• 改めて、組織の現状診断の意味を考える③~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【83】~

改めて、組織の現状診断の意味を考える③~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【83】~

~質問と質問者のメンタリティー~

現状診断は、正しい現状把握からもたらされます。と書き出して、ふと「正しい現状把握」はとても難しい、と思うわけですよ。

現状把握の代表的な方法として、当事者に対する質問という方法があります。当り前のように「どうだったんでしょうか」と私たちは質問しますが、これに対して正確な答えを得るのは結構難しいものです。どうしてかというと、質問者が答える側に質問するというプロセスでは、答える側の答えには既に答える人のバイアスやメンタリティーが影響しているからです。

加えて人の記憶はとても曖昧なもので、記憶は現実をどうにでも捻じ曲げてしまうと言われます。それも意図的にではなく無意識にです。あの内田樹さんも言ってましたね。娘さんとの往復書簡を本にして出版するらしいですけど、出来事を確認しているときに、彼が忘れがたい出来事として記憶していたことのいくつかについて、娘さんの記憶がぜんぜん違っていたそうです。記憶ってそんなもんですね。

かてて加えて、聴く側がさまざまに質問していくにつれて、聴く側が欲しい答えを得られるような質問をしていくことがあります。そして、答える側はそのようなつもりはなくても、聴く側が「ということは、~~という事ですよね」と言うように確認質問をすると、聴かれた側は例えば「そうですね。まあ、そういう事ですかね」なんて答えてしまい、聴く側は「やっぱりそうなんだ」と思って、「分かりました」と言い、現状を明らかにした気になる。

ということで、質問する側も質問される側も、自分のメンタリティーやバイアスを自己理解しておかないと正しい現状把握はできないですね。ましてやプロセスの現状診断は「ほにゃらら」になってしまいます。ですから、プロセスの把握には「当事者同士の対話が必要」と言われるのです。しかしながら、ODプラクティショナーを自認する我々としては、効果的な質問というものを理解しておくに越したことはありません。以下それを見ていきましょう。

 

・現状をよく知るための純粋な問いかけ

聴く側の役割は、話を促し注意深く中立的に耳を傾けることです。聴かれる側は質問に対して自分が理解していることをそのまま答えます。質問は以下のような問いになります。

「どんな状況ですか? 、何が起こっているのか話していただけますか? 、どうしたんですか? 、もうちょっと話してください。 、続けてください。」

 

・診断するための問いかけ

聴く側は、聴かれる側の答えの内容を分析し、煮詰めて行くというプロセスに踏み込みます。ただし、答えられたことの内容についての提言や助言はしない。診断は「情緒的反応の側面」や「行動や出来事の理由」、「実行に移された、または目論まれている行動」を探るものであり、例えば以下のような問いになります。

A)情緒的反応を探る質問

「そのことをどう感じましたか? 、あなたはどう反応したのですか? 、他の人たちはどう感じどう反応したのですか?」

 

B)行動や出来事の理由を探る質問

「なぜそうしたのですか? 、どうしてそうなったと思われますか? 、他の人はなぜそうしたのですか?」

 

C)実行に移された、または目論まれている行動を探る:過去、現在、未来を探る

「それに対してはどうしましたか? 、何をするつもりですか? 、他の人はどうしました? 、他の人は何をするつもりでしょう? 、他に選択肢がありますか? 、あなたは何をすべきですか?」

 

・真っ向から対決する質問

聴く側は、その話のプロセスと内容に関して自分自身の考え方や反応を伝えて共有しようと試みます。聴く側の考えを伝えることは、聴かれる側に新たな視野でその状況を考えることを「強いる」ことになります。それゆえに対決的な質問になります。

A)プロセスについての意見

「あなたは~~をすることはできましたか? 、なぜしなかったのですか?」

B)内容についての意見

「~~についての可能性を考慮しましたか? 、~~~についてはあなたの捉え方は状況と異なっていたようですが。」

 

・評価的な質問

評価的な質問は、問題解決に対する質問者のスタンスやメンタリティーが現れます。典型的には「問題そのものを特定して解決策を見つける」というスタンスと、「現状を受け入れ、その上で新しい未来をどのように構築すべきか」というスタンスに分かれます。

A)問題解決に焦点

「問題を特定する→原因を分析する→実行可能な解決法を分析する→行動計画を作成する」

 

B)機会開発に焦点

「現状を評価する→現状を尊重する(受け入れる)→可能性を想像する→あるべき状態について討議する→将来像を開発する」

 

問題解決型は、現実は解決せねばならない一連の問題であるとする仮定に基づきます。一方、機会開発型では「現実」は受容すべきものであるとの仮定に基づきます。機会開発型は以前の現状に戻すのではなく、新しい可能性を追求する発展型でもあります。どちらに寄るかは聴く側のメンタリティーが反映します。コロナ禍で様々な業界や人たちが、コロナ以前には考えもしなかったことを始めているのは、後者であると言えます。

であるなら、コロナに対して治療薬やワクチンができても、全てがコロナ以前に戻ることはないでしょう。Withコロナでうまくいっていることに焦点を当て、それを積極的に評価することで新しい世界が生まれてくる可能性の方が高いのではないでしょうか。

 

ということで、今回は現状を把握する際の効果的質問や質問者のスタンスについて見ていきました。どのような質問をするかで現状の捉え方が随分と異なるものだということが理解していただければ幸いです。

 

※この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株) 波多江嘉之です。