• ポスト・コロナの組織を考える③~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【71】~

ポスト・コロナの組織を考える③~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【71】~

組織は時代やビジネスの要請の中でその在り方を変えていくのか、人々の意識の発達程度に応じてその形態を変化させていくのか、この議論はいろいろと考えさせられます。組織研究は、日本でも様々になされており、その研究発表の場として組織学会というNPO法人があります。

研究のテーマとしては例えば、「見えざる資産」「摺り合わせ」「人本主義」「暗黙知」などがあります。伊丹さんや、加護野さん、野中さん、など錚々たるメンバーをお手本にしながら、またアンチテーゼを唱えながら日本経営に貢献すべくさまざまな論文が発表されています。でも、この場では「意識の発達」と関係づけた研究は、私の知る限りでは無いようです。そこで、ポスト・コロナの組織を考えるうえで「意識の発達」についてどのような概念があるのか見てみたいと思います。

~意識の発達とは何か

意識の発達程度に応じた組織形態というのは、組織学会の研究とはちょっと毛色が異なる研究ですね。そこで、組織論から離れて「人の意識の発達」をどのように捉えていけば良いのかを考えてみたいと思います。まず、アイデンティティやライフサイクル論で有名なE.エリクソンの研究を見てみます。

エリクソンの研究は「心理社会的発達理論」と言われます。これはフロイトが提唱した「心理性的発達理論」を拡張した理論と言われます。フロイトの心理性的発達理論では、人の出生から思春期までの発達を対象とし、自我の発達を性的または生物学的な側面から見ています。性的な側面とは、私たちの発達に伴って性的欲求が充足される身体の部位が変化し、それに応じた人格が形成されると考える理論です。

しかし、エリクソンは、人の発達が加齢に伴う生物学的な成熟や衰退だけでなく、出生から死までの生涯にわたるものであり、社会との相互作用によって進むと考え、心理社会的発達理論を提唱しました。エリクソンの心理社会的発達理論は、成長に向かうためのポジティブな力と退行に向かうネガティブな力がせめぎ合う状態を考察しています。発達段階は8つに区分されます。

(1)乳児期(出生~2歳):基本的信頼vs不信

(2)幼児期前期(2~4歳):自律性vs恥と疑惑

(3)幼児期後期(4~6歳):自主性vs罪悪感

(4)学童期(6~12歳):勤勉性vs劣等感

(5)青年期(12~22歳):同一性vs同一性拡散

(6)成人期(22~40歳):親密性vs孤独

(7)壮年期、成人期後期(40~64歳):世代性vs停滞性

(8)老年期(65歳以降):自己統合vs絶望

 

このポジティブとネガティブの葛藤を乗り越えていくプロセスにこそ、私たちの心理的な発達があるというものですね。私も前職で、キャリア開発プログラムをデザインした時に基礎理論にしました。

 

最近の成人発達理論では、R.キーガンが人気なようです。彼は、成人発達を「知識やスキルの獲得を目指す、水平的成長」と「人としての器が拡大する、垂直的成長」の2つの軸から見ています。成長段階は幾つかの分け方がありますが、ここでは彼の著書である『なぜ人と組織は変われないのか』(英知出版)に書かれてある「3段階」を確認しておきます。

(1)環境順応型知性:チーム・プレイヤー、忠実な部下。

(2)自己主導型知性:導き方を学ぶリーダー

(3)自己変容型知性:学ぶことによって導くリーダー

 

このような意識の発達については孔子の論語にもありますね。孔子が晩年に振り返って言ったことばとされていますが、「子曰く、吾十有五にして学に志す、三十にして立つ、四十にして惑わず、五十にして天命を知る、六十にして耳順う、七十にして心の欲する所に従えども、矩を踰えず」ですね。

 

今回取り上げた理論の詳細はそれぞれ文献を見ていただくとして、意識の発達がどういう事かは分かります。そこで、この意識の発達と組織運営についてもう一つ見ておく必要があると思うのは、私たちの「自由、責任、依存、自律」というような問題です。

このような視点でのマネジメントで、多分、もっとも有名なのがマグレガーのX理論とY理論じゃないかと思います。1950年代のアメリカのマネジャークラスの人間観/メンタルモデルを概念化したものですが、XメンタルモデルとYメンタルモデルでは、マネジメントの在り方が当然異なりますよね。Xメンタルモデルでは、いわゆるマイクロマネジメントが当たり前になります。

このように、私たちのメンタルモデル(意識や認識)の在り方の違いにより、組織運営の方法も変わってきますね。組織形態に私たちの意識的側面の発達がどのように関係してくるのか、次回も続きます。

 

※この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株) 波多江嘉之です