• ポジティブな逸脱を活用する④~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【118】~

ポジティブな逸脱を活用する④~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【118】~

前回からの続き》 ポジティブな逸脱を具体的に活用していくプロセスは、チェンジ・マネジメントと言われる概念と対比すると、その違いを分かりやすく理解できます。パスカルとスターニンの認識を借りてみることにしましょう。チェンジ・マネジメントは通常以下のような概念を重視します。

 

a リーダーは開拓者である。変革はトップの掛け声、つまりトップダウンで始まり、リーダーを中心に推進される。

b 外部から内部へ変革が導かれる。外部の専門家または問題解決のプロジェクトチームがベストプラクティスを見つけ、これらを普及させる。

c 問題点を重視する。問題を要素に分解(原因追求)し、解決のベストプラクティスを推奨する。従業員達は「他の組織でやれていることが、なぜ君たちにはできないのか」とほのめかされている(下見見られている)ように感じる。

d 論理ありき。考え方が行動を変えるというアプローチ。

e 拒絶反応を引き起こしやすい。外部のアイデアを持ち込まれたり、押し付けられたりするために抵抗が起きる。

f 問題を定義してから解決法を決定する。往々にして、決まった条件の中で問題を定義し、それにふさわしいベストプラクティスを選ぶ。

g 関係者の間で改革が進められる。問題の関係者たちが対象となり、それ以外の人たちに学習が進まない。

 

日本におけるチェンジ・マネジメントは、話し合いを重視する風土もあり、必ずしも上記の概念がそのまま当てはまるわけではありませんが、問題解決を外部の専門家に任せた場合、E.シャインが言うところの医者と患者、専門家とクライアントの関係性が無意識に持ち込まれることが多いですね。

 

では、ポジティブな逸脱活用のアプローチはどのようなものでしょうか。

a リーダーは質問者である。リーダーは現場でどのようなことが起こっているのか、従来のやり方と違いうまくやっているケースはないかという調査を支援・補助する役割を担い、従業員たちが主体的に改革を模索する。(スタートでは、改革を模索するということが大切ですね。正解はこれだ、というアプローチではないということです。)

b 内部から外部へ変革が導かれる。組織内に解決手法を見つけ、これをメンバーが相互に学習し展開していく。

c 既存資産に基づく。社内で例外的に成功した人の手法(これがポジティブな逸脱)を利用する。

d 実践学習ありき。新しい行動(やり方)が考え方を変える。

e 自己複製する。組織内の知恵を利用するため、人間関係から生じる心理的抵抗を回避しやすい。

f 解決手法を学び問題に取り組む。ポジティブな逸脱という例外的に成功した人の手法をみんなが学んでいくことにより、問題解決の幅が広がる。

g 問題の当事者以外の人にも改革の幅を広げる。チームで学習するという習慣を広げることにより、組織全体の問題解決能力を高める。

 

通常、チェンジ・マネジメントはトップダウンで、外部から内部へ、そして問題の確認されているところで実施されます。従って、その焦点は問題点や失敗に向けられます。私たちのような仕事(ODの支援、人材開発など)の場合、仕事の依頼は、概ね、依頼者が問題を感じていることの問題解決のためになされます。そして、コントロールが可能な解決方法を実施するというものです。

 

一方で、ポジティブな逸脱の活用は逆で、ボトムアップで、内部から外部へ、そして成功例があるところから始まります。社内から改革者を見つけ、その人たちを活躍させることで、内側から変革を推し進めるのです。

 

ポジティブな逸脱をすでに活用している組織や会社も沢山あると思います。気を付けておきたいのは、組織の上層部にいる人たちは、かつてはポジティブな逸脱を自らして、それを当時の上役に認められて昇進をしてきた人たちの筈です。

あなたはどうですか。若いころ、いろいろと新しいアイデアを提案し、ブイブイ言わしてきた人ではありませんか。で、今どうでしょう。組織のトップマネジメント・グループにいる今でも、自分が先頭に立ったリーダーシップをとっていないでしょうか。

自分を肯定することはとても大切なことですが、それだけではなくみんなを肯定し、そこから例外的に成功した人の手法を発見し、それを組織に広めることが大切なんです。前回、リーダーに求められることで紹介したように、自分のエゴをちょっと抑える、ということがとても大切なんですね。

 

で、最後に。問題解決に対しての成功例が内部にない場合はどうする、という疑問が当然湧きますよね。その場合は、当事者である内部のメンバーを主役にして「こうすれば成功するのではないか」という解決方法を、みんなで対話しながら見つけ出すということをやるしかありません。

いわゆるアクション・リサーチです。これが、対話型組織開発です。ポジティブな逸脱を活用するポジティブ組織開発は、対話型組織開発の概念や価値観と親和性が高い、実践的には同じ線路の上にあると考えていいでしょう。

我社では人々の考えと行動の変容が組織改革のカギであると考えられる場合は、トップマネジメントは、こうすればいいんだという解決策を自分から発信するのをちょっと抑えて、ポジティブな逸脱を活用するプロセス(ポジティブ組織開発:POD)を選択してみる価値は十分にあると思います。

 

※この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株) 波多江嘉之です