• 組織が開発されるとは②~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【121】~

組織が開発されるとは②~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【121】~

前々回のODメディアの最後は、みなさんが所属する組織や社会は、その組織や社会をどのような言葉で語っているのかという問いかけでした。如何でしょうか。中々難しい問いですが、問題解決にとって最も大切なことは、問題の定義です。ここが外れていると問題解決が迷走します。

研究者の眼から言えば、組織開発(OD)というのは、一般的に理解されている問題解決とは異なると言いたいところでしょうが、現状を変えていく活動は一般的には問題解決と言われます。

ハイフェッツの言い方を借りれば「適応を要する課題」に対する問題解決です。つまり、当事者が悩んでいる何とかしたいことは、適応を要する課題なんだということを認識しなければOD的アプローチが採用されませんし、組織は開発されないのです。問題認識を間違うと、適応を要する課題に対して技術的問題解決アプローチをやってしまうんですね。

 

ちょっと話が回り道をしていますね。組織が開発されるとは:その②.Developmentに話を戻します。既にお分かりのように、組織の見方が異なれば開発の意味が変わってくるし、ということは問題解決のアプローチ方法も変わりますね。

組織開発が現状を変える働きかけであるならば、それが成功したかをどのような尺度で測るのか、という問いでは多分、以下のようなことがその答えになるでしょう。

①クライアントが認知している変革ニーズ(問題認識)が満たされた(解決された)。

②クライアントが自分たち自身で問題解決を実践できるようになる。

③そして、経済的な成果につながる。

企業組織では、3番目は絶対と言って良いほど強い要望になります。これがなけりゃどのような問題解決アプローチも実施する意味がないというほどのものでしょう。しかし、これはODメディアでも以前言及したように、短期的な経済的成果をいきなり目標にすると組織開発(OD)は効果的に機能しません。その目標に対しては、財務や事業の構造改革(リストラ)みたいな方法が有効なことが多いものです。

また、前回確認した「ODは、組織の健全さと有効さを高める、組織文化の変革に寄与する、組織を円滑に機能させる」という定義も、発達・開発という視点ではないように思います。

 

では、Development(発達、開発)とはどういうことか。ブッシュとマーシャックによれば、それは3つあるのではないかということです。ただしこれは、一つの見解であり、研究者や実践者に合意されたものではありません。では、その3つとは

①自分のことをよく知っている。

②思慮深い行動・オープンな議論ができる。

③潜在能力の発揮・絶え間のない改善を実施する。

というものです。ブッシュとマーシャックの3つを見てみると、組織の問題解決を依頼する側から見ると何とも悠長な内容に見えてしまいます。ところがこの3つはよくよく考えてみると、組織という人間集団が持続的にDevelopmentしていくには、とても重要で大切なことだということが分かります。では以下じっくり見ていきましょう。

 

まず、「自分のことをよく知っている」ということについては、孫子の兵法にも次のような格言があります。「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」。リーダーシップでも、度々言及しているレジリエンスでも自己理解が大切と言われていますが、人間集団に介入する組織開発(OD)でもそれは同じですね。

当事者集団の人々自身が、自己および自分たちに対する気づきが深まれば、自分たちが組織をどのように見ているかについて、お互いがリスクを感じることなく自由に話せることが出来るということです。そのような状態は、問題解決の質とスピードを上げることが出来ます。

次に、「思慮深い行動・オープンな議論ができる」とは、自己への気づきが高まれば情動的な行動が減少し、理性的な目的志向の行動が増えてくるということです。気を付けておきたいのは、思慮深い行動・オープンな議論ができるということは、感情を抑圧したり否定したりすることではなく、むしろそれについて話し合える状態を作ることです。

チームのメンバーが、個人的に脅威を感じていても、お互いにそれを認めることが出来るほど受容的になっていて、かつチーム全体に、それらの感情を認める気持ちがあるとき、私たちはより柔軟な行動を選択できるようになります。W.シュッツのオープンネスやA.エドモンドソンが提唱する「心理的安全性」もこの概念と同じです。

 

最後に、「潜在能力の発揮・絶え間のない改善を実施する」とは、上記の2つが実現していると、集団は自分たちが持っている能力を思い切って使う、あるいは開発していこうとします。つまり、こんなことをやってどうなるんだとか、無駄なことはやめようではなく、リスクに挑戦する勇気が湧いてくるのです。

 

ということで、Developmentの3つ「自分のことをよく知っている、思慮深い行動・オープンな議論ができる、潜在能力の発揮・絶え間のない改善を実施する」は、人間集団が問題や課題に柔軟に適応し、持続的により良くなっていく土台なのです。この3つが「組織が開発される」ということに対する一つの答えです。如何でしょうか。

ということは、コロナ禍の中で右往左往している政府や官僚組織および日本医師会は「自分のことをよく知らず(これまでの経験を糧にしておらず)、思慮深い行動・オープンな議論ができず(パワーポリティクスの中で忖度行動が横行し)、潜在能力の発揮・絶え間のない改善をしてこなかった(リスクを回避する前例踏襲をやってしまう)」ということですかね。日本の政府や官僚組織はやっぱり組織開発(OD)が必要ですね。ホンマの話。

 

※この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株) 波多江嘉之です