• 実践でのコンテントとプロセス:勢いを持続する(1)~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【98】~

実践でのコンテントとプロセス:勢いを持続する(1)~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【98】~

どのような組織も勢いを持続させるというのはとても難しいことだと感じます。

15年程前、ある会社で中期経営計画づくりの支援をさせていただいたときにそのことを痛感しました。この会社は、1990年代にある製品で大成功を収めるのですが、続いた多角化の失敗で戦略のやり直しを迫られます。そこで、創業時の製品に注力し地道に商売をやり続けた結果、その業界でなんと60%のシェアを握るリーダーになったのです。

 

そこで、次の成長をというのが冒頭の中期経営計画づくりだったのですが、事前の社員インタビューで「これまで頑張ってきました。ちょっと休みましょう。」という意見がかなりの量で出てきたのです。インタビューデータを社長に報告すると「う~~~ん」と考え込まれましたね。最近はどうだろうと調べてみますと、堅実な財務内容であり事業領域も中核製品を柱にしながらも拡張されています。派手な会社ではありませんが、地道に成長されているんですね。

 

度々紹介するJR九州のサービス文化の醸成では、1990年代に必死になって改革を進め事業も多角化され新しく生まれ変わったと評価されていたのですが、2000年代になり民営化の変革期を経験していない社員が増えていき組織運営も安定化していくと、サービス課の責任者が「先祖返りが懸念される」と仰っていたことが忘れられません。勢いを持続するとは、事程左様に難しいんですね。

 

モチベーション理論の中に「期待理論:expectancy theory ブルーム、ローラー」というものがあります。簡単に説明すると、欲求が直接的に行動を導くのではなく、欲求が行動に結びつくのは2つの期待が充足された時であるという考え方です。

 

一つ目の期待は、私でもがんばったら何とか欲求(目標)を達成できそうだという主観的確率の高さです。これを道具性と言います。二つ目は、頑張って手に入れられる成果は私が価値あるものと考えているものと一致するという期待の高さです。これを誘意性と言います。

 

つまり、道具性と誘意性が高ければ欲求が行動に移るし、道具性と誘意性が低ければ欲求は行動に移らないということになります。だとすれば、マネジメントでは道具性と誘意性を高めていく方法を考えてそれを実行する必要があるということになります。これが勢いを持続する具体的方法になります。人々に単に、頑張れとか危機感を煽っても行動につながらないし、勢いは持続しないということです。

 

道具性は目標達成のための具体的方法になりますので、個人のスキルアップから組織としての戦略まで多岐にわたります。誘意性は結果に対して得られる報酬(reward)です。この報酬が、当事者が大事だと考えている価値と合致するかどうかが重要です。

 

会社でいえば報酬を明示化する評価制度がこれにあたりますが、もちろん評価制度だけでなくもっと大きな枠組みから報酬を考えていく必要があります。つまり、会社の評価制度は外的報酬になりますが、もう一つ考えておかねばならないのが内的報酬です。持続的にモチベーションを維持するために重要な要素が内的報酬であることはさまざまな研究(E.デシ、M.チクセントミハイなど)により明らかになっています。

 

例えばデシは、「外から動機づけられるよりも自分で自分を動機づけるほうが、創造性、責任感、健康な行動、変化の持続性といった点で優れている。自分の内から生まれる達成感、充実感などの内的報酬によるモチベーションのほうが、やる気を出すうえで有効である」と言っています。

デシは、そのためには「自律性、有能感、関係性」という3つの欲求を充足させることが大切と言っています。ヒューマンエレメント理論のW.シュッツは「重要感、有能感、好感」の3つが重要と言っています。そしてこれは、どちらも「自己概念に対する自己評価」に関する要素です。

人を人参で釣るのではなく、自分たちが本当に進みたい方向を見つけ、「私が私らしく貢献できる場所を持っている」と感じることが大切であり、マネジメントはそこに至る道をつくっていくようにすることが求められるんですね。

 

一応お断りしておきますが、外的報酬が役に立たないということを言っているわけではないです。これ大事ですよ。例えば、オリンピックで金メダルを取るということは、その後の人生に大きなプラスの影響を与えます。プロのスポーツ選手でいえば、大きな金銭的報酬を得ることはやはりモチベーションに繋がります。どちらにしても、「好きだからやっているんで外的報酬がなくてもOKです」なんてことはない訳です。

 

問題は、どの報酬が何を生み出すかという方向性です。デシも言っているように、内的報酬の方が「創造性、責任感、健康な行動、変化の持続性といった点で優れている」ということです。ここをちゃんと見極めておくことはとても大切なんですね。

 

じゃ、内的報酬を高めるためにマネジメントはどうあるべきか。そこに具体的な指針を提示しているのがアプリシエーティブ・インクワイアリ―で有名なダイアン・ホイットニーです。これはポジティブリーダーシップの具体的な実践と言っても良いのですが、彼女はアプリシエーティブ・リーダーシップと呼んでいます。では、アプリシエーティブ・リーダーシップの具体的内容とはどのようなものか、それが下記の5つです。

①質問し探求する(Inquiry):ポジティブでパワフルな質問を投げかける

②輝きを引き出す(Illumination):人や状況の中にある最高の状態を引き出す

③巻き込む(Inclusion):人々を巻き込み未来を共に創造する

④刺激・鼓舞する(Inspiration):創造的な精神を呼び覚ます

⑤誠実に接する(Integrity):全体にとってより良いことのために意思決定する

 

次回から、この5つについて詳しく見ていくことにします。

 

※この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株) 波多江嘉之です