• 人々の相互作用と意思決定④~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【114】~

人々の相互作用と意思決定④~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【114】~

前回からの続き》 意思決定における人々の相互作用という問題について、前回までは特定個人の意図的な働きかけが意思決定にどのように影響を与えるかという視点から見ていきました。これは、私自身も自分の意図を集団に認めさせようというときに、どのようなことが大切になるかを学習する良い機会になりました。

しかし、サラム=フレデリクスが示したこの調査内容は、組織自体がそれを学習し意思決定の質を高めていくことに貢献するのでしょうか。例えば、A氏が身に付けている能力を、マネジャー全員に「交渉力研修」として学ばせれば良いのでしょうか。私はそうは思いません。

そこにはまた異なる視点が必要でしょう。コンコーダンスという意思決定方法があります。「人々の相互作用と意思決定シリーズ」の最後として、コンコーダンス(W.シュッツ)を見ていくことにします。

 

W.シュッツは、人間関係における基本的欲求を「仲間性:inclusion」「統制:control」「開放性:openness」の3つで見るヒューマン・エレメント概念で有名ですが、彼はこの3つの要素が意思決定でも大切だと言っています。

そして、この3つの要素が十分に満たされた意思決定プロセスをコンコーダンスと呼んでいます。では、コンコーダンスとはどういう概念なのでしょうか。意思決定では、仲間性は参画、統制は拒否権、そして開放性は心情の表明となります。

このコンセプトで注意すべきは統制です。統制は、参加している一人ひとりに拒否権があるか否かに関係しますが、同時に集団での決定を全員が受け入れ一つの方向に導く統制が効いているか否かという概念を含みます。この組み合わせによって意思決定は8つのタイプがあることになります。

 

①メンバーに拒否権がなく、参画がなく、心情も表明されない。

権威主義的意思決定:一人の権威者が全てを決める。メンバーは面従腹背である。

②メンバーに拒否権がなく、参画はあるが、心情は表明されない。

形だけ民主主義:みんなの参画があるがバラバラな状態。烏合の衆的集まり。

③メンバーに拒否権がなく、参画がない、しかし心情は表明される。

個人活動・ロビー活動:陳情者の気持ちが表明されているが、隠蔽された場での意思決定になっている。

④メンバーに拒否権はないが、参画があり、心情は表明される。

参画的意思決定・参画マネジメント:メンバーの参画があるし、心情も表明されているが、意思決定にだれも責任を取らない。会して議せず、議して決せずの状態。

⑤メンバーに拒否権があるが、参画がなく、心情は表明されない。

にせもの革新主義:メンバーには同等の権限があり拒否権もあるが、一部のメンバーでの意思決定になっている。多くのメンバーは蚊帳の外である。

⑥メンバーに拒否権があるが、参画がなく、しかし心情は表明される。

温情的権威主義:メンバーには同等の権限があり拒否権もあり、心情も表明されるがそれを受けるか受けないかは、リーダー次第である。結局は、親分への依存であり、親分対その他のメンバーという構図になっている。

⑦メンバーに拒否権があり、参画もあるが、心情は表明されない。

合意(コンセンサス):メンバーには同等の権限があり拒否権もあるが、少数の心情は無視され結局は多数決での意思決定である。(A.ミンデルはこれが多数決で意思決定される民主主義の限界であると言っている。)

⑧メンバーに拒否権があり、参画もあり、そして心情が表明される。

一致(コンコーダンス):全員の参画があり、メンバーには同等の権限があり、かつ心情が十分に表明された意思決定である。欠点は、意思決定にコストがかかることである。(A.ミンデルはこれをディープデモクラシーと呼んでいる)

 

【一覧表】

 

私たちは、通常どの意思決定タイプを選択しているのでしょうか。

全てにおいてコンコーダンスを用いなければならないということではないでしょうが、組織開発(OD)を実践する立場から言えば、少なくとも人々の思考と行動の変容が求められる何らかの変革を実施する必要がある場合、変革を推し進めようとする人たちだけではなく、その影響を受ける当事者が参画し、自分たちの心情を表明する場を持つことはとても重要なんだと思います。だからこその対話です。

そして私たちは、集団意思決定の質を高めるプロセスについてもっと学んでいく必要があると言えます。サラム=フレデリクスが明らかにした人々の相互作用の中で戦略が決定されていくプロセスと、集団としての意思決定の質が高まるプロセスは同じではないということです。

 

※この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株) 波多江嘉之です