• 改めて、組織の現状診断の意味を考える~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【81】~

改めて、組織の現状診断の意味を考える~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【81】~

組織開発(OD)は業績改善の技法とは違うという人もいます。確かに財務リストラや起業買収のように、短期的に業績改善に寄与するものではありませんが、企業組織が取り組む組織開発(OD)は、やっぱり業績の改善につながるものでなくては意味がないのです。それは、株主から見ても、従業員から見ても、利用者から見ても「良い組織」であることが求められるという事です。

~診断はやっぱり大切だ~

診断型組織開発という概念と、対話型組織開発という概念があります。日本では、ややもすると対話型組織開発は診断(diagnosis)をしないと受け止められているようですが、対話型も診断はします。「私はこう見ているけど、あなたはどう見ているの。なるほど、そこは同じだけど、これは違うよね」というのは診断でしょう。

違うのは、客観的事実(原因)を探り出しそれを除去しようとするのか、客観的事実はない、あるのは主観な見方の違いである、だから対話が必要であるというものです。後者のような立ち位置を社会構成主義と言います。

 

組織開発(OD)という「組織の問題解決アプローチ」の基本はアクションリサーチです。すなわち、診断と介入が混然一体となって進んでいく問題解決です。診断は、結果の診断とプロセスの診断があります。結果の診断の代表は財務診断です。結果の診断はその他にも、従業員満足とか顧客満足なども入ります。プロセスの診断とは、活動状況の診断です。集団や組織で何が起こっているのかを探るのがその主たる目的です。

そして組織開発(OD)では、プロセスの診断こそがとても重要なのです。E.シャインは、プロセスを診断する時に気を付けるべき事として「ORJI」というモデルを使って説明しています(ORJIについては、ODメディアNo13を参照)。要するに見方にバイアスが掛かるという事です。

このように、プロセス(集団で起こっていることの全て)は、見る人によっていかようにも解釈ができるのです。人間集団への介入である組織開発(OD)では、プロセスの診断が決定的に重要なのですが、これがとっても難しい。

 

埼玉大学の宇田川准教授は、人間集団の問題解決では「準備→観察→解釈→介入」の4つのステップが欠かせないと言います。詳しくは彼の著書である「他者と働く」をお読みいただくとして、私なりに砕いた表現で4つを解釈すると以下のようになります。

①準備とは、問題に関わっている人たち自身が「私とあなたの見方は違うよね」、ということに気づくことです。この時に大切なのが「私から見てあなたはズレている」ではなく、「私とあなたはズレている」という相互の違いをお互いが受容するという事です。ところがこれは難しい。なぜかというと、ズレているということをお互いが率直に話すのが中々に難しいのです。通常は、ズレているのをお互いが認めるのではなく、「お前がおかしい」となるのです。

②観察とは、「何故私はそのような見方をしているのか」という認知の枠組みを知ることです。これは、「私から見て相手の認知の枠組みを知る」ということだけでなく、私自身の認知の枠組みを知ることが大切です。お互いが、自分自身の認知の枠組みを理解し、そしてそれを共有することで、「なるほど、そうなのか」という共感が生まれ、そこから変化の準備(レディネス)が生まれるのです。

それが、「なるほど、この人はこう考えているんだ。そんな背景があるんだ」だけでは、私の認知でその人を理解しているに過ぎないことになります。このような思考態度では、介入が「相手を変えてやろう」というようなスタンスになりかねません。

③解釈とは、お互いのズレを認め、そのズレを修正していくにはどのような方法があるのかを考え、問題解決の方法について相互に合意を得ることです。部門間関係改善において、ここまで述べた3ステップを一気にやる方法が「組織の鏡」という方法です。これは、相互に以下の3つの質問に応えることで、解釈と介入の糸口をつかもうとすることです。

・質問1.あなたに対する私からの見方を書き出す

・質問2.私に対するあなたからの見方を書き出す(相手からの見られ方の予想)

・質問3.私から見た私の姿を書き出す

そして、この質問を相互に交換し、どこのずれがあるのかを話し合う。

④介入とは、③で検討し計画したことを実施に移すことです。

⑤そして観察に戻る。介入は何らかの変化を起こします。それは、意図したとおりの変化もあれば、意図しない変化もあります。だから、再度観察に戻り4つのステップを繰り返すのです。

以上のステップは、まさにアクションリサーチであり、プロセスの診断と介入です。

 

さて、ここまで来てお分かりのように「プロセスの診断」に客観的な正解はありません。結果の診断は、財務成果などはその代表ですが、誰が見ても同じ結論が導かれます。また、そうあるべきです。ところが、プロセスの見方はすべてが主観です。認知の枠組みによって現状の捉え方が異なるのです。また、そこには思惑というのも入ってきます。アメリカのミネソタ州で起こった人種差別的事件に対するトランプ大統領の反応を見てもそうでしょう。

ですから、ズレを認めること、そのズレはどこから来ているかを理解すること、お互いの違いを分かったうえで共有できる目標/未来を見出すこと、そして問題解決にはどのような方法が考えられるのかをみんなで考え実行することが求められるのです。そして、これがもっとも大切なのですが「ズレ」という問題は決してなくなりません。じゃ、それは問題解決にならないじゃないかと思う人もいるでしょう。しかし、みんなが共有できる世界(common ground)を見つけて進んでいければ、問題は問題でなくなるのです。それはみんなで挑戦すべき課題になります。

という事で、組織開発(OD)を実践していく上で、診断に対する私たちの基本的スタンスをどのように捉えるのかはとても大切なことになります。診断型組織開発と対話型組織開発という分け方をしたR.マーシャックや、G.ブッシュも罪な人たちだと思います。診断型とか対話型とかと言う言い方をするから、後々いろいろな説明を付け加えなくてはならない迷わせる状況をつくってしまったんですね。

 

※この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株) 波多江嘉之です。