• 実践でのコンテントとプロセス:転換過程を管理する②~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【95】~

実践でのコンテントとプロセス:転換過程を管理する②~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【95】~

~依存症からの脱却~

前回の最後に、組織が変わるためには、これまでやってきたことに対する依存症からの脱却が必要だ、という事を書きましたが今回はこの続きです。組織開発(OD)というからには、リーダーシップと組織文化の変革は必須であるというのは、組織開発の泰斗であるW.バークの主張です。

リーダーシップと組織文化の変革は、E.シャインが「組織文化とリーダーシップ」というタイトルの本を著してもいるように、とても重要で注目されるテーマです。ですが、今回はこのような古典を下敷きにするのではなく、日本の組織研究のライジングスターである宇田川准教授(埼玉大学)の視点を拝借しようと思います。宇田川准教授は、日本の企業が「変わらなくては」と言いながら、なかなか変化していかないのは「苦労すべき苦労をしていないことが原因じゃないか」と言います。どういうことでしょうか。

 

曰く、『私はよく、日本の企業や社会が抱えている問題を「依存症」という言葉で説明するんです。依存症研究では、依存症とは、コントロールできない苦痛を、コントロールできる苦痛に変える作業だと説明されます。たとえば薬物に依存してしまう人は、その背後でたいへんな困難や苦痛を抱えこんでいます。その苦痛は、簡単にはコントロールできないものなんですね。その中で薬物は、自分一人でなんとかしようとする、「自己治療」 として使われます。確かに短期的にはごまかせますが、続けなければならなくなりますし、それによって別の問題も引き起こされます。そうした自己治療を続けている状態が依存症なのです。』(NewsPicks Brand Design インタビューより引用)

 

企業などでは、問題解決に既存の権威を活用し直ぐに答えを貰おうという姿勢も薬物依存と同じですね。E.シャイン的に言えば、直ぐに医者や専門家に頼るという姿勢のことです。

Mindsetでいえば、依存症状態はFixed Mindsetですね。

要するに「一つの解釈の枠組み(ナラティブ)」に凝り固まっているんですよ。だから、組織文化を変えるとはナラティブを作り直すという作業でもあるわけです。別の言い方をすれば、これまでの自分たちの人生に対する意味付けを書き換えるという作業です。そして、ナラティブを変えるというのは、当事者には痛みを伴うし苦労が多いものなんです。良いか悪いかは別にして、組織で新しいナラティブに適応できない人は、組織を去っていきます。

 

そして「解釈の枠組み(ナラティブ)」を変えるには、自己との対話も必要ですがそれだけでは足りない。だから、多くの多様な人たちとの対話が大切なんです。組織開発(OD)で対話(dialogue)が大事であると言われるのは、そういうことなんですね。ただ単に、コミュニケーションが足りないということとはちょっと違うんです。この辺りは、企業の経営陣や人事担当者も十分な理解に至っていないようです。

どちらかといえば、「聞いている、聞いていない」、「方針が浸透していない」といった表現が使われるように、「分かっていないよね」というレベルでの問題意識です。そうではなく、「我々はどこから来て」、「今どこにいて」、「これからどこに行こうとしているのか」という文脈が合っていないのです。

これは一見シンプルですが、話しだしてみると同じ会社の人でも意外に異なる物語になっていることが多いものです。その組織でのキャリアが短い人は、当然ですが「我々はどこから来たのか」ということを知らない。だからベテランに「なんも知らないくせに」みたいな見方をされるし、新しい人たち(newcomer)は「昔のことに拘って」と思うわけです。そうなると、今起こっていることに対する解釈も異なりますし、これからの方向付けも異なります。

 

転換過程の管理では、新しいビジョンや方針が文字通り上から降りてきます。大企業の場合はほとんどそうですね。でも、それを受け取る人たちのナラティブは千差万別なんです。ですから、新しいビジョンや方針を言って聞かせるだけではなく、それはどういう意味があるのか、受ける人々のこれまでのナラティブにどのような影響を与えるのか、具体的に仕事をどのように変えていけば良いのかを徹底的に話し合う必要があるんです。

そして、その過程の中でナラティブを書き換える、新しい意味を見出すということができて初めて、当事者の行動が変容していくのです。

 

※この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株) 波多江嘉之です