• OJTと組織開発~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【51】~

OJTと組織開発~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-【51】~

~OJTを2人の関係にしない

日本に限らないことかもしれませんが、特に日本は従業員の教育・育成にOJTを重視する傾向があります。

曰く、「役職者がプレーヤーとして組織を牽引していたが、その結果として若手・中堅の業務遂行力の低下・当事者意識の不足が著しい」、「上司自身がプレーヤーとして動いていたため、部下育成スキルの不足が目立つ」などなど。

だから、「OJTスキルを上司やリーダークラスに身につけさせる必要がある」というロジックになるのですが果たしてそれでモノゴトが解決するのでしょうか。人が育っていない、現場での教育ができていないという事を「人のせい」にしていいのでしょうか。

 

少しマクロの視点に立てば、職場における人材育成力の低下は「職場の人のせい」にできないことが分かります。それは日本企業が1990年代からの大きな社会的変化に対応しようとしてきた結果、必然的に現在の問題が起きていると言わざるを得ないのです。それは例えば、

  • 組織のスリム化やフラット化による職場の社会的関係の消失。結果、インフォーマルな教育係がいなくなる。上下の良き関係の中でのキャリア形成機会の消失。
  • 成果主義が浸透していく結果、出来る人への仕事の偏り。成長機会の減少。
  • 仕事相手はパソコン画面。ITによるマネジメントが引き起こす「対面での情報共有」の減少。結果としてノウハウの移転機会の減少。

 

こうやって見ていくと職場における育成力の低下は「上司が忙しく、OJTスキルを学ぶ機会がなかった」という事ではないことが分かります。OJTスキルが必要ないとは言いませんが、それ以外の要素が大きく影響を与えているという事を理解すべきであり、職場での部下育成はOJTという考え方(ナラティブ)が強すぎると思うわけです。

立教大学の中原准教授らの調査によると、職場学習には支援関係が重要であるという事が分かっています(中原2010)。それは、個人(被教育者)とその周辺にいる人々との相互作用から成り立ちます。そのポイントは以下の3つです。

  1. 業務に関する助言指導を行う「業務支援」:どうしたらいいですか?⇒こうしたらいいよ、と聞かれた時にタイミングよく教える。
  2. 仕事の在り方を客観的に振り返る「内省支援」:どうしてうまくいったのか(いかなかったのか)を一緒に考える。
  3. 精神的な安息を提供する「精神支援」:大丈夫みんなそうやって大きくなった、など悩みを聴いてあげる。心理的に励ます。

そしてこの中で、上司がポジティブな影響を与えているのは、C)であり、A)に最もプラスの影響を与えていたのは同僚でした。また、仕事での成功・失敗体験の語りは個人の学習にポジティブに働くことがさまざまな調査研究で分かっています。

こうやって見てみると、OJTという言葉に含まれる意味自体を考え直さなくてはならないことも分かります。つまり、OJTは「上下の関係における指導」ではなく、「職場における関係性」という文脈で考える必要があるのではないかという事です。

~当事者間でのガイドラインの引き直し

OJTやコーチング研修は、私もやったことがありますし「ムダ」とは言いませんが、その目的は「人が仕事を通して成長すること」であり、それは「上下の関係」での指導育成に留まらないのです。「上下の関係」での指導育成は、「人が仕事を通して成長すること」に対する手段の一つに過ぎないのです。

考えなくてはならないのは、どうしたら職場が学習を促進する場になるかです。それは職場の当事者たち自身で考え実践するしかありません。ここに、対話とガイドラインの取り決め直しというプロセスの出番があるのです。それは、OJTこうすべしという教示的な取り決めを浸透させることではなく、「どうしたら職場での学習が促進され、個々人が成長し、生産性が上がるようになるのか」をその職場の現状を出発点として議論していくことが必要なのです。

この問いの中には、当事者が思っている「学習や成長、生産性」という言葉が意味することの内容(ナラティブ)をみんなで出し合い、「そう思う」「いや、こうじゃない?」など、真剣に話し合う(立教の中原さんの言い方を借りると「ガチ対話」)必要があるのです。このような話し合いを続けることで、一人ひとりのナラティブが表に出てきて、それが共有され、新たなナラティブが生まれる、こうしたプロセスから生み出された職場学習の在り方は、OJTの新たなガイドラインとして実践される確率が高くなるでしょう。

事業や職場環境が大きく変わっている現在、過去のOJTのナラティブで組み立てられた研修を実施しても、それは職場の現状に合わない可能性が高いのです。そんな時に、研修を受けた人たちに「理解が低い」「もっと自分たちで工夫してやれ」とか、「この前の研修はちょっとダメだったな、他のプログラムを探そう」では問題解決に繋がらないのですよ。そもそものナラティブ/パラダイムを変えていくような取り組みが求められているのではないでしょうか。

 

この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。