• 適応のリーダーシップ①162 ~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-~

適応のリーダーシップ①162 ~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-~

今回からロナルド・A・ハイフェッツ(ハーバード大学)のリーダーシップ論です。彼の主張を端的に言えば、異なる環境に適応していかなくてはならない「ものの見方や考え方を変容することが求められる適応を要する課題」に対して、従来の考え方や知識でテクニカルに対処しようとするリーダーシップに対する警鐘です。

企業変革では、M&Aやリストラクチャリングといった方法を採用することはよくあることですが、それは必ずしも組織の成長に寄与するのではなく、むしろ組織を弱体化させてしまうことがあります。なぜかといえば、どうすれば適応に優れた組織にできるのか、その方法を無視した改革になっているからです。R.ハイフェッツは「単刀直入に言えば、ビジョンを掲げ、そのビジョンで人々を結束させるという、広く支持されているリーダーシップは破綻している」と言います。どうしてかといえば、よくあることはビジョンをつくりそれを一気通貫に浸透させていくというテクニカルな方法がとられるからです。それも、ビジョンノートの配布やトップマネジメントのメッセージを社員に何度も聞かせることによって浸透させようとします。根底にあるのは、社内でトップマネジメントが、自社はどの方向に向かうべきかを示せば、社員たちはそれに従うというのが前提になっているからです。しかし、事はそう簡単ではありません。

以前のODメディアでも掲載しましたが、組織変革ではジョン・コッターの8つのステップは有名です。

  1. 危機意識を高める
  2. 変革推進チームをつくる
  3. ビジョンと戦略を生み出す
  4. ビジョンを周知する
  5. 従業員の自覚を促す
  6. 短期的成果を実現する
  7. 成果をテコにさらなる変革を進める
  8. 新しい方法を定着させる

しかし、R.ハイフェッツはこれではうまくいかないと言います。ではどうするのか。R.ハイフェッツは、変化する事業環境で生き残るには、組織の行動様式を変化に適応させなければならないと言います。従来の組織変革の言い方を借りれば「組織文化の変革」が不可欠なのです。競争社会におけるリーダーシップの目標は、自ら問題の解決策を示すことではなく、社員自らが責任を持って変化に適応するように導くことです。もちろんこのようなリーダーシップはとても難しいものです。「俺についてこい」方式のリーダーシップの方が、リーダーの自尊観も満足させられますし、手っ取り早い方法かもしれません。しかし、これではうまくいかないのです。適応のリーダーシップは、イメージとしては分かります。わざわざリーダーシップといわなくても、withコロナの時代に以前と同じではダメだ、この環境に適応しなくてはと思う人は沢山いるでしょう。かくいう私もそうで、テレワークが進むと家内と過ごす時間が多くなり、家庭では家内の流儀に慣れていくしかありません。まさに、適応を要する課題に挑戦しているところです。これがまた難しい。異なる価値観、異なる時間の使い方、経験したことのない家事の仕方を覚えるなど、調整しなくてはならないことが山ほどあるからです。組織という多様な人々の集まりでは、これが至る所で無数に起こり、複雑性がより高まっている筈です。ちょっと話が脱線しましたが、要するにリーダーは「適応への挑戦」に向き合わなくてはならないとき、リーダー自身が適応力を高めていくと共に、社員みんなが適応に挑戦するように仕向けることが求められるのです。しかし、この課題はリーダーの権威によって成し遂げることはできません。しかし、これは極めて難しい課題です。R.ハイフェッツは、それには2つの理由があると言います。

第1は、何らかの変化を起こすには、リーダー自ら解決策を示し、自らが先頭に立って指揮するという行動様式を改めなくてはならないからです。これはリーダーの自尊心を奪うことなのです。これまでのODメディアでも言及しましたが、リーダーの多くは数々の責任を果たし、組織の階段を登ってきた人たちです。梅棹先生の言い方を借りれば「武人」な訳です。しかしこの行動様式では、適応を要する状況で効果的なリーダーシップを発揮できないのです。適応に挑戦するには、リーダーと部下が一体となり、持てる経営資源を十分に活用し、部門や階層を超えて問題解決のために学び合いあらゆる階層にある「知」を結集させていく必要があるのです。ODメディアで既に紹介したポジティブな逸脱の活用です。

第2に、変化に適応していくには大なり小なり苦痛が伴います。多くの社員にとって苦痛や犠牲はできれば避けたいところです。しかし、リーダーは「答えが欲しい」社員に足して答えを与えるのではなく、逆に変化に適応していく厳しい試練に挑戦することを求めなくてはなりません。現在の役割に安住させるのではなく、新しい関係性が生まれてくるように仕向ける必要があります。モノだけではなく価値観を含め、変えるべきものと、残していくべきものを見極め、新しい行動様式を獲得できるように支援していかなくてはならないのです。R.ハイフェッツは、そのための6原則を提案しています。次回からその6原則を見ていきます。(続く)

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。