• ポジティブな逸脱を活用する③~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【117】~

ポジティブな逸脱を活用する③~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【117】~

前回からの続き》 ポジティブな逸脱を効果的に活用するポジティブ組織開発では、どのようなリーダーシップが求められるのでしょうか。前回の新薬普及のケースではどのような方法が望ましい方法なのでしょうか。

一つの答えは、社内の知恵を従業員自ら学習させるというものです。つまり、ヨコのコミュニケーションを活用し、「それってどういうこと?」と聴き合うことです。聴かれた方は「それはね」といって自分たちのやり方を教えるというものです。P.センゲが言うところの「チーム学習」ですね。

 

職場学習における他者からの支援関係を調査した結果(中原2010)はとても示唆に富んでいます。支援関係は3つ、それに対して上司・先輩・同僚との関係性を見ているものです。

①業務に関する助言指導を行う業務支援~こうしたらうまくできると教え合う。

②仕事の在り方を客観的に振り返る内省支援~どうすれば良かったかと考えさせる。

③精神的な安息を提供する精神支援~大丈夫。みんなそうして成長した。

 

では、上記3つの支援関係において上司・先輩・同僚はどのように貢献しているでしょうか。調査結果によると以下のような関係性があったそうです。

 

業務支援については、同僚の支援関係が貢献している。内省支援については、上司と先輩が貢献する。精神的支援については、上司の貢献が大きい。という結果です。そういうことなんですね。仕事についての学習はヨコ関係のコミュニケーションがとても大切なんですね。

コミュニケーションにおいて、仕事での成功・失敗体験の語りは個人の学習にポジティブに働く、更に信頼感が感じられる職場ではその効果が高くなるそうです。

こう見ていくとポジティブな逸脱を活用するポジティブ組織開発は、私たちでもやっているよねと言うように、身近なことに感じられるのではないでしょうか。ただし、それはトップマネジメントを筆頭に組織におけるリーダーシップがどのように機能しているかによります。

少なくとも、トップダウンが強く、なんで俺の言うことが伝わっていないんだという統制指向が強いパラダイムのもとではポジティブ組織開発はうまく実践できないでしょう。トップダウンでポジティブ組織開発を実践しようでは、現場は多分ダブルバインド状態になり、返って身動きが出来なことになりかねません。

では、どのようなリーダーシップが求められるのでしょうか。ポジティブ・デビアンス(Positive deviance:ポジティブな逸脱、HBR.2005.9)は以下のように主張しています。

 

リーダーは己のエゴを抑え「頼りになる人物」「何をすべきかを承知している人物」といった自己イメージを捨てなくてはならない。そして、組織の問題を発見し、その解決策を徹底するという役割を従業員たちに譲らなくてはならないと言います。

中々に難しい。しかし、新しい、リーダーにしかできない役割があるのです。それは以下のような役割です。

①組織内の、学習していこうとする意欲や興味を喚起し、維持する。

②組織内のリソース(人、もの、カネ、場所、時間など)を必要なところに配分する。

③学習を促進する評価システムを考案し実施する。

④探求するという風土(従業員の意識と行動)が衰えないように働きかける。

 

これって、サーバント・リーダーシップの実践ではないでしょうか。

ところでこの方法、つまりポジティブな逸脱を活用するというポジティブ組織開発は、あらゆる問題解決や変革活動に適応すべきなのでしょうか。

そうではありません。ポジティブ組織開発もオールマイティな変革手法ではないのです。R.ハイフェッツが言うように問題には、技術的問題と適応を要する課題があります。

ポジティブな逸脱を活用するポジティブ組織開発は、人々の行動や考え方に修正を求める適応を要する課題に貢献する手法です。既にしかるべき解決法が存在する技術的な問題に対しては、既存の方法が効果的で効率的なのです。使い分けは必要です。

パスカルとスターニンは、老子の次のような言葉を紹介して、ポジティブな逸脱の神髄を説明しています。

「人々に学び、人々と一緒に計画し、人々が持っているもので始め、人々が知っていることの上に築きなさい。リーダーが真に優れていれば、終わってみると人々は口々にこういう。自分たちの力でやり遂げた、と。」

次回は、ポジティブな逸脱を具体的に活用していくプロセスを見ていきます。(続く)

 

※この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株) 波多江嘉之です