• SQリーダーシップ①~ 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-170~

SQリーダーシップ①~ 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-170~

他者に共感する力と自己認識する力に優れたリーダーシップについて、日本でもEQという概念が2000年頃より注目されるようになりました。EQのそもそもの概念であるEIは、ピーター・サロベイ、ジョン・メイヤーによって1980年代後半頃より研究が始まり、EQとしてダニエル・ゴールマンによって世に広められました。SQリーダーシップは、EQの発展版です。(HBR 2009.2)

【改めて用語解説】

EQ:emotional intelligence quotient   心の知能指数

SQ:social intelligence quotient       社会性の知能指数

PQ:politics intelligence quotient    駆け引きの知能指数

元はどれもintelligenceという言葉が使われている。中でもemotional intelligence は、IQ(知能指数:intelligence quotient)に対比する言葉として使われたため、一般的にはEQといわれる。正確には、emotional intelligence quotientは、emotional intelligenceを測定する指数を意味する。

 

EIは、感情を知性でコントロールする力という概念であり、要するに、成功する人たちは感情の赴くままに行動するのではなく、それを制御する力に優れているというものです。日常生活でいえば、対人関係力に優れている人たちと言えます。2000年代に入り、脳神経科学の目覚ましい発展により、優れたリーダーはどのようにつくられるのかについて、さまざまな発見が為されてきました。中でも、リーダーの振舞いの幾つか、例えば周囲への共感を示し、それに同調することは、本人と周りの人たち双方の脳内化学物質に影響を及ぼすことが分かっています。さらに、リーダーとその部下の脳は、本人たちが意識するかどうかに関わらず、相互に作用しながら機能することも分かっています。つまり、何人もの脳が結びついて一つのシステムを形成しているようなものなのです。優れたリーダーは、自らの行動を通して、脳の相互作用を最大限に生かすことができるようです。この仮説によれば、より優れたリーダーになる近道は、どうすれば社会脳を強化する行動を身に付けられるのかという問いに答えることになります。つまり、その時々の状況にうまく対処したり、対人関係を築いたりするよりも、「どうすれば協力や支援を仰ぎたい相手に、好印象を抱いてもらうか」に強い関心を寄せ、その能力を身に付けることが大切ということになります。

なるほど、この仮説によれば元総理の菅さんが、実務には長けていても、共感を呼ぶメッセージあるいはコミュニケーションが下手であった理由が良く説明できますね。要するに、菅さんは「どうすれば協力や支援を仰ぎたい相手に、好印象を抱いてもらうか」という術を知らなかったということなんですね。一方で、ドイツのメルケルさんは、この能力に長けていたということが言えるのでしょうね。

ゴールマンによれば、SQは、EQが言うところの対人関係という切り口に加え、他者の能力を引き出す力を意味するということです。それは、特定の神経回路とそれに関係する内分泌系に支えられているのです。具体的には、ミラー・ニューロン、紡錘細胞、オシレーターに関する新しい知識を、対人関係の改善と実務に役立つ行動に反映させ、リーダーとフォロワーの脳神経レベルでの交流を活発化させるというものです。

【注】

ミラー・ニューロン、紡錘細胞、オシレーターは、いずれも、共鳴や共感を促したり伝達したりする細胞である。

ミラー・ニューロンは、イタリアの科学者たちがサルの脳を観察している時に偶然に発見したものです。行動神経科学における近年の成果の中でも最も衝撃的な発見と言われています。この実験により、脳には他者の行動を模倣する、鏡のような神経細胞が散在していることが明らかになったのです。この脳細胞は、神経系内で情報を伝達する働きをし、世渡りの手助けをしてくれると考えられています。組織(人間集団)にとって、ミラー・ニューロンはとても大きな意味を持っています。なぜなら、リーダーの心の動きや振舞いをきっかけに、フォロワーも同じような感情を抱き、同じような行動を取るからです。フォロアー(部下・メンバー)の脳神経回路を刺激すると、きわめて大きな効果が現れます。例えばある研究観察によれば、業績評価に対して、笑顔を見せたり頷きながら業績評価をするリーダーは、しかめ面や眉をひそめたりするリーダーよりも、たとえ低い業績評価でも納得性の高い評価になっていたのです。伝え方が以下の大切かを示しています。

誰もが知るように、気分が良い方が仕事の成果は上がります。従って、部下たちの力を最大限に引き出すには、要求水準を高く維持しつつも、チーム内に感情的に良好な雰囲気をつくることが大切です。インセンティブやアメとムチでは効果的ではないのですね。業績の高いリーダーが部下たちの笑いを引き出す回数は、平均的なリーダーの三倍だったといいます。このような現象は、かなり多くの調査によって裏付けられています。「笑う門には福来る」は、事実なんですね。(続く)

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。