• ポジティブな逸脱を活用する①~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【115】~

ポジティブな逸脱を活用する①~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【115】~

ポジティブ組織開発(POD)については、ODメディアの62~68で紹介していますが、改めてポジティブ逸脱に重きを置いて紹介していきます。

逸脱というのは、本筋や決められた枠から外れること[例えば、任務を逸脱する行為]、と説明されるように、通常はネガティブな意味で使われることが多いようです。ポジティブ組織研究およびポジティブ組織開発の肝は「ポジティブな逸脱の活用」です。

今回から数回にわたり、この意味をもう一度学習していきます。参考とするのは「ポジティブ・デビアンス(positive deviance:ポジティブな逸脱):片隅の成功者から変革は始まる(リチャード・タナ―・パスカル、ジェリー・スターニン、HBR.2005.9)」です。先ずはポジティブな逸脱とは何かから始めましょう。

 

アフリカのマリ共和国の農村では、ある深刻な問題に悩まされていました。それは子供たちの栄養失調です。そして、子供たちの間に栄養失調が広がっているのは呪術師のせいだと皆が信じて疑っていなかったのです。

この問題解決に取り組んでいたセーブ・ザ・チルドレンは、何とかこの問題を解決しようと努力していました。調べてみると、めったに病気にかからない子供たちがわずかながらも存在することを発見したのです。

その子供の親たちはそうではない親たちとは異なる行動を取っていました。それは、毎日、子供に間食を与え、家族全員が石鹸で手を洗い、父親は食事の場に積極的に加わり、子供に医者の診断が必要だと思えば、家族にそのように進言していたのです。

通常はその役割は祖父がします。これを聞いた村人たちは、この親と同じことをすれば、呪いが解けると考え、さっそくこの(村の慣習とは異なる)型破りな方法を真似たところ、栄養失調だった子供は元気を取り戻したのです。村人たちは新しい生活スタイルの伝道者になり、呪術師の呪いは解けていったのです。

 

これってアフリカのことじゃん、って思ってはいけません。企業組織の中にもさまざまな呪い、迷信の類はあるんですよ。それを私たちは「常識」とか「内のやり方」と呼んでいます。

そんな企業組織の中でも、マリ共和国の元気な子供の親の例のように、ひっそりと自分ならではのやり方で成功を収めている人がいるのではないでしょうか。これが、ポジティブな逸脱です。私たちは、それを「異端」と呼ばずに活用する術を知っているのでしょうか。

 

Change Management(チェンジ・マネジメント)は、1980年代から90年代にかけて多くの企業が選択した組織変革の手法です。私も、また前職の同僚たちも、デービッド・ナドラーのコンセプトと手法を使わせてもらいました。(詳しいコンセプトや手法はD.ナドラー著「組織変革のチャンピョン」を参照してください)

 

今のODの分類方法でいえば、診断型ODの典型です。その中でナドラーも言っていますが、変革が成功する組織とそうでない組織の大きな違いはCEOのスタンスです。彼の初期の経験で、同時に2つの会社の変革を支援しているときの話があります。

どちらのCEOも頭が良く、有能で、経験豊富な人であり、変革の必要性を十分に理解しているのですが、変革がうまくいっていない組織のCEOは前線から身を引いていたというのです。

この経験からナドラーは、大規模な変革にCEO自身が心底関わることが極めて重要だという教訓を得ているのです。従って、当時の大規模組織の変革プロセスは、トップマネジメントのリーダーシップの観点から変革を見つめるものになっています。

もちろん、変革を進めていく過程では様々な階層や場所で議論・対話が行われ組織の人々を巻き込んでいく努力がなされます。組織変革のチャンピオンでは、変革がうまくいかない理由として以下のようなことが示されています。

 

・経営幹部が自ら参画すべき責務を放棄して、変革のリーダーシップを他人任せにする。

・少数の、しかも適任でない人間が密かに壮大な計画を胸に抱き、準備の整わない、非協力的な組織にその計画を押し付ける。

・経営幹部が他の代替案を十分に検討せず特定の戦略に飛びつく。

・不完全な情報や偏向的な情報をもとに重大な決定をしてしまう。

・誤った情報にもとづく希望的な観測に引きずられ、組織変革ができると思い込む。

 

このようなことは、現在の環境下で変革を実施しようとした場合でも間違ったやり方として肝に銘じておくべきです。ですが、組織変革のチャンピオンでは、その組織内部のポジティブな逸脱を変革に効果的に活用していくという記述はありません。

もちろん、変革に際して組織内部の多くの人たちが抱く不安や抵抗をどのようにして取り除いていくのかということに対する問題解決のプロセスはあります(変革期の管理:12段階のステップ 組織変革のチャンピオンP114~P134)。

しかし、その多くは先に述べたように、トップマネジメントが変革を効果的に推し進めるための方法なのです。従って極論すれば、変革は「トップマネジメントのリーダーシップ次第」となる可能性がとても強いのです。

 

もちろん、急激な変化に素早く対応する必要がある場合(ナドラーはこれをRe-CreationまたはOverhaulと言っています)、トップダウンの変革が必要です。しかしポジティブな逸脱を活用するということは、必ずしもトップマネジメントが先頭に立って変革を推し進めるのではなく、組織の中に既にある小さな変革や、これまでの常識とは異なるやり方でうまくやっている人のやり方を、他の人々が学習し、それを更に高めていくという循環をつくっていくことです。

そのような変革の方法ではリーダーの役割も変わっていきます。ポジティブな逸脱を変革に活用する、つまりポジティブ組織開発(POD)の実践は、適応を要する課題への対応が日常になった今日、マネジメントやリーダーシップに対して新しい視点を提案するものです。(続く)

 

※この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株) 波多江嘉之です