• 鬼上司のリーダーシップ① ~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-166~

鬼上司のリーダーシップ① ~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-166~

最近はEQやSQといわれる、対人関係を重視したソフトパワーによるリーダーシップがもてはやされています。しかし、政治的な駆け引きに長けた厳しい上司、いわゆる鬼上司(PQが高い人)はお払い箱なのでしょうか。そうではないというのがR.クラマー(スタンフォード大学経営大学院教授)です。事例に出てくる人物は全て欧米の経営者や政治家ですが、日本でも参考になると思います。

【用語解説】

EQ:emotional intelligence quotient   心の知能指数

SQ:social intelligence quotient       社会性の知能指数

PQ:politics intelligence quotient    駆け引きの知能指数

元はどれもintelligenceという言葉が使われている。中でもemotional intelligence は、IQ(知能指数:intelligence quotient)に対比する言葉として使われたため、一般的にはEQといわれる。正確には、emotional intelligence quotientは、emotional intelligenceを測定する指数を意味する。

 

シティグループのサンディ・ワイル、メディア・コーポレーションのルパート・マードック、インテルのアンドリュー・グローブ、HPのカーリー・フィオリーナ、オラクルのローレンス・エリソン、アップルのスティーブ・ジョブズ、マイクロソフトのビル・ゲイツ、イギリスのマーガレット・サッチャー、ディズニーのマイケル・アイズナー、この人たちはいわゆる鬼上司です。中には、失脚した人もいます。この人たちに共通するのが、PQという能力なのです。では、PQとは何かを見ていきましょう。

R.クラマーは、あらゆるリーダーにとってSQ(対人関係能力)が重要なことに異論はないが、しかしこれだけでは十分ではないと言います。ガチガチの官僚組織における改革のようなときにこそ鬼上司の出番であり、痛みを伴いながらも組織を改革しなければならないときにこそPQが必要だと言います。

SQの高いリーダーとPQの高いリーダーとを比較すると、どちらも人を観察し評価する能力に長けています。ただし、目の付け所が異なるようです。SQが高いリーダーは、人の長所の価値を見定め、どうすれば一層活用できるのかを工夫します。一方、PQの高いリーダーは、人の弱点や不安に注目します。いずれのリーダーも人を見る眼だけは確かなようです。ただし、PQの高いリーダーは痛みを共感する力(sympathy)に乏しく、人を何かを達成するための手段とみて、冷徹に観察します。そうすることで、窮地の中で同情的に他者を見ることが少なく意思決定の幅が広がり、SQタイプのリーダーなら禁じ手とするようなカードも平気で切れるのです。つまり、PQの高いリーダーは、SQの高いリーダーと比べ、有無を言わせぬ命令を発することに躊躇いがないということが、もっとも際立った相違点であるようです。

L.サマーズ(アメリカ財務長官、ハーバード大学総長など)は、「恐怖が理性の代わりを務めることがある」と語ったことがあるようです。そしてハーバード大学の改革に着手するのですが、ある教員グループとの懇親会の席上、「こんな学部はハーバード大学に入らないのかもしれない」と言い放ったのです。もちろん、このような発言をするリーダーは人気がありませんが、言われた方が襟を正すことは間違いないでしょう。さらに、ハーバード大学の教職員たちはその存在価値を正当化するよう、サマーズから求められたことで、自分達の行動を真剣に考えざるを得なくなったと言います。要するにサマーズは、教職員たちに対して、自分の存在に対する答えを再考するように迫ったのです。このような辛い状況で存在意義を示す訓練を重ねていけば、組織の目的と戦略はおのずと明確化されていくでしょう。このような状況に居たハーバード・ロー・スクール教授のアラン・ダ―ショウィッツは、あるインタビューで次のように答えています。「大学総長のほとんどが、気を使いすぎたり、用心したり、怖がりすぎです。また、波風を立てること、敵をつくること、人を怒らせることに心配しすぎです。サマーズはまさしく挑発的です。私は、ハーバード大学に41年勤めていますが、こんなに刺激に溢れ、こんなに議論風発になったことは、未だかってありませんでした。そのおかげで、ハーバード大学はより優れた大学になりました」

偉大な鬼上司の下では、どれほど真剣に課題を受け止めているか、自問自答せざるを得なくなります。そして、その課題と格闘する覚悟があるかを問われます。もし覚悟があるのなら、自分の考えをしっかりと表明すべきです。そうなってこそ、関係者にとって有意義な議論が交わされるのです。ビル・ゲイツは議論好きで有名ですが、彼が優秀にして聡明な、しかも弁舌の立つ人材を採用するのは、これ以上ないくらいレベルの高い会話をしたいがため、なのだそうです。次回は鬼上司の戦術はいかなるものかを見ていきます。(続く)

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。