• ~リーダーは何に意を注ぐべきか②~ 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-144

~リーダーは何に意を注ぐべきか②~ 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-144

リーダーは何に意を注ぐべきか②

前回のODメディアから、リーダーが意を注ぐべき課題に焦点を当てたリーダーシップについて紹介しています。では、引き続いて残り4つは何かを見ていきましょう。

第2のメッセージ:財務業績の活用

私たちは業績という、さまざまな活動の結果をどのように活用しているでしょうか。それは、経営者に限らず、現場を預かるマネジャーにとっても重要な課題です。有能な経営管理者は、4半期ごとの業績を単に短期的な結果として捉えずに、長期的な改善を進める上での指標として活用しています。このもっとも有名な例がインテルの戦略転換です。インテルがDRAMから撤退しCPUに切り替えた時の戦略転換の物語は、はいろいろな整理の仕方がありますが、当時のインテルの意思決定システムを見てみましょう。(ODメディア107を再掲)

当時、インテルの生産体制はDRAMとMPUのファブの共有がありました。定期月次会議(Regular Monthly Meeting)では、製造スケジューラーがファブごとに集まり製造能力の割り当てを決定しており、それぞれの部門の情報がスケジューラーに集まる。その情報はセールス(製品ごとの売上見込み)、ファイナンス(MPW:Margin Per Wafer)、製造(歩留まり)であり、この情報を基にしてもっともMPWが高い製品に生産能力を割り当てるというものです。結果、1984年になると8つのファブのうちDRAMに割り当てられているのは1つに過ぎなかったというものです。ただ、このような環境適応が最初から計画されてうまくいったかというと、そうではなく実際はもたもたしていたようです。それは、当時のインテルにDRAMこそがテクノロジー・ドライバーというパラダイムがあったからです。しかし、定例月次会議で活動の結果を分析するにつれ、そのパラダイムは破棄せざるを得なくなったのです。後にアンディ・グローブは「萌芽期にあるCPU事業への投資のシフトは、われわれトップの誰かの意思決定によって行われたのではなく、ミドル・マネジャーの毎日の意思決定の積み重ねの結果である。撤退の意思決定はドラマティックな出来事ではなく、われわれが最後の一声を出したに過ぎない」と語っています。インテルのケースは、毎日のオペレーショナルな情報からの意思決定の積み重ねの大切さを教えてくれます。要するに、財務業績を経営に関する診断と学習のツールとして使うことができているかどうかが大切なのです。

 

第3のメッセージ:リーダーの仕事観

有能な経営者は、あたかも自分を全能の神みたいに錯覚してしまうことがあります。そして「よろず相談所」よろしく、何でも自分に相談しに来いと部下に表明します。確かに、何でも相談できることはオープンでよさそうですが、その相談に対してすべては自分が気に入るように意思決定し、幹部たちの提案を無視するようになってしまっては、組織力は高まっていきません。それこそ人材という経営資源の無駄遣いです。下手すると優秀な人材の退社により知的資源を失うという結果になりかねません。このような経営リーダーは、退社していく人たちに対して「彼らは分かっていない」と言って、自己正当化を図ろうとするかもしれません。このように、自分自身の仕事観は自分が思っている以上に他者に強い影響を与えます。ですから、リーダーたるもの自己理解がとても重要であると言われるのです。有能な部下が、その能力を十二分に発揮するにはリーダーたるものどのような仕事観と態度を持つべきかについては、さまざまな研究や文献が指摘するところですので、ここではその詳細は割愛しますが、要するに経営者自身の発するメッセージが他者の能力を十分に活用できているかどうかを常に自問自答しておくことが大切なのです。

 

第4のメッセージ:時間の活用

多くの課題に取り組まなければならない経営管理者にとって、時間管理は常に頭を悩ませる問題です。ですから、タイムマネジメント研修は定番研修の一つですし、有能な秘書は経営者にとって必要不可欠の存在となります。ですから、自分が課題に対して時間というものをどのように活用する傾向があるのかを理解しておくことはとても大切です。時間の制約をあまりに強調しすぎて、効率のみ考えて部下の仕事ぶりを管理すると、結局は非効率になることもあります。要は、優先順位の付け方です。

重心位置を変えられるゴルフクラブを最初に世に出したのはテーラーメイドです。最初はクラブ一式(パターを除く13本)重心位置を変えられるモデルとして販売しようとしました。とても意欲的な計画だったのです。ところが、販売予定日である25周年記念日までには間に合わせるのが難しいと分かったのです。そこでどうしたかというと、このプロジェクトの責任者は、1本だけ発売という目標に切り替えました。この1本が、r7クワッドドライバーです。これは大成功しました。テーラーメイドのケースは、無理に締め切りと格闘するのではなく、どうすればチームが時間を有効に活用できるか、彼らのエネルギーをどこに集中させれば最も効果的か、どうすれば時間を有効に使えるか、ということを大事にしたのです。効率を求めて部下の尻を叩くのが時間管理ではないということを教えてくれます。

 

第5のメッセージ:企業文化

P.ドラッカーの「文化は戦略に勝る」という言葉を借りるまでもなく、より良い組織文化を醸成していくことは経営者の最重要課題であることは間違いありません。ODメディアで既に言及していますが、マイクロソフトCEOのサティア・ナデラもこのことをとても重視しています。彼は就任時に、Fixed Mindset(過去に縛られる固いマインド)からGrowth Mindset(成長や変化は何時でもできるという柔軟なマインド)への転換を標榜し、マイクロソフトの従来の組織文化を変える努力をしてきました。「社員一人ひとりが難題に立ち向かい、乗り越えようとすることで、個々人が伸び、その結果、会社も伸びる」という信念を実践し、社員にもそれを期待したのです。その結果、マイクロソフトを悪の帝国と呼ぶ人はいなくなったようです。先の4つのメッセージ「組織体制(人事)」、「財務業績の活用」、「リーダーの仕事観」、「時間の活用」は、全て「組織文化」の醸成に繋がります。鶏と卵ではありませんが、この5つはとても強い相関関係があります。

 

J.ハムの視点は、リーダーシップを考える時に、どのようなスタイルや資質が求められるのかというのではなく、何を管理し明確なメッセージを発すべきか、という視点からの主張ですが、経営管理の実務からすれば「なるほど」と納得させられる主張です。かつてXeroxの再生を支援したD.ナドラーは、変革期のリーダーシップとして、ビジョンを掲げて引っ張るビジョナリーリーダー、現場で手本を見せる規範的リーダーと共に、組織運営の新しい仕組みを構築していく制度的リーダーという3つのリーダーシップが重要であると言っていましたが、J.ハムもリーダーシップを属人的なものと思ってしまう我々に異なる視点を与えてくれます。

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。