今必要な戦略論 〜マーケティングとイノベーションの違い〜

組織の問題解決を考える上で、経営戦略・事業戦略は切っても切り離せないほど密接に関係しています。組織はそれ単独では存在できません。なぜなら目的がなければ組織を作る必要がないからです。戦略はその目的を定義付け、具体化したものといえます。またそこ向かうための道筋を記したアクセスマップのようなものです。

そのためこのアクセスマップをどう描くかを考えることは組織の問題解決を考える上ではかなり重要な地位を占めていて、それを視野に入れない組織の問題解決は一度は疑ってみたほうが良い、と感じるほどです。

JoyBizではもちろん組織の問題解決の実践家として、日々こうした課題への実践を通して知見を深めております。今回は、戦略という目的へのアクセスマップをどのように考え、描いていくかという悩みに役立てていただけるように大きな流れを解説してみたいと思います。

これからの戦略論の視座① 発生型問題解決と創造的問題解決

弊社の代表は、経営コンサルタントとして主に企業の「戦略」に関する領域を数多くご支援してきました。戦略は上記のように「問題解決」とは切っても切れない関係です。そして有用な戦略を描いていくためには、特に問題解決の中でも、過去に目を向けて現在の姿の原因を追求するような「発生型問題解決(=論理的問題解決)」ではなく、どのような未来を創っていくのかという可能性を追求するような「機会開発型問題解決(=創造的問題解決)」の思考スタイルを活用していくことが重要である、ということのようです。

※ちなみにこの思考スタイルを実践するには「仮想法・アブダクション思考」が必要です。思考法というとロジカルシンキングやクリティカルシンキングが代表的ですが、それは原因追求型の課題解決に非常に力を発揮します。しかし未来に向けて物事を考えるときには、そうした原因追求型の思考では限界がきます。まだ起こってもいない事柄を考えるからです。そのため色々な可能性を考え、それらをつなげて未来に向けての仮説を形成していく「仮想法・アブダクション思考」が重要になるのです。

しかし戦略策定や実践化のコンサルテーションプロジェクトに入ると、「生き残りをかけた戦略を作る」「将来の飛躍的成長の基礎を作る」という旗印を掲げているにもかかわらず、これまでの経営戦略とほとんど違いがわからないような計画を作ろうとしていることが少なくありません。そのプロジェクトのメンバーはみんな「これまでとは違う戦略が必要だ」と強く感じていいらっしゃいます。しかし実際に策定していくステージになるとそのダイナミックさは失われてしまうことが多いのです。

例えば、「以前はこうだったから」というロジックのみで問題解決計画をまとめようとしてしまう傾向があります。経営戦略には有名かつ有効な数多くのフレームワークがありますが、それはあくまでフレームワークです。物事を分析していくためには役に立ちますし、今自社が置かれている現状の姿を理解するのには非常に役に立つものです。しかし例えばSWOT分析の様な手法で分析をすることに主眼が置かれ、そこから何をすべきか、という議論がなされないまま以前と同様の「フォーマット」を活用して計画立案をしている組織もあります。

※余談ですが、実は最近ますますそうした傾向が強まっていると危惧しています。以前は一部の経営コンサルタントしか知らなかった様なフレームワークも今では少し勉強している一般社員の方ですらその言葉を知っています。こうしたことが広く普及していくこと自体は喜ばしいのですが、言葉だけが知れ渡る様になったことで、深い理解をせずとも使えるようになってしまいました。そのためそれ単体では戦略は生まれないのに、分析をやることが戦略コンサルの様な風潮も出てきています。

これからの経営戦略の視座② マーケティングとイノベーションの違い

もう一つ。今後の戦略論を考える上で重要な視点はマーケティングとイノベーションの違いを理解することです。

今から10年程前になりますが、弊社代表がビジネススクールで学習をしていた時代にその時ご教授をいただいたマーケティングの大家である嶋口教授の言葉が非常に象徴的です。

「今はマーケティングがドン詰まった時代」

マーケティングという言葉も戦略をかんがえる上で重要な概念であり、テクノロジーの一つです。それがドン詰まっている、という嶋口教授の言葉は非常に重いモノがあります。

確かによく考えてみるとマーケティングという言葉の意味は、「顧客(マーケット)と自社の製品・サービスをそれに合わせていく」ということができます。つまり自社の製品・サービスがそこにあり、それをマーケットと橋渡ししていく、というのがマーケティングに求められていることです。しかし、現在のように新しい商品・サービスが既存のものを「破壊的」に排除してしまうことさえある環境の中では、マーケティングの前提にある「自社の商品・サービス」それ自体に対しても問い直しの余地が出てきます。

元々マーケティングは事業のライフサイクルで云えば、成長期から衰退期における連続的な変化プロセス上で有効な概念なのです。しかし現在のような環境では、多くの業界やサービスがライフサイクルでいうと再展開期や創造期になりえますし、そのように捉えていく必要もあります。そうした場合にはマーケティングはあまり機能しません。それがマーケティングがドン詰まっている、と言った意味でしょう。

ではこういった再展開期や創造期のように、不連続な変化が生じたときに求められるのはなんなのでしょうか?それは「イノベーション」という概念です。

ドラッカーは、企業活動の目的を「顧客の創造」と言いました。そしてそのための重要なアプローチとして「マーケティング」と「イノベーション」を挙げています。

彼の言葉を要約すると「マーケティングとはすでに顕在している欲求を満足させ、イノベーションは今まだ潜在的な状態の欲求を満足させる」だと言います。そう考えるとイノベーションとは、顧客に新しい価値を提示し、新たな需要(欲求)を作り出して社会に変化を与えていくことだと言えます。

残念なことに、上記の発想の違いと同様に、これだけ経営がボーダレスになり、グローバリゼーションが進み、ICTテクノロジーのハイスピードな変化が襲ってきている環境においても、マーケティングのテクノロジーのみによって戦略を構想しようとしてしまう企業様もまだまだ多いのかもしれません。そうした発想のタガを外し、軌道修正をかけていくことが今の戦略論に求められていることといえるでしょう。

以上まとめてきたように、戦略を構想する上では、

  • 問題解決の発想や思考法を変えること
  • 構想するための考え方(マーケティングだけでなくイノベーション)を変えること

の2点が重要です。

こうした戦略を実際に構築したい、それができるように企画力を社員に身につけさせたい、といった方は、一度これまでの戦略の構築プロセスやその実行状況など振り返ってみると良いのではないでしょうか。そこに至る過程を上記の思考法や考え方を軸にして点検すると再構築のヒントがあるはずです。(もちろん弊社でもそうしたご支援が可能ですので、お気軽にご相談ください。)