率である」と言っています。山口は全局をいち早く見抜き、受け身の局面を積極策で転換しようと努めたのです。

闘魂と勇猛心については、その裏付けとして剛勇と体力があったと山内氏は言います。山口は健啖であり、ステーキなども特大か二人前を簡単に平らげたそうです。また、料亭に二人で行くのに四人前を注文していて、一人で三人前を食べたりしたそうです。ミッドウエー海戦で大半の航空戦力を失い、「我、いまより航空戦の指揮を執る」として残存戦力の全てを反撃に賭けた不屈の意地と闘魂は、人並み優れた体力と健康に支えられていたというのが山内氏の見立てです。絶望的な状況にあってのとっさの判断は、指揮官には冷静な論理だけでなく、鍛え抜かれた敢闘精神に基づく激情の念も必要なことを示しています。ある参謀の回顧によれば、山口は「甲乙決め難いときには、自分は危険性があっても積極策を取る」と語っていたそうです。指揮官の強烈な闘志が末端にまで浸透していたとはいえ、ほぼ確実に死出の道に繋がる戦いは、それを支えるパイロットや整備兵がいないと成り立たない。この点でも、山口は人心掌握力を持っていたと言えるようです。

責任感と出処進退においても、山口は見事な手本を示したといえます。たとえ戦争であったとしても、軍人は自らの死に場所を必ずしも納得できる形で選ぶことができないそうです。屈辱的な敗戦を喫し幾多の部下を死なせながら、責任感を欠如した高級軍人は、日本だけでなく世界史にも無数に登場します。当時の日本軍の高級軍人は、ここの作戦で失敗があったとしても、その責任を取らなくても良い官僚システムに支えられていたといいます。このような曖昧な責任回避の組織環境の中で、山口は艦長の加来止男と共に飛龍に残り海に沈んでいきます。淵田美津雄は後にせずともよい殉職と語っています。山内氏は、もちろん自決を賛美するものではなく、リーダーは山口の不屈の闘魂と揺るぎない責任感の精神の大切さを我がものとすべきであるといいます。

さて、みなさんにとってリーダーが示すべき美徳とは何でしょうか。

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。