• ポスト・コロナの組織を考える⑨~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【78】~

ポスト・コロナの組織を考える⑨~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【78】~

~個人の逸脱を許容する

前回までに、「意識の発達とは、結局、私たちが所属する共同体(チーム、組織、地域社会、国家、地球全体)に対する責任意識の発達ではないか。」というところまで来ました。これは、個人は共同体の進む方向に対して一人ひとりが責任を持っているということと、共同体のリーダーは共同体が進む方向に対して常に共同体メンバーに問いかけ続ける必要があるという考え方が前提にあります。共同体の構成員たる個人もリーダーも共同体の一員であることに変わりはありません。

しかし、共同体はその意図に関わらず、共同体が置かれていた過去の環境とは異なる世界の中で「共同の営み」を続けていかなくてはならないこともあります。そうすると、目的を具現化するために考案され運用されていたそれまでのさまざまな仕組みや制度、人々の関係性は新しい環境下では機能しなくなるし、むしろ阻害要因になることもあります。そのような時に私たちは古い仕組みや規範を廃棄し、新しい仕組みや規範を創造していく必要に迫られます。

そのような場合、共同体の中では葛藤が生み出されます。社会や組織の変化あるいは進化は、この葛藤という混乱から試行錯誤の実践を通して生み出されます。もちろん、望ましい組織は「誰でもが主体的に変化を起こすことを許容する社会であり組織」です。これが、自律共創型組織です。平たく言えば、誰しもがリーダーシップをとってよいし、またそれを許容する社会であり組織が望ましいという事です。

 

例えば今回のコロナ禍では、中国武漢で若い医師が原因不明の肺炎の発生に警鐘を鳴らしました。この医師とは、武漢市中心医院の眼科医だった李文亮氏(享年34歳)です。記事によれば、李医師は、まだ中国政府が新型コロナウイルスによる肺炎の発生を公式に認めていなかった去年12月30日の段階で、「市場で7人のSARS(重症急性呼吸器症候群)感染が確認された」などの情報をSNS上のグループチャットに発信しました。これが、個人の逸脱を許容するという意味です。

~中央統制の限界

李医師の行動は、同僚の医師たちに防疫措置を採るよう注意喚起するのが目的だったのでしょうが、しかし4日後の1月3日、李医師が受けたのは賞賛ではなく、地元警察からの呼び出しでした。中央政府も後に調査を行い、李医師の行動を肯定していますが、訓戒によって李医師が口をつぐんでしまった事態が招いた結果についての検証はなされていません。中国政府にとって、中央集権体制の不備が露呈する方が脅威なのでしょう。

 

限定合理性という概念があります。これは1947年にハーバート・サイモンが提唱した人間の認識能力についての概念です。その意味は「合理的であろうと意図するけれども、認識能力の限界によって、限られた合理性しか経済主体が持ち得ないことを表す」というものですが、意思決定プロセス一般について応用可能な概念です。

平たく言うと「俺ら、ちゃんと全体を見て意思決定してるんだよ」と、思っていてもヌケモレや間違いはあるという事です。

~個人の逸脱を組織マネジメントの視点から考える

国家や地域社会以上に目的的な集団である企業組織は、どうしても目的達成のために手段化した目標や業務運営方法に囚われた仕事の仕方になってしまいます。その中では、認められた権威である上司に言われたことを確実に遂行し結果を出す、という思考と行動が賞賛されます。

組織には必ずと言って良いほど二種類の人がいます。それは、「言われたとおりに間違いなくやる人」と、「言われたことはそうだなと思いながらも、違う目的や方法があるかもしれないと考えてみる人」です。後者は間違いなく「面倒」であり、そんなことを考えてうだうだ言っている奴は「面倒なヤツ、理屈っぽい奴」なんですよ。私は後者なんですけどね。

以前のODメディアで紹介しましたが、梅棹忠夫先生の言を借りれば前者は武人の思考で、後者は文人の思考です。そして、組織が健全な持続的成長を遂げていくには、両者の思考と行動が融合あるいは両立することが可能な環境を創っていく必要があります。

これをもっと平易な喩えでいうと「我は我、君は君、されど仲良し」「純金組織は弱い。合金組織こそが強い」「原則禁止例外容認、ではなく、原則自由弊害防止の組織にしよう」というようなことになります。

 

ポスト・コロナひょっとするとWithコロナの組織は、ほぼ間違いなく従来の当たり前の変革を試行錯誤しながら創造していくことが求められます。そしてこのような変革で重要なのが蓄積されたリソースと人々の挑戦の共創です。どのような世界であれ、既存の仕組みを変革していくにはリソースが必要です。

そしてそれは、既存世界や秩序の中で資本蓄積を実現させた組織や集団が担うことができるものです。そしてもう一つ必要なのが、変化を起こす新しいパラダイムを創造する個人です。

 

例えば、島根県海士町の社会変革は、他所から入った若者と地域の行政が融合して変革を起こしています。東京出身の岩本さんが、2006年5月から、町の教育改革の一環で進められていた「人間力推進プロジェクト」の講師として招かれさまざまな企画に挑戦していきます。この中でも有名なのが「島前(どうぜん)高校魅力化プロジェクト」です。

このプロジェクトでは、島外から意欲ある生徒を募集する「島留学」をはじめ、地域起業家的人材を育成する新カリキュラムや、学校との連携型公立塾の立ち上げなど、独自の施策を次々と推進しています。この施策の土台を築いたのが、元町長の山内道雄さん(1938年生まれ、島根県海士郡海士村出身)です。余所者と土地の立役者のそれこそ共創です。

One Panasonicという運動の中でインフォーマルなコミュニケーション活動の発起人である濱松さん(現在はPanasonicを退社しOne Japanを立ち上げている)も、Panasonicの人・技術・ブランド・歴史・信頼・お金などの資産はとても重要だったと語っていますし、そもそもOne Panasonic自体は大坪社長(当時)を始めとする経営陣からの発案です。

つまり、啐啄同機(そったくどうき)があるんですね。啐啄同機とは、雛が卵の殻から出てくる時に、親鳥が殻の外側からくちばしで軽く突ついて刺激を与える瞬間を表しています。親と子の絶妙のタイミングが「啐啄同機(そったくどうき)」なのです。啐啄同機がつくれる組織は強い。その為には、マネジメントは日頃から以下の4つを整えておくことが求められます。

・仕事に必要な情報は現場へ降ろすないしはアクセスしやすいようにする。

・仕事で必要な知識やスキルをみんなが持てるようにする。

・自分たちで自分たちの評価ができるようにする。

・意思決定は事が起こっているその場の当事者ができるようにする。

要するに、information、knowledge、evaluation、decisionを現場に降ろすという事です。これがないと、冒頭の共同体に対する責任意識は芽生えません。

 

加えて、リーダーを含めて個々のメンバーは、自分たちの感情的葛藤を自分たち自身で処理できるスキルを開発していくことがとても大切です。それは以下のような能力です。

・チームのメンバーが個人的に脅威を感じていても、チーム全体に、それらの感情を認める気持ちがあり、当事者で感情問題について開放的に話し合うことができる。

・メンバー個々人が、チームが抱える問題に対して自分自身の関わりを認識できれば、チームはお互いの違いを解決するための新しい基盤を持つことができる。

つまり感情というとても厄介な人間の本質的領域から逃げることなく向き合うという態度です。これまでのODメディアで述べてきた言葉を使えば「分かり合えないことを認める対話の実践」です。もちろん、このような思考態度は組織のトップにこそ求められます。

ポスト・コロナの組織論は今回で一区切りですが、書いていて、効果的な組織は個々人の意識の発達と共にあるのだということを、自分でも改めて認識しました。今回のシリーズをお読みいただきありがとうございました。

 

※この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株) 波多江嘉之です