• 実践でのコンテントとプロセス:変革への動機づけ~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【91】~

実践でのコンテントとプロセス:変革への動機づけ~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【91】~

「変革への動機づけ」は、組織全体が変わっていこうとする時に最も大切なフェーズかもしれません。私の経験から言えば、ここがうまく立ち上がってくれるとかなりの確率で変革は成功します。「変革への動機づけ」は幾つかの方法があります。

一つは、当事者がこれまでの組織活動に対する不満を大っぴらに語る場を設けることです。そんなことしていいのかと思われるかもしれませんが、人間、不満ばかり言っていると虚しくなってくるのです。そして、不満ばかり言っても問題は解決しないということは当事者も分かっています。不満を言うということは、別の見方をすれば「これまでのやり方は、自分の価値尺度に照らし合わせてズレている」という事を言っているわけです。とはいえ、自分の価値尺度が状況にあった価値尺度かどうかは別です。

従って、どこかの時点でこの不満や価値尺度を見直して、ネガティブな感情を建設的なエネルギーに転換していく必要があります。この変換プロセスは変革推進者の腕の見せ所です。具体的な方法は、個別の説得のほかにグループディスカッションという2つの方法があります。

私が知っている限り、個々人の心理的変化を目的にしたグループディスカッションでもっとも有名なものは、九州の西日本鉄道におけるバス運転手に対する安全意識の向上取り組みです。これは、以前紹介したプロセスグループ方式での集団意思決定の力を活用した取り組みです。いずれにしても大切なことは、新しい行動に切り替える前に、今までの思考や行動と決別する場や機会が必要になるという事です。これなくして新しい目標に向けて頑張ろうと言っても当事者は心に引っかかるものがあり「そうはいってもね」と、どうしても後ろ向きの考えが抜けないのです。

 

もう一つの「変革への動機づけ」は、これまでの活動の中で抑えていた個人的な夢ややりたいことを表明していく場を設けることです。これは、アプリシエイティブ・インクワイヤリー(AI)がいうところのポジティブアプローチです。最近はこのアプローチが多いようです。AI方式の利点は、そのプロセスがそのまま「ビジョンをつくる」に直結することです。

また、今まで埋もれていた強みや資産といったものを掘り起こすことができます。当事者の多くに基本的なしつけが行き届いているような組織では、AIアプローチが向いているかもしれません。ここでいう「基本的なしつけ」とは、仕事に対する情熱の保持がまだあるということです。それは挨拶の仕方や顧客対応に現れます。仕事に対する情熱が不十分だと、個人的な夢ややりたいことが出てきません。そのような場合は「働く意義はどこにあるのか」「この会社・組織で何をやりたいのか」ということを徹底して議論し答えを創り出す対話作業が必要になってきます。

 

~変革に対する3つの集団~

変革に取り組む組織には常に3つの集団が存在します。それは「変革に前向きな集団」、「変革に後ろ向きないしは反対する集団」、そして「無関心な集団」です。「変革への動機づけ」をうまく進めていくには、変革に前向きな集団から「変革の使徒(チェンジ・エージェントのもともとの意味)」を見つけ出すことです。ある特定の人が言ってるだけでは変革へのウネリは起きてきません。

特定Aさん以外の人たちが、「私も~~が必要だと思うんだよね」とか言い出すと、無関心だった人の中から「じゃ、ちょっと聞いてみようか」と言うようになったりします。この広がりが大切です。明確に反対している人に対しては、正面から議論していくという手もないわけではないですが、むしろ外堀を埋めて最後に話し合うという手もあります。

それは、正面から反対している人は必ずしも論理的に反対しているとは限らないのです。むしろ当該課題とは直接は関係がない問題を当該課題に投影させて、自分でそれは無関係だと分かっているにも関わらず自分の感情を押さえられずに、その感情を隠すために理屈を構築して反対していることがあるものです。

このような情的反応は、映画ですが「12人の怒れる男」を見るとよく分かります。陪審員の一人であるメッセンジャー会社経営者は、息子との確執から最後まで有罪意見に固執します。しかし、彼も陪審員たちが議論する過程で、被告人の少年が無罪であると理解しながらも、それを感情的に認めなかったのです。「12人の怒れる男」は、以前は感受性訓練の中で使われていた教材でした。感情が意思決定にどのように影響するかを私たちはもっとよく理解しておくべきでしょう。

いずれにしても、政治的支援を構築する時期と変革への動機づけを促進していく時期は、チェンジ・エージェントにとってイライラや虚しさを感じる時期です。しかしこれを乗り越えて、気持ちが前向きになってこそ、初めて「ビジョン」を創造するということに取り組めるのです。

 

※この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株) 波多江嘉之です