• 組織開発(OD)からポジティブ組織開発(POD)へ-その3~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【64】~

組織開発(OD)からポジティブ組織開発(POD)へ-その3~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【64】~

~ポジティブ組織開発のポイント

ODメディア52回でポジティブ組織開発(以下POD)について書きましたが、改めてPODのポイントを押さえておきたいと思います。

このシリーズで「悠長に、トップ主導の組織変革を待っている暇はない。」と書いたことがあります。誤解があるといけないので一応お断りしておきますが、組織変革(OC)がダメってことを言っているわけではないんです。わざわざ何年に1回かのOCをやらなくてもよい組織にしておくことが大切という事なんです、真意は。要するに、組織のどの階層からでも変化を起こしていく組織づくりができている必要がある、困難な挑戦ですがこれがポジティブ組織開発(POD)だといえます。

 

PODは、POS(ポジティブ組織研究)から始まるのですが、POSは組織の様々な動きをポジティブなメガネをかけてみてみたら、従来のマネジメント概念とは異なる見方ができるという研究です。ポイントは以下の4つのです(再掲)。

  1. 課題や障害は「厄災や問題」ではなく「機会や強さ」を再確認し構築する経験になる。
  2. 非常に優れた成果はプラスに逸脱した個々人の動きから生み出される。
  3. 個人のポジティブな行動が人々を巻き込んでより大きなポジティブな“うねり”になる。
  4. 人々を導くのは善良さあるいは徳という概念に裏付けられた目的である。

この極めつけの体現者が中村哲氏(ペシャワール会、アフガンの聖人)の物語でしょう。

中村氏の残した言葉に次のようなものがあります。『人々は食えないから傭兵として出稼ぎに出る。そして、したくもない戦争に加担する。ならば、食えるようにすることが戦争を無くす手段である。食えるようになれば、人々はもっとより良い社会を目指そうとする』、『一隅を照らす。誰もがそこへ行かぬから、我々がゆく。 誰もしないから、我々がする』。

確かに誰しもが、POSが主張しているようにはなれないし、中村さんのようにはなれないでしょう。またそれを選択しないかもしれません。しかし、POSの4つのポイントに組織が自律的により良い状態を目指して変革していける鍵があることは間違いないようです。

~計画的変革からポジティブ組織開発への展開

最近日本では、診断型ODと対話型ODという概念でこれからの組織開発に対する方法論の変化を理解しようとする流れがあります。この背景には組織の見方についての違いを理解しておくことが必要です。前回も書きましたが、診断型ODはシステムとしての組織を前提とし、対話型ODは社会構成主義を前提とした組織の見方をしています。組織変革(OC)は診断型組織開発の文脈の上に成り立つODであり、PODは社会構成主義の上に成り立つODです。そして加えて言うならPODは対話だけでなく実践を重視します。あえて言うなら実践型OD(Practical OD)でしょうか。

 

私、為末大さんのTwitterをよく見ているのですが、先日彼がアスリートの生存戦略は「対話と多様な体験」にあるのではないかと主張していました。そして「対話だけでは視野が狭く経験だけでは軸がない」とも言っています。また、自分を知るために大事なことは限界(挫折)を知ることであり、それにはやりたいことに本当に挑戦したうえでの強い敗北体験が必要で、これは通常の教育では得られにくいのではないかと言っています。なるほど、スポーツの世界も同じですね。

 

さて、硬直した組織の問題解決は、最初は多くの場合トップの意図的介入からスタートします。要するに組織変革(OC)の始まりですね。この時ODメディアの3で紹介したように、「組織の当事者たちが何を変えるか決め」「トップマネジメント/リーダーがプロセスを管理する」という状態に持っていければ、組織の自律的変化への道筋が描けます。

このプロセスがうまくいかず、トップが脚光を浴びたままで変化の主役が組織のさまざまな現場に移っていかないと、より良い組織づくりは持続しません。持続的変化には、各職場から「こんなこともいいんじゃない?」という個人のポジティブな逸脱とそれに対するメンバーの共感的行動が生み出される必要があるのです。このような新しい文化・行動規範・価値観が生まれるとそれはPODになっていき、人々の実践の中で組織に新しいナラティブが生まれてきます。

PODのベースにある組織研究は、成長する組織理論の研究ではなく、人間のベストな状態を探る研究です。そして、傑出した個人の育成につながる組織の原動力(ダイナミクス)を生み出すことにより、一瞬の組織整合性ではなく、変化対応力のある組織づくりをしていこうとするものです。

持続的な組織成長の根本は人間がベストな状態にあることなのかもしれませんね。だって、組織を動かしていくのは人間ですから。…続く

 

 

※この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株) 波多江嘉之です。