• 組織のレジリエンス~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【80】~

組織のレジリエンス~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【80】~

日本でも、個人のレジリエンスについては徐々にですが理解が進んできているようです。この流れや個人のレジリエンスを高めるアプローチについては、これまでにも様々に発信していますので、今週は組織のレジリエンスについて覗いてみたいと思います。

組織開発(OD)は、その誕生国アメリカでは、初期にはその目的が「官僚制組織の打破」に置かれたり、日本ではかつて「組織活性化」という言葉で理解されたりして、変化する環境に柔軟に適応していく組織づくりという認識はあったものの、レジリエンスという言葉でその目指すところを認識するということにはなっていませんでした。組織のレジリエンスということが意識されてきたのは2000年前後になります。一つはポジティブ組織行動という視点からの組織研究です。

2001年 Fred Luthans(米国.ネブラスカ大学)が組織行動とポジティブ心理学を結び付けて、ポジティブ組織行動論(POB)を提唱しました。甲南大学西川耕平教授の「組織行動のポジティブアプローチ(2008)」を見てみますと、POBはポジティブ心理学を組織行動論に直接応用するのではなく、ポジティブさを学習および開発可能な要素として捉え、組織の業績向上に対し実践的に示唆を提供するものです。Fred Luthansらはこの中で、POBの有力な概念として以下の4つのキーワードをあげています。

  1. Self-efficacy:自己効力感、自省的かつ自発的な行動。私はやれる、という意識。
  2. Hope:困難に直面しても目標達成の可能性を下げない。達成方法の選択と意思の力。
  3. Optimism:現実(リスク)を見極めたうえで、課題に前向きに取り組む。
  4. Resiliency:困難な状態でも何とか良い結果を出せるという判断を持つ。

この4つは心理資本(HERO)としてポジティブ心理学の研究対象にもなっていますが、いずれにせよレジリエンスという要素が提示されたんですね。

 

もう一つは、C.ウォーリー(米国ペパーダイン大学)が提唱しているアジリティ(Agility)をキーワードにした研究です。彼は、収益性(ROI)が10年以上にわたって業界平均よりも高い企業の特徴の研究を通して、持続性の高い組織は「計画的に組織変革をマネジメントしている」と共に、「変化に即応できる体質を育てている」という2つの特徴があると主張しています。

要するに、アジャイルな企業は、機敏で適応力があるが、経営陣のリーダーシップや価値観・戦略は非常に安定しているというものです。これって、レジリエンスですよね。使う言葉は異なっても、注目される組織能力には共通するものがあるのです。そりゃそうですよね。そしてこれは、優れた実務家が言葉にはしていないけど理解していたことでもあります。

 

組織におけるレジリエンスについては、構造的要因としての多様性が大事であるという説をよく目にします。多様性の明確な定義はさておき、ここでは性別(格差)や個々人の専門性やスキル(種類)また文化的背景(距離)が異なる人材の集団という理解にします。多様性に富む組織は、別の表現を使えば合金組織です。合金組織の方が、純粋培養された画一的な人材が集まる純金組織より強いのではないかということはなんとなくわかる気がします。

では、多様な人材が存在すれば組織は柔軟性がありかつ強靭な合金組織になるのでしょうか。ならないですね。それだけだと単なる烏合の衆です。凸凹集団と言ってもいいかもしれません。多様な人材を活かすマネジメントが為されて初めて、合金組織と言われるような柔軟性と強靭さを発揮します。では、多様性を活かすにはどのようなマネジメントが求められるのでしょうか。

HBR. 2019.05.07に掲載された「インクルーシブ・リーダーシップが組織のパフォーマンスを高める」では、リーダーに以下のような特性が求められるそうです。

(A)目に見えるコミットメント

多様性への本気の取り組みを明言し、現状に疑問を投げかけ、他者に説明責任を課し、多様性と包摂を自分の優先課題としている。

(B)謙虚さ

自分の能力に関して謙虚であり、過ちを認め、部下に貢献の余地をつくる。

(C)バイアスへの認識

個人には盲点があること、そしてシステムには欠陥があることを認識し、実力主義を徹底するために尽力している。

(D)他者への好奇心

他者にオープンな姿勢と強い好奇心を示し、人の言葉に是非を問わずに耳を傾け、共感を持って周囲の人を理解しようと努めている。

(E)文化的知性

他者の文化に配慮し、必要に応じて適応している。

(F)効果的なチームワーク

部下に権限を持たせ、思考の多様性と心理的安全性に気を配り、チームの結束に重点を置いている。

 

具体的な行動様式の一部を見てみましょう。

(A)自分の知らない情報について、率直に尋ねてくれる。謙虚で気取らない態度で仕事をする。そのため部下は気が楽になり、自分の意見を口に出して表明できるが、それを尊重してくれるリーダーである(心理的安全性がある)

(B)異なる文化の特徴(共通の言語、慣用句、慣習、好き嫌い)と文化的重要事項を学ぶために時間を費やす(それってどういうこと、と率直に尋ねる)

(C)部下を一人の人間として認識する。例えば、100人超のチームを率いているにもかかわらず、一人ひとりを名前で呼び、個々人の仕事の流れと内容を把握している。

 

逆にダメダメなリーダーの行動は以下のようなものです。

(A)威圧的である。歯に衣着せず、威圧的であるため、周囲の人は会議で意見を述べづらく、会話に参加しにくい。

(B)依怙贔屓をする。毎回同じ業績優秀者に仕事を割り当てるため、仕事の負荷が持続できない状態になる。チームの新しい人に、実力を証明するチャンスを与えない。

(C)異なる意見を無視する。特定の事項に関して非常に凝り固まった考えを持っており、別の意見を理解してもらうのが難しいことがある。部下が疑問の声を飲み込む、あるいは異なる見解の提示を差し控えるといったリスクがある。

 

いやー、思い当たる? なんとなく集団思考(グループ・シンク)に陥ったダメダメ集団を思い出しますね。

JoyBizでは、アンコンシャスバイアスを理解しそれを修正することや、日本文化の集団主義の弊害などについて、さまざまな機会を通して発信していますが、組織のレジリエンスを高めていくには、単に構造的な側面をいじるだけでなく、組織は人間集団であるという本質を忘れずに「人および関係性(ヒューマンプロセス)」に対処していくことが大事なんですね。

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。