• 実践でのコンテントとプロセス:ビジョンをつくる②~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【93】~

実践でのコンテントとプロセス:ビジョンをつくる②~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【93】~

前回でビジョンの意味を見てきました。では、変革期の組織ではビジョンをどのようなプロセスでつくっていけば良いのでしょうか。こんな時こそ大規模討議集会(例えばFSやAI)の出番だと思いがちですが、全ての組織でそれが適応するかといえば、事は単純ではありません。それは、その組織の歴史やマネジメント観/行動様式が関係します。

 

ケース1.15農協合併理念づくり

 

このケースの場合、意思決定プロセスは「担当者が原案作成→事務局での検討→組合長会議へ諮問→決定」という手順を踏みます。なぜこのようなプロセスになっているかというと、日本の協同組合の場合、そのほとんどが国の中央集権的組織運営形態を下敷きにして組織がつくられているからです。

いわゆる単協と言われる地域の農業協同組合は、自主的な活動をやっているように見えて、単協方針はほとんどが連合会組織や中央会から降りてくる方針を前提として決まっていきます。従って参画的な議論のプロセスはあまり慣れていないのです。少なくともこのケースの時代はそれが色濃く残っていました。

 

このような意思決定プロセスでのポイントは、事務局での検討から組合長会議に持っていく間で、有力組合長に根回しをしておくという作業です。この根回しって、「私たちが理解しているODじゃないよね」と受け止められる方が大半ではないかと思います。でもね、単協の中では自分の我を通すことができていた組合長が15人もいるんですよ。

これをフラットにして議論しようとしても、まず15人の組合長がフラットな席での議論の仕方を学習していません。それやっちゃったら混乱して何も決まりません。「事務局、原案出せ」となって、まとまらないのは全部事務局のせいにされてしまいます。

挙句の果てに、「原案も出せない無能な事務局」というレッテルを貼られかねません。だから、このような場合はやっぱり原案を事前に作成し、事務局が政治的明敏性を発揮して組合長会の前に根回しをしておくのです。そして、組合長の親玉が「いいんじゃないですか」と言ってくれれば、他の組合長は「異議な~~し」となるのです。地位力や強制力というパワーも要は使いようです。

 

大切なのはこの後で、ここで理念が決定したら職制を通して現場に浸透させるというプロセスが必要です。ここには大きな投資をしてもらいました。管理者研修という名のもとに、理念を現場の仕事にかみ砕いてつなげていくにはどうしたらいいかという研修です。

 

例えば、経営理念の中に「共生」があります。この意味は以下のようなことです。

「どのような組織も、その組織が提供する商品やサービスを利用していただく方々があって初めてその存在意義があります。JAもマーケットやお客様(組合員・利用者の方々)を忘れては存在し得ません。私たちは、常にマーケットやお客様と共に生きます。」

では、これをお題目にせず各々の職場でどのように理解し実践していけばいいのかを話し合ってもらうのです。そして、ここで話し合ったプロセス、つまり話し合いの仕方を管理職には持ち帰ってもらい、職場で同じように話し合ってもらうのです。管理者は研修で自分たちの考えを整理してはいますが、それを「だからこうだ」と伝えるのではなく、みんなで考え話し合える機会をつくっていくことを大切にしてもらったのです。この辺りは皆さんが考えるOD的介入の仕方ですよね。当時はこの活動を職場単位の小集団活動にして発表会もやっていました。

 

 

ケース2.物流会社の統合

このケースでは、2社合併後の共通ビジョンはどのようなものであるべきかということで依頼を受けた企業です。ここではフューチャーサーチ(FS)を活用しました。討議メンバーには、社外の取引先なども入ってもらうことを提案したのですが、これは実現しませんでした。他でも、いろいろな会社で、社外の人も入れて話し合ってみる機会を創ることを提案しましたが中々受け入れてもらえませんね。

また、多様な階層で役員や若手も一緒になって検討することも却下され、結局は部課長クラスと選抜中堅社員約30名で実施することになりました。FSのやり方については文献も出ていますのでここでは割愛します。

2日間のセッションを実施し、その後、その中で出てきたビジョンとそれを実現するための実施チームを決定し私の役目は終わりました。私の限られた経験で感じることは、FSにしてもオープン・スペース・テクノロジー(OST)にしても、参加メンバーは社内に限られてしまいますので、参加者の思考の枠組みにインパクトを与えるような情報提供や質問が為されることが少ないという事です。これではFSやOSTを実施する価値は半減するんですけどね。

ですから、特にFSという方法を活用する場合、現在と未来のステークホルダーを如何にして参画してもらうかがとても重要になります。つまり、多様性ということを意思決定の場にどのようにして反映させるかという事ですね。

 

最近は、日本企業もダイバーシティとインクルージョンということを意識してきていますが、単に意識するだけでなく、またそれを社内だけに止めるのではなく、企業ビジョンや戦略の構築に活かしていく工夫をすることが求められるのではないかと思います。ビジョンづくりや戦略策定及びその浸透共有化プロセスも会社ごとに工夫していく余地はまだまだありそうです。

 

※この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株) 波多江嘉之です