組織開発で外せない根っこの考え方〜現状のリサーチ〜

組織開発で関わる領域はたくさんあります。クライアント組織の経営戦略に踏み込む場合もあれば、制度やシステムの側面に踏み込む場合もあります。またリーダーシップ開発に踏み込むこともあれば、組織風土の側面に切り込むことも考えられます。それは組織開発は「組織の問題解決」だからです。組織の問題はある意味結果と言えます。その結果を生み出している原因が多岐にわたるため、組織開発がカバーする領域も多岐にわたる、というのも頷ける話です。皆さんも組織開発といっていろんなことが行われているので、とらえどころがない印象を感じているかもしれません。

しかし、実は組織開発にはベースとしている根っこの考え方や取り組みが存在しています。それは「現状のリサーチ(診断)」です。それがなければ、アクションが生まれない、ということです。それをうまく実践できるかどうかが成否を分けるといっても過言ではありません。ただし、組織開発でいう「現状のリサーチ」はただ単純に「現状はこうだ」調査・分析ではありません。今回はその根っこにあるリサーチについての考え方を解説してまいります。

すべての鍵は「問題意識の共有」

まずは分かりやすいので、医療のケースで考えてみましょう。

この春に人間ドックに入った人がいました。腸に異変が見つかり、再検査を進められたそうです。もう若くはないと感じていたその方は、用心すべく再検査を受けました。

結果結腸に5つものポリープがあることが分かりました。その内一つは大きなものでした。急いで切除手術を行い患部を病理検査して貰ったそうです。

結果良性でしたが、ドクターの説明によるとそのケースは悪性の場合がほとんどで非常に運が良かったとのこと。今回はきっかけとなった異変は実は別ものだったそうですが、そこで再検査をし、早期に発見できたことがその方の命をつなぎとめたと言えます。

ここでその方が大事だったと感じたのは、「問題意識の共有」だと言っていました。問題を正しく認識し、そのために何をすべきか、という話を今回で言えばドクターと共有することが非常に重要だったというのです。どういう意味か尋ねたところ、「今起きている事象を頭で理解するだけではなく、感情的な温度差をなくして受け止めることが大事だった」とのです。要は、同じ結果を前にしても、ことの重大性を重く受け止めるのか軽く聞き流すのかで自分の命運が大きく変わったということが「問題意識の共有」だということでした。

これまで癌で命を失った方々のヒストリーを調べると、その殆どが診断を受けなかったというよりもその診断結果を重く受け止めていなかった、という判断ミスをしているそうです。その方の場合も最初は軽く受け止めていたそうですが、親族に医者でいたこともあり、診断結果を極めて丁寧に説明してくれたおかげで事態の重要性を認識できたという過程があったようです。

恐らくは、どんなドクターでもその責任として診断結果はインフォームド・コンセントをしてくれていると思います。しかし、本当に重要なのは、説明そのものよりも、問題の重要性をしっかり共有して、温度差を合わせるという「問題意識の共有」の方だと言えます。これは当然ドクターの側だけの問題ではありません。受け止める側の意識の問題でもあります。本当に問題の共有化という視点は極めて重要かつ難しい視点だと思います。

組織における「問題意識の共有」

「問題意識の共有」という視点は、もちろん医療に限った話ではないのはお分かりかと思います。あらゆる問題解決、特に事業や組織などビジネスに関わる場合でも非常に重要なテーマになります。組織における「問題意識の共有」はどうすれば可能になるのでしょうか?その鍵を握るのが冒頭の「現状のリサーチ」というわけです。

リサーチとは診断のことです。通常のイメージでは、問題を調べて明確にすること、「問題を表面化」する事が目的だと捉えられがちです。しかし組織開発でいう「現状のリサーチ」はそれだけではありません。医療のケースでも見られるとおりせっかく診断して患部を表面化しても、治療に向かうだけの重要度を共有できなければ意味がないからです。

組織開発でいう「現状のリサーチ」とは、問題を表面化するだけではなく、診断する側が診断される側の問題解決プロセスに対して積極的にアクションし、リサーチの結果を「共有」していくことです。そしてその結果として必要なアクションが起こされ、またそれをリサーチしていくという流れを踏んでいくことになります。大事なのは「問題を正しく認識」すると同時に、問題に関わる関係者全員が「問題を等しく共有」することなのです。

組織開発コンサルタントは「診断」という行為を「問題を共有させるためのツール」として活用します。問題解決にとって重要なのは「問題意識を共有」することだからです。つまり「診断・リサーチ」という行為はそれ自体が「解決に向かってのアクション」なのです。これが「現状のリサーチ」の意味です。

「現状のリサーチ」実践の鍵 組織のメタ認知

しかしこれには大きな壁が存在します。「人は見たいようにしか見ない」とは良く言ったもので人は、「自分が信じていること以外はなかなか目に入ってこない存在」だからです。これは心理学の研究でもわかっています。例えば、お金に関心が強い人は何かがあった時(またはありそうな時)常にお金回りを中心に物事を判断します。人に関心が強い人は同様に人を中心に物事を判断しがちです。またネガティブなことを想像する癖がある人は、何でもマイナス思考に取ろうとしますし、営業一筋で頑張ってきた人は受注を一番に考え、実際の製品・サービス供給についてはあまり考えを巡らせない傾向があります。

この様に人は「事実をありのままに理解する」のではなく、自分の経験や信念などによる「価値判断」で問題を理解しようとします。従って「問題意識を共有」すると言っても、極端に言えば関わる人の数だけ現実が存在しているため簡単ではないのです。

本当の意味で「問題意識を共有」していくためには、自分たちが無意識のうちに持っている価値判断を批判できるような「メタ認知力」が必要になってきます。「現状のリサーチ」実践はクライアント組織の「メタ認知力」を高めることとセットだと言えます。

問題解決は、「問題意識が共有」された段階で70%は解決しているとも云われます。

そのために組織開発コンサルタントは組織の「メタ認知力」を高めることで「問題意識を共有」し問題解決を促進していくのです。

「組織のメタ認知」を高めるには外部コンサルタントが提供する組織診断などが有効な手段です。しかしその本質は、「外との接触」と「本音の対話」です。自分たちの当たり前を客観化することと勇気を持って本音を表現することで普段どのような認知が組織に作用しているかの一端を見ることができます。外部を活用して取り組みをするのも一つの手ですが、身の回りの機会を利用することから始めることもできます。皆様も研修や会議の場を利用して、「組織の認知」を話題にされるのも組織開発を進める有効な切り口ではないでしょうか。