• 適応のリーダーシップ②~ 組織開発(OD)の実践って、どうするの?163~

適応のリーダーシップ②~ 組織開発(OD)の実践って、どうするの?163~

今回のODメディアは、R.ハイフェッツの適応を要する課題に挑戦するリーダーの心得6原則の紹介です。

第1原則:バルコニーに上がれ

バルコニーに上がるとは、木を見て森を見ずにならないように、大局的視点から全体を俯瞰してみるということです。これは、組織や市場で何が起こっているかということだけでなく、社員に会社の歴史を教え、先輩たちはどのような経験をしてきたのか、その中でかつてはどのような強みがあったのか、歴史の中でどのような価値観を大事にしてきたのかを示していかなくてはなりません。そして、個々人が抱いている我社とは何かとか、なぜこのような仕事のやり方をしているのかを共有させていく必要があります。これができて初めて、将来に向けてのビジョンの意味合いや目標の理解が促進されます。適応を要する課題への挑戦では、リーダーは現場を歩き回るだけでなく全体を見渡せる視点をもって起こっていることの関連性を理解していく必要があるのです

第2原則:いま必要な改革は適応を要する課題なのかを見極める

ハイフェッツは、変革においてリーダーが犯す間違いは、適応を要する課題に対して技術的な問題解決アプローチをしてしまうことだと言います。つまり、技術的な問題解決アプローチとは、うまくいっていないことの原因を探り、その原因を専門的な知見から取り除いていくというアプローチです。ハイフェッツは、英国航空の民営化時代の変革を例に出していますが、この変革をリードしたコーリン・マーシャルは、顧客サービスが当たり前の文化として根付いていくためには、全員が協力について学習する必要があったと言っています。例えば、英国航空は2年ほどかけて全社員にサービスに関する訓練を受けさせています。いずれにせよ、リーダーは専門家のアドバイスに従いルーチンで問題解決を機械的にやっていけば良いのか、それとも全社員が新しい能力や考え方を身につけ、今までのやり方を変えていくようにすべきなのかをはっきりさせる必要があります。英国航空では経営陣は以下の3点を重点的にやっています。第一に、現場のメンバーの話を聴くこと。実際に現場では何が起こっているのかを知ること。第二に、変革に伴うコンフリクトを適応への挑戦の兆しとして理解すること。つまり、コンフリクトは変革には付きものだが、その表面的な現象の奥底に潜む価値観や信念体系を洗い出す必要があるということです。SONYの平井改革でもそれはあったようです。それは、SONYはエレキの会社なのかそうではないのか、というようなことです。SONYがなぜ、SONYという社名にしたのかはさておき、適応を要する課題への挑戦では、これまで大切にしてきた価値観や信念とそれを土台にした仕事のやり方に対して、新しい価値観や仕事のやり方の提案は、OBやベテラン社員からの反発など必ずコンフリクトを興します。リーダーは、このコンフリクトから逃げず、また煩わしいと思わずに再統合していく作業をリードしていかなくてはなりません。そして第三に、適応への挑戦を経営陣が身をもって実践することです。現経営陣は、概ね過去の価値観の中で育ってきています、ですから、それを自ら問い直し、新しい価値観と行動様式を体現するのは容易なことではないのかもしれません。しかしこれこそ、リーダーを始めとした経営陣が率先垂範して体現していくべきことです。

第3原則:適応への苦痛を調整する

適応には苦痛が伴います。それは、これまで大切だと思っていたことを捨てなくてはならないからです。また、人は多くのことを一度に学習できません。しかし、変革期にはこれでもかというほど新しい学習の必要性が出てきます。

JR九州がサービス文化を醸成していく過程で、同時にサービス事業を多角化していきました。そんな中で博多ラーメン屋を始めたこともあったのですが、社員の中にはラーメン屋の仕事をするためにJRに入社したのではないという人が沢山いました。ハイフェッツは、適応を要する課題への挑戦では、リーダーは3つの使命を遂行しなければならないと言います。第一の使命は、人々が自己管理の中で変化に挑戦できる環境をつくることです。つまり学習する場づくりです。社員が直面している課題について自由闊達に討論し、また討論すべき問題のフレームワークを自分たちで考えたり、さらにはその問題の背景にある矛盾や価値観を洗い出したりするための場を用意すべきです。ODでいえば、対話型ODの実践ですね。第二の使命は、リーダーは方向性を指し示し、人々に新しい使命を理解させ、これからの規範を明確にする責任があるということです。そして、この方向性に基づいて社員がそれぞれの場で対話し、コンフリクトを乗り越え問題解決していくことを支援しなくてはなりません。そして第三の使命は、リーダーは自分の存在感を示すとともに、変化に伴う苦痛を和らげるバランス感覚を持ち合わせていなくてはならないということです。現状に対する恐怖や危機感だけでは人々は変わっていこうとしません。リーダー自身が、変化に伴うフラストレーションや不安に対処するためにレジリエンスを高め、メンバーには変革に対して要求すべきことは厳しく要求するとともに、自分自身を自己管理することが求められるのです。それが、リーダーに対する信頼感を生み、メンバーが積極的に変化に適応していこうとする態度を醸成するのです。(続く)

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。