• 未来を共有する③:誰を、どう巻き込むか~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【86】~

未来を共有する③:誰を、どう巻き込むか~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【86】~

・遠きをはかる者は富み 近くをはかる者は貧す。
それ遠きをはかる者は百年のために杉苗を植う。まして春まきて秋実る物においてをや。故に富有なり。
近くをはかる物は 春植えて秋実る物をも尚遠しとして植えず唯眼前の利に迷うてまかずして取り植えずして刈り取る事のみ眼につく。故に貧窮す。

 

・道徳なき経済は犯罪であり、経済なき道徳は寝言である。

 

これは二宮尊徳翁が残した言葉と言われています。私も二宮尊徳翁が残した言葉とは知りませんでした。勉強不足ですね。皆さんはどうでしょうか。

「遠きをはかる者は富み 近くをはかる者は貧す。」は、経営者であればちゃんと考えていることであり、「その通り」ということで何の異存もないでしょう。

ところが、「道徳なき経済は犯罪であり、経済なき道徳は寝言である」は、どうでしょう。ちゃんと考えているよという方々が大半でしょうが、では「道徳」とは何か? と問われた時に即答できるでしょうか。道徳とは悪をなさないことである、というのは一つの答えでしょう。辞書的には道徳とは「善悪をわきまえて正しい行為をなすために、守り従わねばならない規範の総体」と言われます。そしてそれは、歴史的および社会的に教育された私たちを動かす内面の原理です。

 

では、その国の1%の人々が国富の25%を所有している、という状態はどのように考えればよいでしょうか。これにはいろいろな考えがあり、以下のような考えもあります。「格差是正論の罠:山本慧」より引用。

『日本にも、「格差是正論」を当然視する風潮がある。だがそもそも、日本が導入している資本主義には、「富を集中させて、大きな事業を起こす」という特徴があり、格差を前提にしている。わかりやすい例を挙げれば、お金を稼ぐことが上手い人と、残念ながら、お金を稼ぐことが苦手な人がいる。

そうであれば、稼げる人にお金を多く回した方が、より大きな富を生み出すことができる。そうした経験則に立つのが、資本主義の基本的な考え方だ。当然、その前提には、あらゆる人が活躍できる「機会(チャンス)の平等」を保障しなければならないが、大きな事業をつくるには、富の集中が不可欠だ。

逆に、富の集中を否定する思想は、社会主義と言える。かつて社会主義国では、建前上は富裕層も貧困層も「平等」に扱われたが、個人の自由が大きく制限され、加えて、平等であるはずの政府高官が暴利を貪り、国民が貧しくなったのは有名な話。歴史の教訓としては、「自由と平等のいずれが大事か」と問われれば、自由の方が大事なのだ。現代日本では、共産党などが大企業批判を繰り返し、若者の不満を取り込もうとしている。実は、戦前にも「財閥批判」が多く見られた。

だが、大企業や財閥に富が集中した結果、何が起きたか。数多くの会社や雇用が生まれ、日本を世界屈指の「経済大国」に押し上げた。また経済力だけでなく、富める者が力を持てば、芸術や音楽などの新しい文化を創造する。松尾芭蕉や、市川團十郎などが活躍した江戸時代の「元禄文化」も、町人の力が強くなった結果として生まれたものである。美術館に行けば、何百年も前の絵画を見られるのも、富の集中の恩恵である。資本主義を批判する人たちは、こうした視点を見落としがちだ。』

 

日本の組織開発(OD)は、アメリカで実践されてきたものが輸入されています。アメリカは、現代資本主義の代表です。そこでは、みんなGAFAMになるためにODを実践するのでしょうか。ODをやることでどうなりたいのでしょうか。組織開発(OD)は、資本主義の未来を創造するための単なる道具に過ぎないのでしょうか。

最近ある研究者からの情報で「ODは死んだ」という認識がアメリカにはある、というのを聴きました。これは、組織開発(OD)実践者がコーチングという名のもとに大手企業のトップマネジメントに対して仕事をしているが、それは企業をまたアメリカを良くするために必要な仕事だったのかという問いに対し、十分な答えを提供することができなかったということに理由があるようです。これはなかなかに難しい問題です。確かに組織開発(OD)は「より良い組織をつくる」ということを目指しているのですが、「より良い」という意味の捉え方が人によって異なるのですね。

ジョン・スタインベックの「怒りの葡萄」は、1930年代末に発生した干ばつと砂嵐を契機とした農業の機械化を進める資本家たちと、土地を追われカリフォルニアに移っていった貧困農民層との軋轢や闘争を素材とした小説ですが、ここに書かれてあることと現代アメリカの問題は何も変わっていないのかもしれませんね。大規模資本主義農業の良いことと、貧困農家の良いことはやっぱり違うのですよ。

「道徳なき経済は犯罪であり、経済なき道徳は寝言である」、改めてこれをどのように解釈し政治や経済および経営に反映させていくか、私たち組織開発(OD)実践者も真摯に考えねばならない問いです。

※この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株) 波多江嘉之です