• SQリーダーシップ③~172 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-~

SQリーダーシップ③~172 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-~

SQリーダーシップの最終回は、SQを高める方法です。結論から言えば、「それは可能だが継続的な努力が必要」というものです。

SQと言われる社会脳は、集団の雰囲気や他者の感情を理解し、自分の感情をコントロールしていく力です。感情については、厳密な定義はありませんが、「人、物、出来事、環境についてする評価的な反応、つまり気持ち。そしてその時に、人に生じる状態の総体」と言われます。状態の総体とは、ちょっと分かりづらい表現ですが、私たち自身に現れる感情的、身体的な状態であり、身体器官の作用、行動の準備(心の在り方)、表情や行動の表出、主観的な心的体験などが含まれます。

感情は、それを継続して持つようになると性格となり、行動に影響を及ぼします。日本では「三つ子の魂百まで」という諺があり、幼くして身に付けた性格は変わらないと思われています。世界的にも、つい最近まで性格は変わらないものと考えられていましたが、現在では性格は変えることができるということが分かっています。心理学・神経科学者であるオックスフォード大学のエレーヌ・フォックスは「性格とは、感情反応のパターンです。脳の機能は、感情反応のパターンをつかさどる機能を持っています。脳科学の研究により、環境が変われば遺伝子の発現度も変わり脳が物理的に変化することが分かっています。そうすることによって、認知バイアスに変化をもたらすことができます。つまり、科学が検証した様々なテクニックによって意図的に環境をつくり、脳を再形成してやれば性格を変えることができることになります」といいます。私たちは、学び続けるなら脳構造を変え、変化し、学ぶ可塑性が、一生続きます。可塑性とは、固体に力を加えて弾性限界を越える変形を与えたとき、力を取り去っても歪みがそのまま残る性質のことですが、それは脳にも当てはまるということです。つまり、学習という刺激を与え続ければ、脳は成長し変化するということです。このようなことで、私たちのマインドを変えていける状態について「学ぶ脳:Growth Mindset」と呼ぶこともあります。ちょっと前置きが長くなりましたが、要するに性格や行動は変えられる、ただし継続的な努力が必要ということです。具体的にAさんの事例でそれを見ていきましょう。以下は、ゴールマンが実際に調査した中の事例です。

Aさんは、大手企業でマーケティング責任者として採用されました。事業の専門性、戦略の企画立案における卓越した実績、歯切れのよい発言、目標達成のカギを握る課題を見抜く力など担当職務に秀でた能力を買われたのです。ところが就任して半年たつのに、Aさんは期待される成果を出せずにいました。幹部からは「攻撃的で、自分の意見に固執しすぎる」「周りの空気や力関係を読み取れない」「誰に、何を話すべきかわきまえておらず、とりわけお偉方と話すとき、無作法が目立つ」といった批判が相次ぎました。そこで、前途有望なAさんでもありコーチングを受けさせることになりました。最初のアセスメントの結果、共感性、サービス精神、順応性、いさかいや争いなどへの対応などの評価が低い、周囲に溶け込まず相手の様子に気づきもしない、というようなことが確認されました。要するに、SQがなかったわけです。Aさんは、アセスメントの結果をフィードバックされてショックでした。そして、そのことに気づいていない自分に対してとても落胆しました。このようなことで、コーチングを受けることになるのですが、それはAさんにとって自分との戦いとなったのです。Aさんは、コーチングを受けながら、自分の成果と失敗について語ることが日課になりました。Aさんは、躓きの振り返りの中で、自分の信念に従って持論を語ることと、けんか腰で主張することは全く違うということに気づいたのです。これはAさんにとっては、大きな気づきです。そこで、それへの対処のためにどのようにしたのか。

  • 業績が上がらない部下へのフィードバックや会議に臨む際意に、自分の言葉や態度によって相手はどのような反応を示すかあらかじめ予想し書き出す。
  • 自分の意見を効果的に伝える方法をリハーサルする。
  • 自己変革の望ましい姿を描く。そして、実践する。

このような準備と訓練を繰り返すことで、社会脳が活性化し、効果的な振る舞いを支える情報伝達機能がスムーズになってきたのです。要するにクセ付けですね、Growth Mindsetです。加えてAさんは、コーチャーから対人関係に優れた人を探し、メンターになってもらうよう指導されました。実際Aさんは、メンターの傍で仕事ができるポストに移り、更に2年間学習を続けました。メンターであるBさんは、人材育成はマネジャーの大切な仕事であると承知しており、実際に会議などで見解が分かれる場合、どのように対処すべきか自ら範を垂れAさんに刺激を与えていきました。このように、そつなく振る舞えるBさんの傍で学んだAさんは、ミラー・ニューロンが刺激され、Bさんの所作を真似るようになり、時間と共にそれがすっかり自分のものとなったのです。学びは真似ることから始まるとは、本当なんですね。私たちは、遺伝子や幼少期の経験に縛られることなく、自らの行動によって神経回路を再形成し、発達させることができるのです。一皮むけるのですね。

Aさんは、こうして対人関係のコツを身に付けていったのですが、数年後、現状に不満を持つ部下が何人か退職していく問題に向き合わなくてはならなくなりました。周囲から助言を求めたところ、Aさんは部下たちのいら立ちや、その気持ちを察することが十分できていませんでした。そこで、再びコーチングを受けることにし、この問題に対処するべく部下たちの心情に耳を傾け、自分のコミュニケーション・スタイルを改めていったのです。結果、部下たちは「このチームでこれからも働いていきたい」「頑張ろうと意欲がわく」という気持ちになっていったのです。Aさんのチームは、年間売り上げを6%伸ばし、翌年も好業績を達成したのです。Aさんも、この後昇進し事業部長となりました。絵にかいたような成功物語ですが、それは長い年月にわたるAさんの変わろうとする努力の賜物なのです。1回や2回の研修で達成できることではないのですね。でも、人は変われるということです。

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。