• チェンジ・エージェントの必要性②~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-㊽~

チェンジ・エージェントの必要性②~組織開発(OD)の実践って、どうするの?-㊽~

~対人関係能力と政治明敏性

チェンジ・エージェントにとって常に付きまとうのが「誰が、第三者の支援を必要としているか?」です。チェンジ・エージェントは外部の人間ですから、自分に意思決定権はないのですよ。できるのは、より良い判断を促すために役に立つ情報提供をすることなんですね。そして、より良い情報提供をするためにはクライアントの状況をよく理解することがチェンジ・エージェントには求められますが、そもそもこの情報をチェンジ・エージェントは持ち得ていない。

ですから勢い、お会いしているクライアントの窓口の人の話から、クライアントの状況を伺うしかないわけです。つまりスタート時点は、とても限られた二次情報の中でクライアントとの関わりが始まることが多いという事になります。限られた情報を、外部のチェンジ・エージェントは、自分が持っている価値判断基準に基づいて理解し支援計画をデザインするという、非常に危なっかしいことをやらざるを得ないのです。以前ODメディア⑱で書いた「やってみないと分からない」という現実があるのです。

加えて、支援を必要としている集団と窓口は一致しない事が多いですし、ましてや意思決定者と窓口が同じとも限らない。窓口は評価的に現状を見ているかもしれないし、当事者としてのクライアントの本当のニーズまでわかっていないかもしれない。要するに、複雑な関係なのです。

 

そこで、通常はクライアント窓口にお願いしてクライアントに対する「インタビューによる認知調査」を実施することになります。クライアント側にしてみれば「なんか始まるみたい」となり、この時点ですでにインタビューを始める前とは異なる心情が生まれてきます。インタビューを肯定的に捉える人もいれば、否定的に捉える人もいるでしょう。チェンジ・エージェントとしてこの段階で把握しておきたいことはいろいろありますが、「誰がクリティカル・マス」を握っているかは是非捉えていきたい情報です。

クリティカル・マスは、マーケティングの世界ではある商品やサービスが爆発的に普及するために必要な普及率というような意味で用いられますが、組織開発(OD)の場合は、当該組織が変化していくために必要な影響力という意味で使います。要するに、誰が強い影響力を持っているか、誰と誰が賛成したらポジティブに動き出すのか(反対するのか)を見極めるのです。この見極めを疎かにすると後々えらい目に遭います。

内部の人たちはクリティカル・マスの存在を分かっていますので、クリティカル・マスを握っている人と「対話ができる関係」をどのようにして実現させるのかというシナリオをいろいろと持っておくことが必要になります。チェンジ・エージェントがこの時に求められるのが「対人関係力」と「政治的明敏性」です。私の周囲にいる組織開発(OD)を支援して成果を出している人たちは、この2つの能力が抜群に高い人たちですね。いずれにせよ、このエントリーの段階をクリアーしないことには事は始まらないのです。

~馬には乗ってみよ、人には添うてみよ

組織開発(OD)は、どのようなマインドセットで、どのようなシナリオ(ストーリー)をもって臨むかはとても大切なのです。チェンジ・エージェントはまずこのシナリオ作りをクライアント窓口の人たち(ご担当)と合意する必要があります。

これ、やったことがある人ならお分かりの通り一筋縄ではいかないのですよ。それは、ご担当はご担当としてのメンタルモデルをお持ちですから。中には、持論を滔々と述べてそれで自分の好みの介入方法を手伝ってほしいという事だってあります。外部のチェンジ・エージェントとしては、それには一回乗ってみる必要があります。

この段階で外部のチェンジ・エージェントが四の五の言っても始まりません。それはそれで、凝り固まったメガネをかけてクライアントを見ていることになりますから。それに現実問題として、この局面で「あーだ、こーだ」と議論をしても時間の無駄という事もあります。もちろん、あまりに策がないと思える場合は修正を要求しますが、そうでない場合は「では、まずそれでやってみましょう」とスタートした方が賢明かもしれません。

言い方は悪いかもしれませんが「馬には乗ってみよ、人には添うてみよ」です。何事も経験してみなくては本当のところはわからないのだから、当該組織に入りもしないで批判したり評価したりするのは得策じゃありませんね。それで始まったら様々な情報を得ることができますから、そこは軌道修正をかけていく。それくらいの柔軟性は必要ですね。

 

  • この記事の書き手はJoyBizコンサルティング(株)波多江嘉之です。