• オープンネスの実現~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【58】~

オープンネスの実現~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【58】~

前回のODメディアでは、良いチームワークはオープンネスがもたらすという事を書きました。

簡単に振り返ると、チームメンバーの誰かにチーム運営に対して不安や恐れがあり、それを表明できないと、チームは柔軟性がなくなりチームの力は弱くなってくる。だからチームワークを良くするには、チームのメンバーが個人的に脅威を感じていても、お互いにそれを認めることが出来るほどオープンになっている。そしてチーム全体に、それらの感情を認める気持ちがあるというのが大切である、というものでした。

そして、最も大切なことは「チーム活動において一人ひとりが、なぜそのような態度や行動を取ってしまうのか、ということに対する気づきを高めれば、問題はみんなで協働して解決するものになる」というものです。では、この「オープンネス」はどうやって実現すればよいのでしょうか。問題はそこです。

 

1963年、西日本鉄道自動車局におけるバス事故防止に関するアクション・リサーチが始まりました。当時、福岡のバス運転手の運転は荒っぽかったんですね。それで事故もよく起こしていた。そこである方法が採用されました。それは、事故をよく起こす運転手を集めて実施された集団意思決定という手法です。これは九大の故・三隅二不二教授にルーツを持つ集団力学研究所の指導の下に実施されたのですが、掻い摘んで当時の様子を描写すると以下の通りです。

①対象者が集められる。

②なぜこの場があるのか、その趣旨を説明される。

③ファシリテーターと共に、みんなが円陣を組んで座る。

④ファシリテーターから事故を減らすにはどうしたらよいか、みんなで話し合ってくださいと言われる。

⑤みんなの沈黙が続く。

⑥他人事みたいな話が始まる。

⑦そのうち誰かが自分のことについて語りだす。

⑧みんなが事故を起こした自分のことについて語りだす。

⑨みんなで事故を起こさないよう自己管理が大切という誓いを立てる。

というようなものです。概ね4時間くらいの話し合いだったそうです。

結果はどうなったか。実験6カ月前の有責事故件数35件が、6カ月後には11件に減少しました。期間を前後10ケ月で見ると70件に対して14件に減少しました。

その後、この集団決定手法は三菱重工長崎造船所における安全管理の質的向上に活用され、小集団活動として日本の産業界に浸透していくこととなります。

この実証研究は「集団決定法」の効果に対するものですが、集団決定のプロセスを見てみると、被験者が自分のことを話しだす⑦~⑧の段階でオープンネスが生成していることが分かります。

※詳しくは「事故予防の行動科学P128~P131:三隅二不二他 福村出版1988年」を参照してください。

 

W.シュッツによればオープンネスには以下のような7段階のレベルがあります。

- 気づいていない、自己欺瞞

0 隠している、言わない

1 相手のせいにする

2 自分の気持ちを話す

3 自分の気持ちの理由を言う

4 あなたが私をどのように見ているかを話す

5 自分が自分をどう見ているかを話す

 

レベル5の自分が自分をどう見ているかを話すとは、自己評価への自分なりの捉え方を話すという事です。それは、自己効力感や自己肯定感に対する自分自身の見方の吐露です。

例えば、「あなたが私を嫌っているように思えるのは、実は私が自分自身を自分で受け入れていないからです。私は、あなたがこんな私を認めることがあるなんて信じられないんです。だから、本当はあなたのせいではなく、私が私を受容していないのが問題なんです」というようなことです。

これ、きついと思いませんか。いやー、きついよ。今風に言えばロバート・キーガンの「なぜ、弱さを見せあえる組織が強いのか」に通じるんですよ。そして、日本企業は集団決定として半世紀前に実践してるんですよ。

このようにオープンネスは関係性の中で理解すべきものですが、最後はやっぱり自己との対話になるんですね。自己との対話になるとどうなるか、それは各人が他者を非難するのではなく自分はどうすべきかを考え実践するようになる。これを全員が実践するとそりゃパフォーマンスが高いチームになりますよね。

組織開発(OD)をファシリテーションする人たちは、このような対話ができる場づくりをしていく必要があります。その為には、ファシリテーター自身がそのような体験をしていることが求められます。そうすることで、ファシリテーターはシャインが言うところの「内面のプロセス」というファシリテーター自身がグループに関わるときに持ってしまうバイアスや行動選択のクセを自覚しておくことがとても大切です。適応を要する問題の解決には欠かせないスタンスになります。

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。