• 戦略と組織開発④~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【107】~

戦略と組織開発④~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【107】~

意思決定に関する前回からの続き(参考文献:実践としての戦略)。

 

前回、命題1:リアルタイムの情報が多いほど、戦略的意思決定のスピードは速くなる。を確認しました。そこで当然のごとく、多くのリアルタイム情報を活用するチームは意思決定が迅速で、少ない情報しか活用しないチームは意思決定が遅いとは、いったいどういうことなのかというWhyを知りたくなりますよね。今回はここからです。

 

この論文の研究チームが導き出したのは以下の3点です。(「実践としての戦略」より引用)

①リアルタイム情報は課題の識別を速める。つまり、問題と機会が経営幹部によってより素早く発見されることを意味する。

②連続的にリアルタイム情報に注意を払う経営幹部は直観を発達させている。つまり彼らは、環境の変化により速く正確に反応できることを意味する。

③継続的にリアルタイム情報に注意を払う経営陣は、一つのグループとして対応することの有効性を経験しており、迅速なアクションが必要な状況で、ルーチンとして素早く反応できる。

 

調査対象会社のCEOの特徴を見てみると興味深いデータがあります。意思決定が迅速な経営幹部チームのCEOは「数字に強い人(4人中2人)、行動思考、定量的、短期重視、焦点重視」などの特徴があります。

一方で意思決定が遅い経営幹部チームのCEOは「夢想家(4人中3人)、人と距離を置く(4人中2人)、常に突進」などの特徴があります。

 

命題1に対して、調査チームは次のように結論付けています。

「戦略的意思決定スピードのための情報の役割は、リアルタイム情報が経営幹部に意思決定のスピードを速めるだろう深い知識を提供するということである。他方で、将来の予測を試みる計画情報は戦略的意思決定を加速させない。」

 

おお~~~~! なんと大胆な結論でしょうか。従来の戦略立案プロセスでは環境変化の予測を必ずするわけで、それに基づきさまざまな機会と脅威を識別し戦略代替案を考案するのですが、この調査ではそれは少なくとも「迅速な意思決定」には有効でないということなんですね。

そういえば、インテルがDRAMから撤退しCPUに切り替えた時の戦略転換の話を思い出しました。インテルのこの物語はいろいろな整理の仕方がありますが、今回は戦略経営の2つのモードとしてFF型経営とFR型経営というキーワードでまとめられた概念を紹介します。

因みにFF型やFR型とは、車の前輪駆動型、後輪駆動型の略です。そこでFF型経営とは「特定の戦略家が戦略を策定し、ミドル以下がそれを実行するスタイル」です。問題点は「スーパーな戦略家」への依存が起きるということです。

FR型経営とは「ミドルレベルから戦略が湧き上がってくるスタイル」です。そして気づいてみたら戦略が変わっているというものです。でも、このまとめ方はあまりに抽象的ですね。

当時のインテルの意思決定システムを見てみましょう。前提として、市場と技術の不確実性が高い事業であり、インテルの生産体制はDRAMとMPUのファブの共有があった。

定期月次会議(Regular Monthly Meeting)では、製造スケジューラーがファブごとに集まり製造能力の割り当てを決定していた。そして、それぞれの部門の情報がスケジューラーに集まる。

その情報はセールス(製品ごとの売上見込み)、ファイナンス(MPW:Margin Per Wafer)、製造(歩留まり)であり、この情報を基にしてもっともMPWが高い製品に生産能力を割り当てるというものです。結果、1984年になると8つのファブのうちDRAMに割り当てられているのは1つに過ぎなかったというものです。

 

それでは、インテルが最初からこのようなシステムを重視した意思決定をしていたかというとそうではないのです。DRAM事業からの撤退は役員会で何度も問題になりながら、常に否定されていたのです(1984年のエド・ゲルバックの発言)。

なぜ撤退は遅れたかというと、当時のインテルを支配していた以下のようなメンタルモデルがあったからです。

・DRAMこそがテクノロジー・ドライバー

・ワン・ストップ・セミコンダクタ・サプライヤーであることのマーケティング上の有利

・回路設計の技術力による反撃の可能性

・本業への情緒的な執着

 

このようなメンタルモデルの結果、1985年にはDRAM事業4800万ドルの売上に対して6500万ドルのR&D投資を続けていたのです。後にムーアとグローブは以下のように語っています。

・IBMによるインテルのマクロプロセッサーの採用とDRAM事業からの撤退は、独立の出来事のように見えるかもしれないが、実際は複雑に絡んだプロセスの結果であり、根っこは同じところにある(ゴードン・ムーア)

・萌芽期にあるCPU事業への投資のシフトは、われわれトップの誰かの意思決定によって行われたのではなく、ミドル・マネジャーの毎日の意思決定の積み重ねの結果である。撤退の意思決定はドラマティックな出来事ではなく、われわれが最後の一声を出したに過ぎない(アンディ・グローブ)

 

インテルのケースは迅速な意思決定とは異なりますが、毎日のオペレーショナルな情報からの意思決定の積み重ねの大切さを教えてくれます。(続く)

 

※この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株) 波多江嘉之です