• 分化と統合の調整~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【123】~

分化と統合の調整~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【123】~

最初にある命題の提示から。

「同じ会社でも、目標の理解や対人関係の志向性、ものごとを捉える時間軸などにおいて体系的な差が出る。これを分化という。分化の度合いは、その組織が棲息する環境の不確実性が高いほど進行する。」(P.ローレンス、J.ローシュ)

ローレンスとローシュの分化と統合は、組織論において「環境が複雑な状況では分化が進み、環境が安定している状況では統合が進む」という概念として知られています。

 

もう少し理解を進めてみましょう。ローレンスとローシュの研究では、「最も環境が複雑な産業では、企業は分化も統合も高度に発達させていた。例えば、チーム形式で組織メンバー間の相互作用が行われていたし、手続きや計画などの他に、組織を統合する役割を果たす人員の比率が高かった。

また、分権化されており、統合部門が高い影響力を持っていた。一方、環境不確実性の低い産業では、分化の程度は低く、階層によって統合されていた。また計画・手続きが中心で統合機能を果たす人員は少なく、統合パターンは上下関係中心で、集権化されていた」というのが分かったのです。ポイントは環境の不確実性という要因です。

 

ローレンスとローシュの調査では、不確実性が高い環境に置かれている企業ほど、部門ごとに組織運営方法が異なっていたのです。例えば、生産部は決まり事をきちんと守って物事を進め、販売部は柔軟な発想で臨機応変に問題対処する事を奨励されるというようになっていました。

そこで彼らは、環境に合った組織形態を、部門ごとに採用しているので業績が良いのではないかと考えたのです。しかしながら、分化の程度が過度に進むと、部門同士の反目や、独走などを招きかねません。

そこで部門間の調整をして、全体のまとまりを出すことが必要になります。ローレンスとローシュは、これを「統合」と呼んだのです。そして、この分化と統合とがうまくいっている企業ほど、良い業績を出していると結論付けたのです。

この考え方は、状況適合理論ともいわれます。ここまではよく知られている研究ですね。そこで問題は、誰が、どのようにして、組織が置かれている状況を深く理解して、組織運営方法についてみんなに周知徹底し、効果的な行動がとれるようにするか、です。

 

組織が置かれている状況を理解する、ということで一般的に選択される方法は「質問紙法」による従業員の認識調査です。それは、組織活性度調査とか、健康度調査というような名称で実施されます。1年に1回実施している会社もあれば、何らかの変革を要する時に実施するという会社もあります。

この施策での問題は調査した後のデータの使い方です。率直に言って、このデータを有効に活用している会社がホントに少ない。もったいないことをしていると思います。

このデータの使い方で最も多いのが、調査実施担当者がトップ報告をして、その後トップが何らかの形で方針に反映させるか、管理職に結果を通達して、職場で話し合ってほしいというものです。

これじゃ、何の問題解決にもならない。そして依然として、「上下間に考え方や認識のギャップがある」「部門間の協力体制がなかなか取れない」「戦略の意図が浸透していない」といった問題意識は、解決されず残ったままになるのです。

そもそも、このような調査の中で一般的にポジティブな反応として出てくるのが「職場の雰囲気」です。つまり、職場小集団の人間関係や支援関係は、多くの日本の組織ではうまくいっているのです。

分化と統合でいえば、分化した職場集団では、それなりに自分たち自身でうまくやっていく方法と関係性をつくり出しているのです。ところが、統合するという機能が効果的に働いていないのです。

 

ODメディアでも取り上げた「組織の<重さ>研究」でも指摘があるように、日本の組織は「和」を過剰に重視する傾向があります。ですから、身近な人間集団では波風を立てるのを避けようという意識が強いのは当然と言えます。

しかし、この性質は不確実性が少ない環境下の中で機能した性質であり、不確実性の高い現在はむしろ機能不全を引き起こす原因となっている可能性が高いのです。加えて、「和」は戦略実行を促進する手段であったものが、いつの間にか「和」を維持することが目的となり、管理者に過剰な調整能力を求めているともいえるのです。

「組織の<重さ>研究」では、「和」が過剰になっていないかを測定するための質問として以下の3つが選定されています。

a1人でもゴネると大変

b激しい議論は子供と思われる

c対立回避するヤツが出世する

 

ローレンスとローシュによれば、組織が高い経営成果を達成するためには、環境の不確実性に対応して組織の下位ユニットの志向性を分化させると同時に、それらを統合するために統合担当職を置いたり、徹底的な議論を通じたコンフリクト解消を行ったりする必要があると指摘しています。

組織が成長拡大していくにつれて、下位ユニットがそれぞれ異なる目標を追求し、お互いに異なる志向性を発達させていくこと自体は、ある意味当然のことであり、だからこそこの問題を解決するためにマネジメントの仕事が存在するのです。どうもこの辺りが十分認識されていない会社が多い。

だから、せっかくの従業員アンケートが活かされていないのです。「組織の<重さ>研究」では、内向きの合意形成ばかりに注目し、かつ個人のメンツを気にするようでは、組織運営の中核を担うミドルが組織の<重さ>を実感するに違いないと言っています。

これ根深い原因があるのではないかと思うのですよ。それは、個人としての自律と自覚を前提とした議論や対話をする訓練ができていないからなのではないかと思うのですよ。(以下続く)

 

※この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株) 波多江嘉之です