• ~最善のリーダーシップは状況次第①~ 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-152

~最善のリーダーシップは状況次第①~ 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-152

リーダーシップは、ODに限らず人材育成の中でも定番のテーマです。特に、中堅どころの30歳からミドルにかけてはいろいろなケースはあるでしょうが、集合教育(研修)で必ずといってよいほど受講するテーマです。集合教育ですから、職場状況に関係なく集められて、リーダーシップとはという講義を受け、あるいは体験学習と称していろいろなゲームをやったりして、「そうなんだ」と気づきを大切にした学習をします。上級管理者になれば、最近では少なくなってきていますが見知らぬ人々と研修を受講するという「ストレンジャーグループの公開講座」による体験学習で、これまで沁みついてきた「垢落とし」をして、多面的な見方や柔軟な行動を身に付けるということをやったりします。大掛かりな研修では「無人島からの脱出」という、本当に無人島に連れていかれて、そこで共同生活をしながら、みんなで力を合わせて島を脱出するというプログラムがあります。知的な刺激から多様な考え方を哲学的に習得するという講座では、日本アスペンが主催している古典を教材としたリベラルアーツ研修があります。まぁ、世の中にはいろいろなリーダーシップ研修があるのですが、大切なことは、そのような体験を土台にして「自分で現場実践から悪戦苦闘しながら身に付ける体験」が必要ということです。それはなぜかといえば、特定の状況で適合するリーダーシップ行動が、別の状況では適合しないからです。このあまりにも当り前なことを私たちはついつい忘れてしまい、パターン化した行動を取ってしまうのです。「じゃ、どうすればいいのですか」となり、悩みを抱えたまま職場に変えることになります。リーダーシップ開発は、このような状況対応が常に付きまとうのです。

今回のODメディアでは、状況論で有名なJ.ローシュとJ.モースの論文を基に改めてリーダーシップの適合問題を見ていきます。結論から言えば、リーダーシップ適合は、業績、業務特性と組織環境、能力向上への意欲の相互関係の中で決まってくるというものです。

 

このモデルの前提となるのは、人は誰しも置かれている環境を理解したい強い欲求があること、また自分が従事する仕事や環境に慣れ親しみ能力が向上していくことへの欲求があることです。後者は、自己成長への欲求や満足感といっても良いでしょう。

先ず、業務特性と組織環境から見ていきましょう。これは、取り組んでいる業務の種類と組織において公式に取り決められたルールの適合状態という公式特性、およびその職場で働く個人が抱いている環境に関する主観的な認識という環境特性から成り立ちます。説明を簡便化するために、工場組織と研究開発組織を比べてみます。結論から言えば、業績が高い組織は、どちらの組織においても公式特性において高い整合性が実現しており、従業員の主観的認識もそれを是としています。

つまり、不確実性が低い工場組織の場合、作業の時間は短く明示的であり、従って組織構造が明確で、業務上の人間関係と職務が正確に定義され、管理や業績評価システムは具体的で均一的なものでした。一方、不確実性が高い研究開発組織では、作業の時間は長期的で波があるものであり、従って組織構造は柔軟で、業務上の人間関係も各人の職務も厳密に定義されていません。すなわち、管理や業績評価システムは最小限であり、緩やかで柔軟でした。

J.ローシュとJ.モースの調査によれば、業績優秀な工場の管理者は「ここでは、トイレを洗うのにどれくらいの量の洗剤を使うのかから、工場からモノを運び出すにはどうしたらよいかまで、どのようなことにもルールがある」と語っています。一方で、業績優秀な研究開発の管理者は「朝から晩までルーチンな仕事であれば、ルールをきちんと決めておくべきでしょう。しかし、ここのメンバーはプロフェッショナルであり、厳密な監督が要求される類の労働者ではありません。ここで働く者は、リラックスした環境にいるからこそ何かを生み出せるのです」と語っています。ドラッカーの言葉を借りれば、前者はマニュアルワーカーの仕事環境であり、後者はナレッジワーカーの仕事環境といえます。

また、どちらの従業員もその組織と業務特性をよく理解しており、業績の高い工場では行動が厳しく管理されて当たり前だと思っているし、業績の高い研究開発組織では最小限のルールに従えば問題ないと思っています。因みに、J.ローシュとJ.モースの調査では、業績の低い工場ではなんとなく緩い管理になっており、また、業績の低い研究開発組織のメンバーは、組織構造を強く意識せざるを得ないと感じ、それが常に仕事の邪魔をしていると感じていたのです。この調査が示すことは、どちらにも適合するマネジメントやリーダーシップはないということです。(続く)

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。