• 価値観を見直す~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【60】~

価値観を見直す~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【60】~

~価値観の見直しは仕事の見直しだ

組織開発(OD)の実践の中に価値観を見直すというものがあります。通常、ODは従来の組織行動を変革しなければならないときに活用される手段ですので、リーダーシップや組織文化の変革がターゲットになります。そのような場合、議論の入り口として組織運営の価値観が議論されます。皆さんの組織では如何でしょうか。ただ、これは入り口であって価値観を検討し行動規範として文章化したからお終いではないのです。

 

とある会社で従来のマネジメントでは先々の成長が危ういという社長の問題意識があり、役員・部長クラスの研修を実施させていただいたことがあります。問題意識の一つに「役員、部長クラスがなんでも俺にお伺いを立ててくる」というのがあり、自分たちで意思決定してもらいたいというのがありました。

また他にも部門の協働関係が十分ではなく、もっと全体のことを考えてやってもらいたいとか、昔からの慣習だからというだけで深く考えもせずにやっている仕事があるとか、ODアジェンダ満載な会社です。研修会では、こういったことを継続的に考えていく入り口として「価値観」を議論してもらったのです。では、どんな議論のプロセスかというと、以下のようなプロセスです。

 

参加者個々人に、準備してある価値観リスト(70個ぐらいの価値観を表すコトバがリスト化してある)を参考に、「これまで会社が大切にしていた価値観」「自分が大切にする価値観」「会社がこれから大切にすべき価値観」を書き出してもらい、最終的には「会社がこれから大切にすべき価値観」を参加者全員で議論して5~6つ選択する、というプロセスです。(全体で3時間ぐらいの討議)

 

本番は実はここからです。価値観とは「善・悪、好ましいこと・好ましくないこと、といった価値」を決める判断基準ですが、価値観を示す単語が指し示す意味は人によって受け止め方が異なる場合があります。従って、単語としての価値観を表す言葉、例えば「革新」は我社では具体的にどういうことなのかを平たく説明する文章を付け加え、それをもって仕事/働き方の見直しにつなげていくことが望ましいのです。

~価値観を神棚に飾らない

価値観の形成は、現実には様々な経路がありますが、組織体においてはその組織の「成功・失敗の歴史」、「トップマネジメントの言動」などは、価値観の形成に色濃く影響を与えます。そして、人々が抱く価値観は具体的な行動となり、「会社のライフスタイル」や「仕事の仕方」などになって現れます。逆に言えば、新しい価値観が合意されたら、その新しい価値観に則り仕事の仕方を見直す、今風に言えば「働き方改革」につなげていくべきなのです。

ところが、どうも価値観は組織運営の上位概念たる「ミッション:組織の使命/存在目的」「ビジョン:組織の目指すところ」の次に来る「組織運営の基本的価値観」としてHPに載るもので終わっているのではないでしょうか。これではもったいない。

「革新」という価値観は、うちの部署に当てはめると、どういうこと? 疑問を持って仕事をするという事か? 何が価値を生み出す仕事なのか見直すという事か? じゃ、仕事の棚卸をやってみるか?

「多様性」って何? いろいろな特技を持った人を採用するってこと? 個々人の個性を重んじるってこと? どういうこと?

 

こんな議論を持続的にやっていくことがとっても大切なのです。ところが「価値観は抽象的だよね。もっと、専門的に実務的に問題解決すべきだよね」となることが多い。でも、この「価値観ベースでの議論は抽象的だよね。もっと、専門的に実務的に問題解決すべきだよね」という事自体、その人の「専門性が大事」という価値観を表しているのではないでしょうか。そしてそれは、ハイフェッツが言うところの「技術的問題解決」に終始してしまう危険が多いのではないでしょうか。

価値観は多元的であり、それこそ多様です。だからこそ、組織で大切にすべき価値観を徹底的に議論することは、仕事を見直し、価値を生み出す仕事とは何かを明確にし、延いては組織のパフォーマンスを高めることにつながるのですけどね。

 

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。