• 自分らしさとリーダーシップ~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【129】~

自分らしさとリーダーシップ~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【129】~

前回までのODメディアで、エドモンドソンが言うところの心理的安全は、自分らしく居られる職場づくりではないということを見てきました。とはいえ、自分らしくあることは、どのような人にとっても大切であろうことは想像できます。

しかしこれは、とても難しい問題のようです。職場において自分らしくあろうということを「私を私らしく扱ってください」という意味として理解することは、他者に対して甘えて依存していることにつながるかも知れません。

あるいは、自分らしく居られる職場ということも、そもそも自分らしいとは何かという問いに明確に答えることが出来なければ、例えば「その仕事をすることは私らしくありませんから」というような屁理屈を並べ立て、新しい仕事への挑戦を拒否することにもつながり、個人や集団の成長にはつながらないでしょう。

では、自分らしさということをどのように理解し、実践することが出来るのでしょうか。そして、それはどのようなことにつながっていくのでしょうか。

 

このことを考える上でヒントになる寄稿文があります。それが「自分らしさのリーダーシップ:HBR 2007.9」です。原題は「Discovering Your Authentic Leadership」です。

オーセンティック・リーダーシップとは、唯我独尊的なリーダーシップではなく、自分自身の価値観や信念に正直になりながらも倫理観を持ってリーダーシップを発揮することです。

リーダーシップ研究にはさまざまなアプローチがありますが、どのような研究も理想のリーダー像を描き出してはいません。また、リーダーに共通のスタイルや資質も見つけることが出来ませんでした。

ということは、私たちが誰かの真似をするということは、自分を偽ることであり、それは長続きしないということです。もちろん、リーダーシップの世界やスポーツの世界では「お手本」となる人を見つけ、その人の言動から学ぶということはごくごく普通に実践されることです。学習や成長にとって先人に学ぶというのはとても大切です。

「学ぶ」とは、そもそも「真似る」が「真似ぶ」になり、「学ぶ」になったと言われています。つまり、真似ることは学ぶことに繋がります。全米女子オープンで優勝した笹生優香さんは、ローリー・マキロイを真似ることで現在のスイングをつくったと言っています。

しかしながら、リーダーシップという高度に対人関係能力が求められる領域では、リーダーにとって大切な他者からの信用というものは、誰か他の人を真似ているときではなく、ありのままの自分を表現できているときに得られるものです。

 

では、オーセンティック・リーダーシップ、つまり自分らしさを貫くリーダーとして成長するには何が大切なのでしょうか。HRBの寄稿文からその主張するところを見ていきましょう。

 

①自分史に学ぶ

リーダーシップは、その人の人生経験に大きく影響されます。意識的か無意識的かを問わず、私たちは現実世界の中で試され、自らを振り返っては「なぜこうなんだ?」「私はいったい何をやっているんだ?」というように自分を理解しようと努めてきたのです。

そうする中でリーダーシップを発揮する人は、リーダーシップの目的を悟り、自分らしくあることがリーダーとしての能力を高めることを学んできたのです。それは、出来事についての意味を理解し、新しい体験の中で時にはその意味を書き換え、そして社会における自分の居場所を探し出すのです。

自分史には、ありとあらゆる経験が詰まっています。例えば、両親との関係、クラブ活動、先輩や教師からの教え、交友関係、そして嬉しかったこと、苦労したこと等の体験、その時々の感情の記憶、そういったことが自分自身の行動の動機を生んでいます。

 

②自己認識する

スタンフォード大学経営大学院の顧問委員会に名を連ねる75人に「リーダーが伸ばすべき最大の能力は何か」と質問したところ、その答えは「自己認識力」でほぼ一致していました。

新米は社会や組織における自分の居場所を確かめるのに忙しく、自分の内面について深く考えることは難しいものです。周囲は、分かりやすく目に見える成功を求めます。例えば、収入、名声、地位、権力などです。しかし、このようなものは短期的には自分を満足させてくれるでしょうが、長続きしません。

③価値観を体現する

自分らしさを貫くオーセンティック・リーダーシップの大元となる価値観は、その人の信念から生まれてくるものですが、それはプレッシャーのかかる状況に追い詰められてみて、初めて分かることが多いものです。

そもそもリーダーシップの行動原理は、己の価値観/信念を行動によって表すことです。ゆるぎない価値観を抱き、これを厳しい状況の中で試すことでリーダーの行動原理が見えてきます。

④内発的動機に注目する

リーダーは人生のバランスを崩すことなく、高いモチベーションを維持することが求められます。これはかなり難しいことで、仕事において闇雲に目標達成に驀進すると、私生活でいろいろな問題を起こすことはよく知られています。

動機には、内発的動機と外発的動機があるが、私たちにとって外発的動機である昇進・報酬・名声・社会的地位はとても魅力的です。

リーダーとてそれは同じです。一方で、内発的動機は自分の人生の意味を実現させるところにあります。この葛藤に対して向かい合い自分にとっての真のモチベーション要因を見つけることが大切です。

⑤応援団をつくる

優れたリーダーは、進むべき道を踏み外さないように、またさまざまな場面で支援を提供する応援団をつくっています。これは、リーダーが苦労してそのような人々を集めるというより、リーダーのオーセンティックな姿勢と行動に惹かれて周りがそのような応援団をつくろうとなるのです。

その人に惹かれた人たちが応援団になるということでしょう。つまり、人望があるということでしょう。人望があるとは、自分に対してうそ偽りのない行動をしている人たちが周囲から認知されるものです。

HBRの「Discovering Your Authentic Leadership」はリーダーにとって大切なことを書いていますが、これはリーダーではない人たちにとっても「自分らしさとは何か」を考える上でとても大切なことであろうと言えます。

 

※この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株) 波多江嘉之です