• 心理的安全性とは何か~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【126】~

心理的安全性とは何か~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【126】~

日本でも、心理的安全性という概念が職場マネジメントでも大切だと認識されてきています。

最近、若手に心理的安全って、どんな意味で使われているのかなと尋ねると「さまざまな文脈を見てみると、自分らしく居られる環境づくり」というような返答でした。確かに「自分らしく居られる場」というのは大切なことかもしれませんが、A.エドモンドソンが言っている意味はそれとは異なります。

では彼女は、心理的安全性をどのような意味で使っているのでしょうか。彼女のHBRへの投稿(2008.10.10)からその内容を紹介していくことにします。タイトルは「恐怖は学習意欲を阻害する」です。

 

彼女の主張の背景には、効率志向の組織から学習志向の組織へ変わっていかなければ、知識経済化に於ける競争環境には勝てないというものがあります。これを証明したプロジェクトが、Googleで実施されたプロジェクト・アリストテレスです。

また、A.エドモンドソンが心理的安全性の重要性を認識した典型例がNASAのチャレンジャー爆発事故です。調査委員会の聞き取りに応じたNASAのスタッフが「当時は上司に逆らって何かを言える雰囲気ではなかった」といっています。つまり恐怖が支配している組織では、仕事に対する責任意識によって問題を指摘するよりは沈黙を選択してしまうのです。

 

さて、エドモンドソンの投稿に戻りましょう。この投稿の書き出しは以下のようなものです。「ほとんどの経営者は厳格な業務執行、つまり、商品を効率的かつ安定的に生産し、納期までにきちんと収める、あるいはサービスを効率的にタイミング良く提供することが、顧客満足と高業績をもたらす唯一の最善策だと信じている。この前提に立てば、たとえ一瞬でも業務執行の手綱を緩めると、危険が待ち受けていることになる。

しかし、実際には、知的経済にあっては完璧に業務を執行しても成功が永続的に保証されるわけではない。ほとんどの分野に新たな知識が押し寄せ、これまでのやり方にこだわっていると、直ぐに取り残されてしまう」。

彼女は次のようにも言っています。「業務を効率化するというマインドセットによって、社員の学習能力とイノベーション能力が抑えられてしまう。ことを正しく処理することが重視されるため、成功し続けるうえで欠かせない実験と検証が排除されてしまう」。

業務を効率化するというマインドセットというのは、リーマンショック後の自動車業界2社で同じように悩んでいるということで聞いたことがあります。彼らは異口同音に以下のように言っていました。「リーマンショック前まで北米は絶好調で、私たちは納期のことしか考えていなかった」と。

 

エドモンドソンは、知的集約型組織の代表格であるような病院組織を20年近く研究してきており、知的経済における優れた業務執行とはどのようなものかを提唱している。それは、高い品質基準を遵守しつつ、迅速に学習方法を見つけ出すのが優れた組織である、といいます。エドモンドソンは、そのような優れた組織を学習志向の組織と名付けています。学習志向の組織は、業務プロセスを進化させることが重視されます。その為に、日常業務に4つのアプローチが組み込まれているのが特徴です。

①入手しうる最善の知識。そしてそれはたえず変化するものと認識されている。

②必要な時に、必要な場所で情報を入手できるようにすること。

③業務プロセスに関するデータを日常的に収集する。

④改善策を見つけるため、収集したデータを詳しく検証する。

これらの4つのアプローチが組織全体の学習インフラとなり、その結果、継続的学習が日常業務の一部として組み込まれることになります。このような学習志向の組織を創造していくことに欠かせないのが「心理的安全性」なのです。(以下続く)

 

※この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株) 波多江嘉之です