• 適応のリーダーシップ③~164 組織開発(OD)の実践って、どうするの?~

適応のリーダーシップ③~164 組織開発(OD)の実践って、どうするの?~

今回のODメディアは、R.ハイフェッツの適応を要する課題に挑戦するリーダーの心得6原則の4番目からです。

第4原則: 注意力を鍛え続ける

適応を要する課題に挑戦する時、社内にある視点の違いを明らかにし、それを改めて統合していくという作業は誰にとっても難しいものです。価値観、さまざまな手続き、仕事のやり方、権力の行使には、何らかの矛盾が伴いますがリーダーはこのことを社員に伝え、向き合わせるということをしなくてはなりません。この過程を通して経営陣は互いの違いに耳を傾け、学び合っていかなくてはなりません。対話を重ね、互いに何を考えているかが理解できるようになり、初めてその組織ならではの問題解決手法が確立されます。その際、リーダーはコンフリクトに蓋をするのではなく、むしろ表面化させ、それを新しい何かを生み出す創造戦の源泉として利用することが求められます。多様性を前提とした組織運営ということは今や当たり前ですが、それは常にコンフリクトが起きるということでもあります。従って、リーダーはコンフリクトの原因である視点の違いを注意深く観察し、それをむしろポジティブに活用することが求められるのです。

 

第5原則:社員に問題を発見させ自ら解決させる

組織の中で起きてくる問題に対して、何時も上司にお伺いを立てて解決策の答えを求めるような体質は、組織の効果性と効率性を著しくて低下させます。組織が新しい課題に挑戦していく場合、必要なことは、ODメディアで既に紹介したポジティブな逸脱の活用です。つまり、問題が起きている現地で、当事者がそれを自分たち自身で解決し、それを他者が学習していく自助・学習能力です。組織では、多くの人たちがその人しか得られない独自の情報ルートを持っているものです。それを活用しない手はありません。社員自身に問題を発見させ、それを解決させるには、リーダーや経営管理者は管理するのではなく支援する方法を学ぶ必要があります。社員は責任を担うことも自分たちの役割であるということを自覚し、リーダーは自尊観を満足さることから離れ、他者の学習を促進するのが自分たちの役割であるということを自覚する必要があります。オリンピックTOKYO2020において刮目すべき活躍をしたチームの監督、例えば柔道の井上康生監督、バスケットボール女子のトム・ホーバス監督、ソフトボール女子の宇津木麗華監督など、優れたリーダーは明確な目標の下選手に厳しい要求を突きつけ、それが実行できるように緻密な計画に基づく練習を実施していったそうですが、一方で選手が自分たち自身で考えて事を進めるクセ付けをしていくために、選手一人ひとりと親密な対話を重ね強固な信頼関係を築いています。ハイフェッツは、スカンジナビア航空のヤン・カールソンの次のような言葉を引用し説明しています。

「生まれつきの自信家などおりません。自信満々の人でさえ自信を無くすことがあります。自信というものは、経験と成功、そして組織の環境から生まれてきます。リーダーが果たすべきもっとも重要な役割は、人々に自信を植え付けることです。そうすれば、人々はリスクに挑み、その責任を負うでしょう。そしてリーダーは、彼ら彼女らが失敗した時に手を差し伸べ、バックアップしてあげなければなりません」

 

第6原則:ボトムアップのリーダーシップを擁護し大切に育てる

適応を要する課題に挑戦している時だけではなく、最近では、多様な意見を尊重するという価値観を打ち出している企業は多くなっていますが、現実には異なる意見は「チームワークを大切に」という名の連帯感の下で無視されるか抹殺されることが度々起こっているのもまた現実です。組織の下部層から上がってくる声は、曖昧であったりすることも多く、十分に検討に値すると経営層が感じる時には、既にかなりの重症になっていることも多いものです。アベリーン・パラドックスと名付けられた、合意がもたらす負の側面というものがあります。改めて紹介しまと、アベリーン・パラドックスとは、ある集団がある行動をするのに際し、その構成員の実際の考えとは異なる決定をする状況をあらわす「象徴的コトバ」です。ジェリー・ハービー教授の実体験に基づく研究からこの名称が付けられています。

『ある8月の暑い日、アメリカ合衆国テキサス州の砂漠の中にある町の妻の実家で、私たち夫婦と妻の両親4人で団らんしていた。ドミノゲームの最中に、義父が「隣の町にレストランができたそうだね」と53マイル離れたアベリーンでの食事を提案した。本当は、誰も行きたくはなかったが、気を使って誰もはっきりと自分の意見を言わなかった。その為、誰もがアベリーン行きを望んでいなかったにもかかわらず、家族の人はみんながアベリーンに行きたがっていると思い込み、誰もその提案に反対せず、アベリーンに行くことになった。道中は暑く、埃っぽく、快適なものではなかった。行ってみると、レストランでの食事は、草履のように硬いステーキで、食えたものではなかった。また、帰りも一段と大変だった。時間はかかる、疲れるで、散々なものだった。帰宅してから、誰かが愚痴を言い出した。なんで、こんな日にアベリーンに行ったの?誰が決めたの? その後犯人探しが始まったが、犯人は最初からいなかったのだ。みんなの意思決定にその場の雰囲気が支配され、結果的に誰が決めたわけでもなく結論が決まってしまったのだ。その結果は最悪であり、そして何より提案者を含めて誰もアベリーンへ行きたくなかったという事を皆が知ったのは、言い争いが終わった後だった、という話である。これは、行きたくもないアベリーンという町に、はっきりと意見を言わないがために行くはめになったことから、アベリーン・パラドックス(逆説)と呼ばれている。」

集団内のコミュニケーションが機能しない状況下、個々の構成員が「自分の嗜好あるいは目標は集団のそれとは異なっている」と思い込み、集団決定に対して異を唱えないために、集団は誤った結論を導きだしてしまいます。アベリーン・パラドックスは「事なかれ主義」の一例としてしばしば言及されます。この理論の要点は、集団の抱える問題は「不和」から生じるのと同様に「同意(チームワーク重視、同調圧力)」からも生まれるということです。ハイフェッツも組織というところでは波風を立てないという力がとても強力であると言います。ですから、リーダーはバルコニーに上がる習慣を身につけ、冷静に、この人たちは何を主張しているのか、我々に欠けているのは何か、自問自答しなければならないと言います。(続く)

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。