• 物静かなリーダーシップ~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-169~

物静かなリーダーシップ~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-169~

前回までのODメディアは、鬼上司論についてでした。当然、それに対抗する研究や実践があり、カリスマ型リーダーは古いと言われるように、現在はむしろソフトパワーが人気です。今回から、ソフトパワーが有効なんだというリーダーシップ論を掲載していきます。その1回目は、物静かなリーダーシップ(J.L.バダラッコJr;ハーバードビジネススクール教授)です。物静かなリーダーは、スポットライトを浴びるような人ではなく、慎重に少しずつ着実に前進するタイプです。多くの難問を解決するのは小さな努力の積み重ねです。では、このようなリーダーはどのような行動規範を持っているのでしょうか。

原則1.性急に事を起こさない

倫理(ethics)を左右しかねないジレンマが迫ってくると、物静かなリーダーは熟慮する時間を稼ぎます。倫理は、その世界や組織の中で守るべきものと考えられる価値基準です。しかし、その世界の外から見れば必ずしも大切な価値基準ではないこともあります。ですから、ちょっと立ち止まり、よくよく考えることが必要なのです。世の中には、主戦論者と言われる人たちがいます。傍から見ると勢いがあり、頼もしい存在に映ることもあります。主戦論は、その人たちの中では正しい意思決定に基づいて行動しようという論理でしょうが、もっと大局的な目から見ると無謀であると映ります。中国戦線や、太平洋戦争に突っ込んでいった当時の日本は、主戦論が圧倒的に強かったのです。大手新聞社もそれを煽っていました。リーダーには、大局的に物事を見る眼が求められるのです。

原則2.無用な戦いは避ける

組織の中で生きていく場合、特に上昇志向が強い人たちにとっては、政治的な影響力は貴重な財産になります。これを手に入れるには、実績を上げて評価を勝ち取り、努力を認めて報いてくれる上司や人脈を築いていかなくてはなりません。政治力は、獲得するのは難しいですが、失うのは容易い力です。物静かなリーダーは、どの程度の政治力なら危険を冒して行使できるか、その見返りに何が期待できるかを天秤にかけます。つまり、無益な振る舞いを巧みに避けようとします。鬼上司の中で見たように、戦の中に身を置くリーダーは時に憧れの対象になります。HPのカーリー・フィオリーナもそうでした。彼女は、米国で「ガラスの天井」と呼ばれる働く女性の昇進の限界を打ち破り、米国の大企業リスト「フォーチュン500」に入る企業(HP)を率いる最初の女性トップとして脚光を浴びました。しかし、常に自分の信条に拘り過ぎるあまり、他の人の意見を聴かず、最後は失脚してしまいました。

原則3.規則を曲げてでも大義を行う

これは中々に難しい問題です。規則は時として、倫理観を曇らせる言い逃れの手段になることがあります。つまり物静かなリーダーは、四角四面に事を進めるということを良しとしないのです。何とかして切り抜ける方法を考えようとします。あえて規則を曲げてでも、より大きな責任を果たす道を探します。杉原千畝(日本の外交官)は、第二次世界大戦中、枢軸国側で日本の同盟国でもあったナチス・ドイツの迫害によりポーランドなど欧州各地から逃れてきた難民たちの窮状に同情し、1940年7月から8月にかけて、外務省からの訓令に反して大量のビザを発給し、避難民を救出したことで知られます。

原則4.妥協点を見つける

妥協は、必ずしもポジティブに受け止められる方法ではありません。倫理・道徳的な人は、むしろ妥協を拒否すると思われています。しかし世の中には、はっきり白黒つけた方が良いとは限らないこともあります。物静かなリーダーは、現実的でもある妥協案を巧みに練り上げようとします。山本五十六は、35歳のころアメリカ駐在武官に任命され、ハーバード大学へ留学し、アメリカ国内の視察に精を出していたようです。そのため、開戦に際し、アメリカの実力をよく知っていたため、またアメリカを敵に回してはいけないという意識も強く、非戦のためのさまざまな策を巡らしていたというのは有名な話です。

孔子(論語)の言葉に、君子の九思(心掛けるべき九つのこと)というものがあります。

1.物を見るときは、はっきり見る
2.聞くときは、誤りなくしっかりと聞く
3.表情はおだやかに
4.態度は上品に
5.言葉は誠実に
6.仕事は慎重に
7.疑問があれば、質問する
8.みさかいなく怒らない
9.道義に反して利益を追わない
この九つは、鬼上司より、物静かなリーダーのことを言っているようですね。

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。