• ポジティブ組織開発(POD)~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【52】~

ポジティブ組織開発(POD)~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【52】~

今年最後のODメディアです。今回は、ODの実践ではなく今後の組織開発(OD)の重要なコンセプト・哲学となるであろうポジティブ組織開発についてです。

 

弊社は、20191214日からポジティブ組織開発実践講座をスタートさせました。この講座は、日本ポジティブ心理学協会様とコラボし、甲南大学の西川耕平教授と私:波多江の二人が講師として実施する全5回の公開講座です。中心テーマは組織開発において「ポジティブ」という事をどのように捉えて実践していくかという講座です。内容は、西川先生がアカデミックな研究内容の紹介と解釈を担当し、波多江は実践からの学びや実践にどのようにつなげていくのかを担当しています。

ポジティブ組織開発の眼目は「ポジティブ」をどのように捉えていくかです。キム・S・キャメロン、グレッチェン・M・スプリッツァーなどによるポジティブ組織研究(POS)によればそれは以下の4つの意味に収斂しています。

Positiveというメガネをかけて組織活動を見ることで、課題や障害は「厄災や問題」ではなく「機会や強さ」を再確認し構築する経験になる。

非常に優れた成果や肯定的/プラスに逸脱したパフォーマンスはどのようにして生み出されたのかに焦点をあてる。

積極性や機知に富んだ行動が個人や集団・組織の持つリソースや能力をどのように広げ・構築し強化されるのかに焦点をあてる。

善良さあるいは徳という概念に焦点をあて、組織がより良い状態を目指すことを奨励する。

これだけではなかなかに難しいですね。そこで、波多江なりに解釈を加えて以下述べてみたいと思います。

~マネジメントの歴史を振り返る

まず大前提として、管理技術つまりマネジメントの役割を、簡単に歴史を追って見ていきます。1900年初頭に戻りましょう。この時代に管理技術が飛躍的に発展します。

管理技術とは、大規模生産が出現し、かつて職人任せであった作業を管理可能な範囲に分離し、この分業化された仕事の管理を支える技術を指します。ここに「仕事と組織を取り扱う技術」体系が生まれます。これが、経営管理=マネジメントの始まりです。誰もが高い生産性で仕事をしてもらえるように、効率的(仕事の成果と投入するコストの割合)、および能率的(一定時間内での仕事量)に仕事をしていく方法を考え実践するのが管理です。そして、この技術は第一次大戦の際、男性熟練工が戦地に駆り出され、未熟練の女性や子供が生産に従事するようになり、その役割がますます重要になりました。

そして、1900年から1930年にかけて管理技法に関する多くの研究がなされます。その中でも重要な研究が以下の3つの研究です。

F.テイラーの科学的管理法。作業者の自己責任を否定し、管理は管理者が専門的に行う。客観的で科学的な管理。

H.フェイヨールの管理過程論。彼は企業活動を以下の6つに分類。技術的側面、商業的側面、財務的側面、保全的側面、会計的側面、管理的側面。その中で、管理的側面を管理過程論として、「計画する、組織化する、実施する、調整する、統制する」の5つに分類。

エルトン・メイヨー、レスリス・バーガーらによるホーソン実験。これは、作業における物理的環境と作業能率、従業員の心理的側面/モチベーション、人間関係と能率・効率、集団の規範的側面などの関係を調べた実験。この実験により仕事における人間的側面の重要性が理解されるようになる。

 

この時代のマネジメント実践で、近代にまで影響を与えているのが、フォード自動車の流れ作業(この時期の代表車種フォードモデルTは1908年に発売され、以後1927年まで基本的なモデルチェンジのないまま、1,500万7,033台が生産された)やGMの組織管理手法です。この流れを見て分かるようにマネジメントの中心は、効率・能率を高める研究であり、その実践です。

フォードはこれに出来高払いという報酬制度を加え、GMは複数車種による市場拡大を可能にするために組織運営の統制(control)を重視するというマネジメントを確立させていきます。このような考え方や経営モデルはフォーディズム(Fordism)と呼ばれ、現代の資本主義を特徴付ける概念であるともいわれます。

このような中で仕事に従事する人々は、チャップリンのモダンタイムス(1936年)にあるように「歯車」として扱われていたとしても、収入的には年々豊かになり、アメリカでは黄金の60年代を迎えるのです。そして、この時代に確立されたマネジメント・パラダイムとシステムは長く私たちの思考を支配していきます。

それから約30年後、ベルリンの壁が壊され、日本は平成になり、産業界ではサービスの重要性が増し、インターネットが出現し、グローバルが進展し、競争はますます激しくなり、リーマンショック以降の先進国(アメリカ、EU、日本)は自分たちのこれまでのやり方に疑問を持ち出し、中国が台頭し、環境破壊や温暖化に対する対応が急務となり、つまり従来のパラダイムが壊されているのです。そんな時に、マネジメントが「効率、能率、統制(逸脱はダメ)」という文脈で語られていた組織モデルを維持できるのかという大いなる疑問が沸き起こるのは必然であるといえます。

POB (ポジティブ組織行動)やPOS(ポジティブ組織研究)は2000年前後から研究が始まっています。しかし、1980年代後半から必ずしもポジティブという言葉は使っていませんがマネジメントの未来に対する研究の歴史があります。それは、P.ブロック(21世紀のリーダーシップ)、P.センゲ(学習する組織)、S.ゴシャール、C.バートレット(個を活かす企業)、また近年ではU理論のO.シャーマーなどの研究や主張です。

日本的に言えば、それは「理念経営」です(ミッション経営のすすめ:小野桂之介、慶応大学名誉教授など)。その他、ODに関する多くの研究者や実践家の主張です。

このような研究の共通点は、組織科学研究で使う成果・結果変数である「収益性・競争優位性・問題解決・経済効率」に焦点をあてるのではなく、人間のベストな状態・人間の持続可能性を重要な研究テーマにしていることです。それは、心理的・社会的、そして社会的統合・社会貢献・社会的一貫性・社会的実現・社会的受容などであり、マネジメントの世界では、仕事の満足度・正義・チームワークなどの成果・結果に対する研究です。

~PODは私たちの可能性を開放する事

このように見ていくとポジティブ組織開発には「効率、能率、統制(逸脱はダメ)」とは異なる明確な主張があります。それは、私たち個々人がその可能性を最大限に発揮する組織あるいはマネジメントを創造していくことが、結局は組織の持続性を高めることになるという考え方です。但し「効率、能率、統制(逸脱はダメ)」を全面的に否定しているのではありません。また、コストを気にしないものでもありません。両刀使いを目指すものです。

 

日経ウーマンが選ぶ「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2020」の大賞受賞である小巻亜弥さん。サンリオピューロランドの館長でありサンリオエンターテイメント社長です。彼女は、サンリオピューロランドを立て直したことで有名(NHK 仕事の流儀でも取り上げられる)ですが、彼女の言葉に「会社は人の集まり、そして人は感情の束でできている」というのがあります。これ、当たり前といえば当たり前なのですが、従来の「効率、能率、統制重視のマネジメント」では、分かっているけど重視されていなかったものです。小巻さんが言うように「効率」も大事だが「拘り」も大事ですよね。

『小巻さんが言う拘りとは、例えば河原さんというカメラマンのおじさん。この人のキャラクター愛が半端ない(これが拘り)。効率重視だったときは浮いていた存在だったが、面談で宝物社員がいるということに気づき引き上げる。河原さんもそれに答えて頑張る。河原さん企画の男性限定イベントは大成功。』

 

ポジティブ組織開発(POD)は、人の可能性を花開かせることに焦点をあてるのです。但し、それは必ずしも人にやさしいモデルではありません。E.フロムの名著「自由からの逃走」にあるように、人は自由になることを望みながら、いざその状況になると不安や恐れを感じ、誰かあるいは何かに依存してしまうのです。

本当に自由になるという事は、自分の人生に責任を持つという事でもあります。この覚悟ができて初めて私たちは自分自身を開放することができます。つまり、自分自身であることができるのです。これはなかなかに厳しいことなのです。集団や組織がこのような個人の集まりであると、それは健全で強くレジリエンスが高い集団や組織になるでしょう。

卑近な例では、2019年ラグビーワールドカップの日本がそれを体現していると思います。OneTeamとは、みんなが同じことをするチームではなく、同じ目的を共有し、メンバーがそれぞれの役割を理解しながらも時にポジティブな逸脱行動(柔軟な行動でチームの勝利に貢献)をして、組織として自在に動くことができている協働状態を言います。ポジティブ組織開発(POD)が目指す分かりやすい一つの形なのではないでしょうか。

このようなチームは、メンバーの達成感や一体感が高く、それは見ている人にもポジティブな影響を与えます。ところが、私たちはこういうことを頭で分かっていても、ついついそこから逃げてしまいます。例えば、高い目標に対して言い訳して現実的目標にするとか(現実的戦略)、失敗しないようにできることに注力するとか(失敗しない戦略)、あるいは、むやみやたらに頑張り意図しない問題を引き起こすとか(やみくも頑張り戦略)です。

そんな中、今までは私たちが分かっていてもできなかった、していなかったことをラグビーJapanはやったのです(他のチームもそう)。そこに私たちは憧れと敬意を持って共感したのです。だからあんなにも日本中が熱狂したのでしょう。そこには私たちが持っている普遍的な何かが見えたのです。

 

誰しもがPOBやPOSが主張しているようにはなれないし、またそれを選択しないかもしれません。POSの調査によれば、個人よりも集団利益を優先し、グループのために自らを犠牲にする事を厭わないような人は総人口の18%だそうです。しかし、この割合を少しでも増やすことができるアプローチやマネジメントができれば、より持続可能で健全な世界/組織が創造できるでしょう。ポジティブ組織開発(POD)はそのようなことに挑戦していく試みです。

 

ODメディアをお読みいただきありがとうございました。2020年もよろしくお願い致します。

 

  • この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。