• 組織開発(OD)の実践って、どうするの?-143 -リーダーは何に意を注ぐべきか①

組織開発(OD)の実践って、どうするの?-143 -リーダーは何に意を注ぐべきか①

リーダーは何に意を注ぐべきか①

リーダーシップについて語られるとき、それはリーダー個々の資質やスタイルという視点で語られることが多い。例えばそれは、生まれつきの資質、眼に見える行動、置かれた状況、変革を起こすカギ、変革型リーダーといったものです。J.ハム(VSPキャピタル・ゼネラルマネジャー)は、これとは異なる視点でリーダーシップというものを捉えています。それは、組織運営においてリーダー(この場合は経営者、トップマネジメント)が意を注ぐべきことは何かという視点です。ハムによれば、意を注ぐべき重要な課題に対してリーダーが曖昧なメッセージを出すのは組織を混乱させると説いています。では、意を注ぐべき重要な課題とは何でしょうか。「組織体制」「財務業績」「仕事観」「時間管理」「企業文化」の5つがそれです。この5つについて、経営者は包括的な言葉で語る傾向があると言います。それは例えば、「お客様第一主義」とか、「技術力で社会に貢献する」といったような文句です。理念の標語としては良いかもしれませんが、その内容をみんなが同じように理解しているとは限らないのです。むしろ個々に異なる受け止め方をしていることの方が圧倒的に多いのです。コミュニケーションが不十分であると嘆く経営者は多いですが、コミュニケーションの不十分さを嘆く前に、自分が発するメッセージが、意図するように受け止められているかではなく、意図するように受け止められるメッセージになっているかを問い直す必要があります。メッセージ(言葉と態度)が中途半端になると、それを受ける部下集団はいろいろなことを忖度し、結局のところ効果的な動きができず、業績もあまりよろしくないという結果になってしまいます。前置きはこの程度にして、意を注ぐべき5つのテーマについて見ていくことにしましょう。

 

第1のメッセージ:組織体制の意図

組織体制は、つまるところ人事という非常にセンシティブな問題を取り扱うことです。ここにはさまざまなメッセージが込められるのですが、そのメッセージはいろいろな思惑によっていかようにも解釈されます。社内政治が当たり前のようになっている文化の中では、それは混乱の素にもなります。組織図に代表される組織体制の提示は、人材という経営資源を最適化するための手段なのです。組織体制に明確なメッセージを添えて正しく使うことができれば、それは変革のカンフル剤となります。例えば、競争相手に対抗するために早急な体制変更が求められたある会社のトップのメッセージを見てみましょう。

「みなさん、我々は市場シェアを賭けた戦いの真っただ中にいます。私はこの戦いに勝つために給料をもらっていますし、それは皆さんも同じです。ところが現在の組織体制を見ると、この戦いに勝利できるような体制になっていません。そこで、より効果的に業務を遂行できるように体制を変更します。皆さんのほとんどは、これまで通りの仕事を続けてもらうことになりますが、上司が変わるかもしれません」

こう説明したうえで、全員に新しい組織図を見せ、更に以下のように付け加えました。

「現在、10時45分です。もし気に入らなければ、正午までは怒っていても構いません。正午になったらピザを配ります。そして、13時からは全員はたらしい配置で仕事を始めてもらいます」

このトップマネジメントは、競争に勝つために資源の最適化をしたわけです。マネジャーたちには、新しい体制で人的資源をどのように活用して欲しいかを事前に伝えていました。そして、素早く明確なメッセージと共にその体制変更を実施したのです。この会社は150人規模の会社です。市場や競争環境がどのようになっているかを常々共有することができていたので、このような素早く明確な体制変更ができたということも言えます。しかし、人的リソースをどのように活用するかは経営の中でも最重要な課題です。このことを十分に説明せずに体制変更を行っている会社はとても多くあります。経営者が個人の思惑で人事をする場合などは、組織に不満と不安を蔓延させます。そんなことは分かっているという方々が圧倒的に多いと思いますが、権力闘争や維持の手段にしてしまう個人や集団は結構いるんですよね。わかっちゃいるけどやめられない、ということでしょうか。ちょうど先週は自民党総裁選でした。岸田さんの人事は、皆さんにどのように映ったでしょうか。(続く)

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。