• 改めて、組織の現状診断の意味を考える②~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【82】~

改めて、組織の現状診断の意味を考える②~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【82】~

~プロセスの診断~

プロセスの診断をもう少し突っ込んでみたいと思います。下敷きにするのは、A.ミンデルの「ディープデモクラシー」です。ディープデモクラシーとは、イデオロギーではなく、人々の感情や気持ちに配慮した関わりをすることを意味します。

 

組織開発(OD)は、価値観ベースの問題解決(R.マーシャックや、G.ブッシュ)と言われます。その価値観は、1.人間尊重の価値観、2.民主的な価値観、3.クライアント(当事者)中心の価値観、4.社会的・エコロジカル的システム思考性、の4つです。今回突っ込んでみたいのは「民主的な価値観」です。

民主的あるいは民主主義というのは、私たちが分かっているようで分かっていない価値観かも知れません。民主主義とは何かを論じるのは、その専門家に委ねたいと思いますが、もともとの語源とその課題については触れておきたいと思います。

民主主義:democracyの語源は、ギリシャ語のdêmos(市民)とkratos(力):市民の力であり、目的は力の均衡と分配です。

民主主義は、現時点では政治の形態・原理・思想としては最も優れていると考えられていますが課題もいろいろとあります。例えばミンデルの言を借りれば、以下のようなことがあります。

①民主主義は、社会で浮かび上がっている外在的な問題にしか焦点をあてない。当事者の内面は扱っていない。当事者の感情面をどのように受け止めるかということをほとんど考慮しない。例えば、民主主義の国である米国で未だに引き起こされる人種問題などはそうでしょう。

②民主主義は、多数派の力という概念に基づき機能している。気づきの無い民主主義は、ある種の独裁体制(政治)である。

・ここでの独裁者の意味は、自分自身の多様な側面を認識することを一切拒否する人、自分の視点を唯一絶対の視点とする人のこと

③民主主義は、内面的な側面に光をあてない。少数派を排除することから引き起こされる反応/行動は、立ち去る(flight)か復習(fight)である。これはあらゆる集団やコミュニティで起きていることです。

 

更に、ミンデルは以下のように言います。「混乱を防ぎものごとを効率的に進めるルールややり方は、感情への配慮や寄り道を端に追いやってしまう」。要するに、効率や合理的思考だけで混乱を収めようとする思考態度は、ものごとを解決しないと言っているのです。

さて、とすると組織開発(OD)でいう「民主的な価値観」とは、単にみんなが集まって意見を言うだけではないということが分かります。表明している言葉だけではなく、表明できていないことや、隠されている感情的側面に対する気づきまでを聴く必要があるという事です。ただ、これは生易しいことではありません。当事者自身も、自分が抱いている感情の意味を理解しているとは限らないからです。

例えば対話や討議は時に参加者が熱くなり、お互い同士や場のファシリテーターを攻撃することがあります。問題を何とかしてほしいと思う人たち(一般的には、周縁の認めてほしいと感じている人たち:Aグループ)と現在社会や組織を動かしている中心に居る人たち(自覚しているとは限らないが、ランクが上だとおもっている主流派の人たち:Bグループ)の間には、往々にして葛藤が生まれます。

Aグループの要求に対してBグループは同意と反省を見せても、Aグループはそれでは足りないという感情を持つ事が多いものです。そうして、Bグループに対して「自覚が足りない」と言います。言われたBグループはAグループに対して「より一層聴かねば」と思うよりは、「Aグループは危険な存在だ」と感じてしまいます。そうするとAグループはBグループに対して「逃げるのか」という怒りの感情を持ち、双方が「話にならない」という感情を持つに至り、お互いが被害者意識を持ってしまいます。

このような葛藤の中にいる当事者は自分たちの感情的側面に十分な気づきを持っているとは限りませんし、ファシリテーターも自分のバイアスへの自覚がなく、どちらかに加担した態度を取ってしまうことがあります。プロセスコンサルテーションを提唱しているE.シャインでさえ「あなたは私たちを無視して〇〇の肩を持ちましたね」と言われたことがあるそうです。

 

感情に耳を傾けるというのは大変な作業なんですね。民主的であるという価値観だけでは不足です。プロセスを見るということは、単に起こっていることを分析的に見るのではなく、起こっていることの内面にある感情的側面を共感的に聴く必要があるという事です。でも、聴く側も自分の枠組みで聴こうとしますから、聴かれている方も「そんなんじゃない」となることもあるんですよ。

聴くには自分を「空」にしなくてはならないけど、それが中々に難しい。ミンデルは、混乱の中に自分自身の身を置いてこそわかるものがあると言います。そして、プロセスの診断には、それを見ている人自身の自己理解が欠かせません。

 

こういった姿勢ができてこそプロセスの感情的側面を診断することができるのではないでしょうか。規則や秩序を重んじる、不安定を回避するという姿勢では人と人との間にある問題の解決はできないということですね。真の問題解決を阻んでいるのは、規則や秩序を重視し不安定な状態を避けようとする私たちの無意識の態度(ミンデル流に言えば、ゴースト)かもしれません。

 

※この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株) 波多江嘉之です