• 組織開発(OD)からポジティブ組織開発(POD)へ-その5~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【66】~

組織開発(OD)からポジティブ組織開発(POD)へ-その5~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【66】~

~ポジティブリーダーシップ

PODのコアとなる概念であり実践がポジティブリーダーシップです。ポジティブリーダーシップはスキルではありません。自分を取り巻く世界に対する真摯で深遠な洞察と、それに基づく心からの志と行動です。だから、1日や2日の研修やトレーニングで身につけられるようなものではないのです。様々な多くの人達との出会いと体験、そして困難に立ち向かいむしろ闘争と言えるような経験をしていく過程の中で身につき、自然と発揮しているようなリーダーシップです。

ポジティブリーダーシップは内なる志を追求していくプロセスですが、それは慈善ではありません。アフガンの中村さんの行いも経済的価値を生み出しています。だから人々は戦争に行かず生まれた土地に戻ってくるのです。

 

QuinnやCameronの論文Higher Purpose Changes Everythingでは、ビジネスの世界におけるポジティブリーダーシップの事例としてサウスウエスト航空を取り上げています。創業メンバーであり立役者のかつてのCEOハーブ・ケレハーは、もともとはテキサス州の銀行家であるジョン・パーカーが航空会社設立の話を持ち掛けた、サンアントニオで小規模な航空会社を経営するロリン・キングの顧問弁護士だった人ですが、口説かれて経営に参画しました。なんでも、キングとケレハーは最初の構想を紙ナプキンに書いて意思決定したそうです(amazonのべゾスも紙ナプキンですね。紙ナプキンに書くと成功する?)。

ところが事はうまく運ばず、競合3社と運航許認可をめぐり法廷バトルを繰り広げるのです。法廷闘争で金がなくなり、3人のレイオフをしています(SW航空での唯一のレイオフ)。そのような艱難辛苦を経て「誰でもが安価(バス並み)に移動できる」を目標にして、SW航空は離陸していくのです。このあたりの件はWikipediaに詳しく乗っています。破天荒という本も出ています。

 

東京大田区にある弁当屋の玉子屋、1日7万食をつくり平均廃棄ロス0.1%未満というすごい会社です。この会社大田区の弁当屋ですから、創業時は大卒での人材なんて入ってこないんですよ。だから社員は大田区の暴走族とか、ひねくれていた悪ガキ連中です。この会社の悪ガキ、お客さんから「ありがとう」と言われて感激。今まで感謝された経験がなかったからまた頑張る。

ある時この玉子屋、食中毒事件を発生させ一週間の営業停止を食らっています。ほとんど倒産の憂き目にあっているのですね。創業者の菅原勇継氏曰く「そんな時、悪ガキの社員がお客さんに土下座してお詫びして回ってくれた。自分も一緒に回ったがあの事件があって今の玉子屋がある」そうです。菅原勇継氏は、やるべきことを持つ元気な若者は必ず成長し社会に貢献する、といいます。

菅原勇継氏の語録には「会社(だけ)の繁栄に価値はない。答えがないから面白い」というのがあるようです。菅原勇継氏は「みんな楽しく働いて家一軒持てて、夫婦仲睦ましく暮らしてもらえるのが私の務めだと」と言うのだそうです。限界を見極めながら、でも強みを活かしていくのですね。英語でAppreciative Inquiryの事例にもなっているようです。

 

玉子屋は現在ご子息が継いでいますが、ご子息は弁当屋という商売が嫌いで最初は銀行に就職しています。しかし、銀行で仕事をしていくうちに実家の仕事が高い評価を受けていることを知るようになり、後を継ぐことを親父さんに伝えるのです。親父さんも、それまで一言も「後を継いでほしい」とは言っていないようです。

そして、息子は親父さんの理念と企業文化を継承しつつ、それをもっと生かせる新しい仕組みを構築し業績を飛躍的に伸ばしていきます。親父さんからは「私を完全に超えていますね」と言われるまでになりました。

 

SW航空(H.ケレハー)も玉子屋(菅原勇継)も従来のマネジメントモデルからすれば異端児です。しかし「ポジティブなバイアス」というメガネを掛けてみてみると、違った世界が見えてくるのですね。…続く

 

※この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株) 波多江嘉之です