• 心理的安全性とは何か③~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【128】~

心理的安全性とは何か③~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【128】~

エドモンドソンが言うところの心理的安全は、他者に優しく接すること、その人をその人らしく扱うこと、という意味ではないことが分かりました。そして、心理的安全を確保していくために、マネジメントにとっては、率直さ、謙虚さ、好奇心、ユーモアを上手く使いながらチーム内に学習を促進していくことが求められます。

しかしながら、心理的安全を強化すると社員たちのアカウンタビリティ(結果への責任)が低くなると考える向きもあります。しかし、エドモンドソンによれば心理的安全とアカウンタビリティは両立するものであると言います。

つまり、いまの知識の限界を認めつつ、野心的な目標を設定することで、質問を奨励し、努力を唸学ことが重要なのです。ただし、心理的な安全が保障されないアカウンタビリティの重視は、組織の中に不安を蔓延させ機能不全を生じさせます。

 

複雑な環境にあって高い業績を上げていくには、率直さ、柔軟性、相互依存関係という、心理的安全が保障された環境でしか醸成できない要素が大切であるということを、マネジメントは認めることが必要です。

心理的安全が確保されていれば、厳しいフィードバックを返したり、一筋縄ではいかない困難な議論を交わしたりといった活動が可能になります。つまし、真実を語ることができるようになるのです。

以前のODメディアで、真実が語れるチームのことをオープンチームワーク(W.シュッツ)という言葉で紹介しましたが、心理的安全もそこに着目しているのですね。負の忖度がまかり通る組織はやはり生産性が低下するのです。

組織の劣化はそんなところから始まるのですね。隠さなくてはならないとか、おかしいなと思いながら、それを守ろうとしたことが、むしろ人々の責任意識を低下させ、ひいては業務品質を低下させるのです。どこかの政府・政権みたいですね。笑えない話です。

 

では、心理的安全をつくっていくには組織のどの階層が重要になるのでしょうか。エドモンドソンは、それはミドルマネジャーの貢献がカギを握ると言います。もちろん、トップマネジメントもそうです。そしてそれは、次の2つの単純なステップが極めて重要だと言います。

 

第1は、チーム(部門)が直面している難題に答えがなければ、それを公然と認めてしまうことです。ミドルマネジャーが変なプライドを捨てて「私も分からないんだよ」と認めることが必要なんですね。

どうも一般的なアメリカの組織文化では、上司が「私は分かっていない」ということは自己否定につながるというメンタリティーが強いのかもしれませんが、それを口にするのはものすごく憚られるようです。日本でもそれはあまり変わらないかもしれません。頼りになる上司でいたいですもんね。しかし、曖昧な状況の中で「分からない」ということは、むしろ賢明かつ正しい診断と言えます。

第2は、質問することです。それも、疑問に思うことを率直に、直接ぶつけることが大切です。部下にしてみれば、上司が部下の話を聴きたがり、しかも部下の意見を尊重してくれるとなれば、部下たちの反応はポジティブになってきます。

エドモンドソンは、病院での品質改善プロジェクトを調査している時に、そのような事例を見ています。質問を投げかけ、知識不足を認め、他のメンバーの協力に感謝する医長の下では、スタッフが感じる心理的安全のレベルが、そうでない医長の下で働くスタッフよりも高く、その結果、感染症の低下をはじめ、治療を改善させる可能性のある新たな処置を速やかに採用していたのです。

 

さて、エドモンドソンはHBRへのこの寄稿文「恐怖は学習を阻害する」の最後で次のように述べています。それを掲載します。

「本稿の趣旨は、業務遂行において重視されてきた効率志向が、今後は通用しなくなると指摘することではない。当然ながら、コール・センターやファスト・フード、製造工場のように競合他社よりも迅速かつ優れて業務遂行することが決定的に重要な職場もある。とはいえ、そのような組織ですら、改善を図るには社員の学習が欠かせない。(中略)

上司は、管理するよりも権限移譲を推し進め、正解を教えるよりも正しい質問を投げかけ、遵守を迫るよりも柔軟性を重視する時、部下たちの業務執行は次の段階へと移行する。そして、自分たちのアイデアが歓迎されることを知れば、部下たちはコスト削減や品質改善につながる革新的な方法を提案する。こうして、組織の成功を支える基盤がより強固になる」

 

※この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株) 波多江嘉之です